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スプリヤ・メノン
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2025年もプライベート市場への配分に関する関心が高まり続けています。過去のリターンや分散投資の観点から多様なアセットオーナーが関心を寄せており、アーリーステージのベンチャーキャピタルから投資適格の私募に至るまで、アセットオーナーは拡大する投資手段を通じてプライベート市場にアクセスしています。
しかし、ポートフォリオのそれぞれ異なる目的を達成するために、プライベート市場への配分規模を適正に設定する方法について、アセットオーナーは十分に理解していないことが多いです。全4回のシリーズでお届けする第1回目では、配分を決定するうえで鍵となる3つの要素、1) 流動性の制約を受け入れる能力、2) 超過リターンの必要性、そして3) 「優良」な投資に継続して配分する能力を評価するための実践的なフレームワークを紹介します。ここでは、アセットオーナーがプライベート資産に配分する主な理由を触れ、プライベート投資への配分規模を決定する際のアプローチを概説します。
プライベート投資は、リターンプレミアムの可能性や分散投資の拡大、そして幅広い投資機会など、アセットオーナーに多くの魅力的な特性を提供します。
リターンプレミアム
プライベート資産は非流動性を特徴としており、歴史的には、ポートフォリオがその非流動性に耐えられれば、アセットオーナーはプレミアムを得ることができました。さらに、プライベート投資ビークルやその投資対象の複雑性、集中度、分散度により、ファクターリスク、特異リスク、運用者のスキル1に由来するプレミアムも非常に大きくなる可能性があります。プライベート市場の投資家は、目標達成のためにどの程度の超過リターンが必要か、また自身のポートフォリオとより長期的な投資期間を整合させる能力があるのかを確認し、定量化する必要があります。
多様性と幅
特記すべき点は、非流動性リスクは市場ベータリスクを分散させる可能性があることです。つまり、アセットオーナーは非流動性リスクを高めることで市場リスクを抑え、同じリターン目標を達成できるということです。さらに、たとえ公開市場における戦略的資産配分(SAA)で十分なリターンが見込める場合でも、プライベート資産への投資は分散や幅をもたらす可能性があります。これは、プライベート投資により、公開市場のポートフォリオではアクセスが難しいアーリーステージに近い企業、異なる業種、その他の市場セグメントへの投資アクセスが可能となるからです。
企業が上場せずにプライベート市場に留まる期間が長くなり、公開企業の数が減少しているため、従来小型株市場で見られた投資機会の一部は、プレIPOやレイターステージのベンチャーキャピタル市場へと移行していると考えられます。また、プライベート投資は価格付けが頻繁ではないため、価格変動が少なく、ボラティリティが低いように見受けられることもあります。それを追加の魅力と捉えるアセットオーナーもいますが、これは見かけ上の効果にすぎず、リバランスや売却によって実現できるものではない点に注意が必要です。
私たちは、多くのアセットオーナーがプライベート資産への投資規模を決定する際、機会費用に基づくアプローチを取るべきだと考えています。これは、SAAプロセスにプライベート資産を組み入れず、SAAの次のステップでプライベート資産への配分規模を検討することを意味します。まず、SAAプロセスを用いてポートフォリオの流動資産における長期的なベータエクスポージャー目標を決定します。その後、ポートフォリオの構築や投資の実行を検討する際に、以下の基準に基づいてプライベート資産の配分を評価・構成します。また、各プライベート投資の資金源を「機会費用」として捉えます。
そもそも、なぜSAAとは別にプライベート資産の投資規模を決定するプロセスを設けているのでしょうか。プライベート資産には、平均分散法に基づく資産配分プロセスに組み込むには適していない特性があります。
これらの要素を考慮し、またプライベート資産の範囲が非常に広範であることから、私たちはプライベート資産のリスク・リターン特性を「ベータ」と「その他」(非流動性プレミアムや特異リスクを含む)に分解することを好みます。分解することで、広範な資産クラスのタイプの中で公開市場とプライベート市場のエクスポージャーを調整する枠組み(例えば、プライベートエクイティを総合的に株式配分の合計の中で考えること)を取得することができます。その後、これらの各資産クラスのエクスポージャーの中で、最適な実行配分(プライベートか公開か)を決定し、運用会社を選定します。このアプローチは、より個別化されたアプローチを必要とすることが多いプライベート資産の特性を考慮に入れているため、投資ガバナンスにとって大きなメリットがあると考えます。
では実際にはどのようになるか見ていきましょう。SAAにおいてプライベート資産への配分規模を決定する際は、アセットオーナーに関する以下の点に基づくべきだと考えます。
図表1
プライベート市場への配分規模の決定
出所:ウエリントン・マネージメント。※上記はあくまで例示目的で示しています。
以下では、各要素を順番に紹介します。
1. 非流動性と複雑性を受け入れる能力
