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資産クラスとしての仮想通貨を評価する

2022-12-31
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ビットコインをはじめとする暗号資産(仮想通貨)は主流になったのでしょうか。機関投資家は仮想通貨を独自の資産クラスとみなす準備ができているのでしょうか。本稿では、ニュースを賑わせている仮想通貨の資産クラスとしての可能性を考察します。

仮想通貨の分析:需要と供給

世界には現在、数千の仮想通貨が存在します。これらの資産を巡り、近年、個人投資家から機関投資家まで幅広い層からの関心が急速に高まっています。本稿では、現在2兆2,000億米ドルに上る市場の約40%を占める代表的な仮想通貨であるビットコインに焦点を当てます。

ファミリーオフィス(富裕層の資産管理)、企業、保険会社、資産運用会社、大手大学基金などの機関投資家は、大規模な仮想通貨関連投資を始めつつあります。特にビットコイン投資には、2020年以降、多くの機関投資家が参加しています。投資参加者はシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)先物やグレースケール・ビットコイン・トラスト(GBTC)を通じて、または取引所でビットコインを直接購入します。

重要なのは、ビットコインが史上初の希少なデジタル資産であり、総供給量が2,100万枚に固定されていることです。ビットコインの新規供給量は、2,100万枚のコインがすべてマイニング(取引データを検証・承認)されるまで、4年ごとに「ハービング(halving)」メカニズムによって半減します。これまでに約1,900万枚のコインがマイニングされており、そのうち約500万枚が消失し、1,000万枚がコールド・ストレージ(安価に長期間保管する方法)に保管され、300万枚近くが取引所に保管されていると考えられています。この希少性こそ、資産クラスとしてのビットコインの可能性にとって極めて重要です。

ビットコインが登場する前は、価値貯蔵手段としてその希少性で評価される希少資産として知られているのは貴金属だけでした。仮想通貨の数が増えるに伴い、こうした環境は急速に変化しています。他の仮想通貨と比較して、ビットコインはネットワーク効果(利用者増加に伴い価値が高まること)が最も高く、時価総額が最も大きいため、投資家から最も高い信頼を得ているとみられます。そして、金の価値を信じるのは他の人も信じているからであるように、ビットコインも特有の信頼から恩恵が見込めると考えます。また、これらの要因に加え、機関投資家の参加が拡大していることから、現時点で他の仮想通貨によって阻止される可能性は低いでしょう

価値貯蔵手段としてのビットコインおよび資産クラスとしての特性

ビットコインを資産クラスとして評価する際の重要なポイントの一つは、価値貯蔵手段としての役割と歴史です。2008年に量的緩和が始まって以来、世界の資産は資産価格インフレを経験してきました。それでも、主要4カ国・地域(G4:日本・米国・ユーロ圏・英国)の中央銀行のバランスシートと比較した各資産のパフォーマンスを見ると、株式は2008年以降横ばいで推移している一方、世界の通貨、金、不動産は下落しています。ビットコインは2008年以降、G4中央銀行のバランスシート拡大を上回る成長率を持つ数少ない資産の一つです¹。

注目すべきは、過去10年間のビットコインの週次リターンは平均して若干プラスであり、リターン分布もややプラスに偏っていることです²。ボラティリティも2014年以降はより安定しており、50%から100%の間で推移し、次第に低下しています³。重要な点として、ビットコインは他の主要な資産クラスとの相関が比較的低いため(相関係数の平均は約0.1)、より分散されたポートフォリオではビットコインの高いボラティリティを軽減することができます(図表1)⁴。

このような過去のパフォーマンス、安定しつつあるボラティリティ、他の資産との低い相関は、価値貯蔵手段としてのビットコインの役割や、仮想通貨が独自の資産クラスであることを強調しています。

図表1
伝統的資産との低い相関

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過去3年間の週次リターンを使用。出所:ブルームバーグのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2021年12月時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

仮想通貨の資産クラスを評価する

機関投資家は、ビットコインのような資産をどう評価すればよいのか頭を悩ましているかもしれません。ビットコインはキャッシュフローを生み出さないため、この資産の将来の潜在的な価格を推定する方法はいくつかあります。金評価法、ストック・トゥ・フローモデル、機関投資家参加法、富裕層参加法という4つの一般的なバリュエーション手法を用いると、2026年までに評価額は10万~50万米ドル以上になると予想されます⁵。留意すべき点として、ストック・トゥ・フローモデルはこのところ、ビットコイン価格を正確に追跡できていません。

仮想通貨は比較的新しい資産クラスであることから、私たちはその将来の可能性を推定するために、こうした様々なバリュエーションモデルを検討する必要があると考えます。

金融の未来とESG

ビットコインはデジタルゴールドのような価値の貯蔵手段であるだけでなく、金融の未来に関するコールオプションでもあると言えるでしょう。過去1年で、仮想通貨のユースケース(使用事例)が急増しています。私たちは、ビットコインが分散型金融(ブロックチェーンを活用し金融機関の仲介なしに無人で金融取引を行う仕組み、DeFi)の未来への扉を開き、新たなトークンやユースケース、そして新たな経済を生み出すと考えています。DeFiは既存の金融システムを根底から覆し、仲介者を排除し、新たな貸借プロトコル、分散型取引所(DEX)、新たな市場の開発に寄与する可能性を秘めているでしょう。

