クレジット選択が鍵を握る時代へ

2025年3月
2029-12-31
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金利ボラティリティ上昇局面におけるクレジット投資

各国中央銀行の政策にばらつきが見られる中、債券投資家は再び高まるボラティリティに直面しています。その背景には、インフレ率の上昇や景気変動といった新たなレジームを牽引するいくつかの要因があります。具体例として、米国の財政状況悪化、過剰貯蓄と過剰流動性の金融システム、そして地政学的リスクの高まりによるサプライチェーンへの影響が挙げられます。

このような状況下で、中央銀行は確信を持って金融政策を決定することが難しくなっており、特に関税が世界の注目を集める現状ではなおさらです。同時に、金融刺激策の遅れが深刻化し、市場変動サイクルや不確実性が継続する結果となっています。

債券投資家にとって、こうした環境がもたらす重要な結果は、金利ボラティリティの上昇です。米国では、インフレ率が2022年3月に大きな転換点を迎えたことから、ボラティリティは世界金融危機以来の最高水準に達しました1。クレジット市場に対して大規模な固定エクスポージャーを有するインカム志向の投資家は、米国の金利ボラティリティが高まるこの新たな局面を前に不安を感じています(図表1)。

金利ボラティリティ上昇局面におけるクレジット投資


こうした市場の動きを前にして、米国においては、国債に対するクレジット・セクターのパフォーマンスの変動から生じる機会を捉えつつ、金利変動によるリスクを緩和することがますます重要になっています。バリュエーションの変化に応じて、米国クレジット・セクターと米国債を入れ替えることが、こうした環境を乗り切るための有効な手段と考えられます。

好調な米国経済への対応

今後の米国経済については、明るい材料が数多く見られます。特に注目すべきは、家計の資産は比較的健全であり、こうした資産は一般的に金利にそれほど敏感でないため、個人消費の減少による景気減速の可能性は低いと考えられることです。そのため、投資適格クレジットのスプレッド拡大余地は限定的であり、当面は現在の狭いレンジ内での取引が続くと予想されます。

さらに、多くの米国企業はここ数年、慎重な経営を進めており、ビジネス環境の底堅さはこうした慎重姿勢を反映しています。企業は、新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大の最中に保険として借入を行い、バランスシートに現金を積み増してきました。その後、2021年に経済が予想以上に早く回復したことを受け、企業は債務を返済しました。2022年には、景気サイクル後半の再レバレッジの機会が訪れましたが、米連邦準備制度理事会(FRB)はこれよりも早く利上げを開始しました。そのため、企業はバランスシートの健全性を維持するため、支出や配当の削減に動きました。クレジットのスプレッドが堅調に推移している背景には、こうした事情があると考えられます。

一方、BB格付けの米国ハイイールド債のイールド・スプレッドは1.5%強で推移しており、こうしたバリュエーションはそれほど魅力的とは言えません2。とはいえ、エネルギー、グローバル・バンキング、一部の公益事業など、市場の特定セクターは依然として大幅な割安水準で取引されており、魅力的な機会が存在すると考えています。

現在の投資環境では、クレジット・ポジションの構築において、機敏かつ柔軟な対応が求められます。特に、スプレッドがタイトな今、高水準の「ドライ・パウダー」を維持しておくことで、スプレッドが相対的に魅力的になった段階で押し目買いを行うことが可能になります。

市場の水準訂正に備える

利益を得るためには、セクターの選別が重要です。健全なバランスシートと良好なファンダメンタルズを持つ発行体を見つけ、ダウンサイド・リスクに比して値上がり益が期待できそうな証券ストラクチャーに焦点を当てる必要があります。

現時点では、米国の金融セクターの多くに妙味があり、過去の実績から見ても市場に対して割安水準にあります。同様に、米国の低格付け工業銘柄に投資するよりも、負債比率が高く、潜在的に「リスクが高い」と考えられる米国大手銀行へのエクスポージャーも魅力的です。対照的に、高格付けの30年物クレジットは、供給が大幅に減少していることから、スプレッドが極めてタイトな水準にあり、あまり魅力的ではないと考えます。

逆風に強い安定した成績を創出

現在、市場のボラティリティは高水準で推移していますが、これは市場環境を正確に予測することが難しいという現実を再認識させる状況です。しかし、逆風に強い安定した投資戦略を構築し、すべての意思決定とその結果としての損益について、アップサイド・リスクとダウンサイド・リスクを継続的に評価することで、投資プロセスを管理することができます。

そうすることで、投資家は、クレジットへのアロケーションを通じて、以下のような多様な目的を達成し、あらゆる市場環境下で収益獲得を図る「全天候型」のトータル・リターンを追求することが可能になります。

  • 債券グロース・アロケーションの中で、デュレーション/負債マッチング・アロケーションのリターン向上またはリターン分散の役割を果たす
  • コア債券やインカム/クレジット重視型アロケーションの戦術的補完材料として機能する
  • 中程度のクレジット・アロケーションのリターン向上代替手段として機能する

金利の先行き、信用スプレッド、そして経済全般の変化に基づいて、結果が潜在的にどの範囲内に収まるかを評価しながら、機動的かつ柔軟にクレジットに投資することで、あらゆる市場環境において魅力的なトータル・リターンを達成することができると考えます。

1Bloomberg US Treasury Index, 30 September 2008 – 31 December 2024. | 2The spread quoted shows the yield difference to Treasuries. Source: Bloomberg US BB high-yield Index.

Connor Fitzgerald

コナー・フィッツジェラルド

債券ポートフォリオ・マネジャー