プライベート資産への配分の上限は、アセットオーナーがどれだけの非流動性を合理的に引き受けられるかに基づくべきだと考えます。非流動性がプライベート資産の主要な特性であり、主なリターン要因であることを考慮すると、ポートフォリオがこのリスクに対応する能力を有していることを確認することが極めて重要です。投資規模に影響を与え得る流動性の制限には、主に以下の3つがあります。
本シリーズの第2回では、キャッシュフローと複雑性に関連する考慮事項を主に取り上げます。さらに、プライベート市場の資産の流動性特性(およびそれがアセットオーナーの流動性ニーズとどのように関連しているか)について掘り下げます。このステップの目的は、主にストレステストを通じて、流動性不足に関連する潜在的な負の影響を評価し、それによってプライベート資産への配分の上限を設定することです。
2. 超過リターンの必要性
プライベート資産への配分の下限は、超過リターンに対するポートフォリオの明確なニーズ(および得られるプレミアムの大きさを組み合わせたもの)に基づくべきだと考えます。配分規模を決める際、アセットオーナーがプライベート資産の非流動性と複雑さを引き受けずに目的を達成できるかを分析します。この分析結果は、最小限の配分を決定するうえで役立ちます。なぜなら、ポートフォリオがリターンをさらに高める必要がある場合は、よりリスクの高い資産(例えば株式)や流動性の低い資産を通じてリスクを高める必要があるからです。
プライベート資産への投資を合理化するためには、アセットオーナーはリスク調整後のリターンプレミアムが存在し、それが持続可能で実現可能であると確信する必要があります。プライベート資産のリターンプレミアムの推定値は、一般的には2%から6%超まで幅があります。これは、期間、特定のサブ資産クラス、および使用する方法論によって異なります。私たちは保守的なアプローチをとり、広範なプライベートデットでは2%、広範なプライベートエクイティでは3%のプレミアムを想定しています。しかし、個々のアセットオーナーはそれぞれの経験や対象とする資産カテゴリーに基づいて異なる仮定を行うことが合理的でしょう。
このステップの目的は以下の3つです:
これらの要因を総合的に比較検討することで、アセットオーナーの目標を達成するために必要な最小限のプライベート市場への配分を特定する一助となります。
3. 「優良な」ファンド/投資の発掘、選定、配分を一貫して行う能力
プライベート投資は、その幅広さ、不均一性、そして求められるスキルによって重要な結果をもたらします。過去のリターンには、運用会社や戦略の選択によって大きなばらつきがあります。これは、「最高の」マネージャーを発掘し、選定し、継続的に配分する能力を持つアセットオーナーが、大幅な超過リターンを獲得するケースが多いことを意味します。
このステップの目的は、マネージャーの選定とビンテージ・イヤーの分散の重要性を説明するためのデータを提供することです。アセットオーナーがプライベート資産に配分できる最大比率(上限)と必要とする追加的リターンの額(下限)を決定すれば、その後は決定事項の実行に集中することになります。上限と下限の範囲内でアセットオーナーがどこに位置するかは、「優れた」マネージャーを発掘し、選定する能力だけでなく、適切な規模で長期的にプログラムを運営する能力にも依存します。
上述したアセットオーナー向けの重要なポイントは以下の通りです。
本シリーズの第2回以降では、非流動性を引き受ける能力(上限)、リターンプレミアムの必要性(下限)、「優れた」マネージャーを発掘し、選定し、継続して配分する能力(上限と下限の範囲内でのバランス)を評価する方法について詳しく掘り下げます。これらの基準を組み合わせることで、アセットオーナーが長期的なポートフォリオ目標に合わせてプライベート市場への配分規模をより適切に決定しやすくなるでしょう。
1Some premia may be linked to specific attributes of how value is added to private assets, which are not available in the listed space. For example, in venture capital, this may be the value added by a long-term capital partner to prepare the company to go public. Additionally, some portion of the private debt premium may be linked to the fact that borrowers are willing to pay a higher yield for flexibility on covenants and deal structure. | 2The denominator effect in this case refers to when public assets decrease in value to a greater degree or faster rate than the private assets in a portfolio — thus causing private assets to represent a larger percentage of overall asset allocation than may have originally been intended.