 しかし、同時にこれらの資産は、「仮想通貨は違法行為を助長し、環境に優しくない」という誤解を招き、しばしばESG(環境・社会・ガバナンス)の観点で懸念されてきました。インフレ圧力が高まり、金融体制が安定せず、決済手段が安全でない社会に対して、ビットコインがどう役立つのかを考慮する必要があると私たちは考えます。最終的に、ビットコインのマイニングはますます再生可能エネルギーに依存するようになり、将来のビットコイン購入者は、ESGに準拠したマイニング事業者からコインを調達できるようになるでしょう。

ビットコインの潜在的リスク

ビットコインや仮想通貨の資産クラス全体は歴史が浅いことから、依然として大きなリスクが存在することに留意する必要があります。規制、政府の政策、エコシステムの一部におけるレバレッジ、マクロ経済環境の変化、技術的リスク、ESG懸念などは仮想通貨の資産クラスとしての潜在的なリスクであると考えられます。

まとめ:仮想通貨投資へのインプリケーション

ビットコインをはじめとする仮想通貨は、今後ますます機関投資家の間で浸透し、参加者の増加が期待される新たな資産クラスであります。加えて、専門化や高度化が進み、ユースケース(DeFiやNFTなど)も増えていくと考えられます。今は多くの投資参加者がビットコインの投資機会だけを追求しているかもしれませんが、将来的にデジタル資産を中心にポートフォリオを構築することも視野にいれている可能性もあります。

ビットコインがニュースを賑わせ、様々なバリュエーション手法がその大きな可能性を示しているように、仮想通貨は注目されるようになったばかりです。同時に、この資産クラスには依然としてかなりのリスクが存在することに留意する必要があります。

仮想通貨投資に使われる主な用語

  • ブロックチェーン:「分散型台帳」とも呼ばれ、インターネット上で複数の取り引きの記録の塊(ブロック)を、中央集権型ではなく互いに共有・監視し合いながら正しい記録を時系列に鎖(チェーン)のようにつないで蓄積するデータ管理の仕組みです。ブロックチェーンのネットワークには不特定多数のコンピュータが対等の立場で、データなどをやり取りする方式「P2P(Peer to Peer)」が用いられます。ブロックチェーンは端末間(P2P)の取引情報をネットワーク上に分散させて記録・管理する技術です⁶。
  • プルーフ・オブ・ワーク(PoW):PoWはビットコインで最もよく使用されている合意形成メカニズムであり、ネットワーク上の取り引きの検証や新たなコインのマイニング(取引データを検証・承認)時に、ネットワークの参加者に暗号的証明を解かせるものです。
  • プルーフ・オブ・ステーク(PoS):PoSはイーサリアムのような他の仮想通貨における合意形成メカニズムであり、取り引きの検証や新たなコインのマイニング時に使用されます。この方法は、暗号資産の保有量(すなわち「ステーク」)の大きさに基づいており、PoWよりもエネルギー消費を抑えることができます。
  • オルトコイン:オルトコインとはビットコイン以外の仮想通貨の総称であり、イーサリアム、ソラナ、ステーブルコイン、ミームコインなどがあります。
  • ステーブルコイン:ステーブルコインは、価値を安定させるために米ドル、コモディティ、別の仮想通貨など、他の資産に価値をペッグ(固定)した仮想通貨です。
  • ミームコイン:Dogecoin(DOGE)やSHIBA INU(SHIB)のようなミームコインは、インターネット・ミーム(ネットを通じてから拡散される行動・コンセプト)から生まれた仮想通貨です。機関投資家からは、ビットコインよりもはるかに投機的であると見なされています。
  • 非代替性トークン(ノンファンジブル・トークン、NFT):NFTはデジタル・アートやデジタル音楽など、ブロックチェーン上に保管される唯一無二のデジタル資産です。
  • イーサ:イーサ(イーサリアムと呼ばれる分散型ブロックチェーン・ネットワークで使用される仮想通貨)は2番目に大きな仮想通貨であり、仮想通貨市場の時価総額全体の約20%を占めています。イーサリアムはスマートコントラクト(契約の自動化)を可能にし、PoWの合意形成メカニズムを使用しています。

¹Source: Bloomberg. Data from 30 September 2010 – 31 December 2021, monthly observations. PAST RESULTS ARE NOT NECESSARILY INDICATIVE OF FUTURE RESULTS. ²Source: Bloomberg. Chart data: 1 January 2011 – 31 December 2021.  ³Ibid. ⁴ Sources: Bloomberg, Wellington Management. As of December 2021 for the three years prior using weekly returns. PAST RESULTS ARE NOT NECESSARILY INDICATIVE OF FUTURE RETURNS. ⁵These valuation estimates are based on the gold valuation method, stock-to-flow method, institutional participation method, and high-net-worth participation method from various publicly available sources such as Fidelity Digital Assets and ARK Investment. Data as of 2021. Actual results may vary significantly from forward-looking estimates. ⁶出所:各種情報に基づきウエリントン・マネージメント作成。

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アレクサンダー・チョウ

株式リサーチ・アナリスト
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ランジット・ラマ​チャンドラン

株式リサーチ・アナリスト