米財政刺激策の潮流を見据えて

2025年2月
2029-12-31
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「スラックタイド」とは、潮流が完全に止まり、水に全く圧力がかからない短い時間のことで、潮の流れが反転する前に起こります。

私たちは債券市場を、常に変化し、確率を考慮して期待される結果を予測する仕組みと捉えがちです。簡単に言うと、良い結果(結果A)と悪い結果(結果B)を予測することが一般的ですが、私たちは将来の結果を予測してポートフォリオを調整することは無意味だと考えています。むしろ、結果Aが起こる確立の方がはるかに高いと認識されているときに、市場のコンセンサスや価格が示すよりも結果Bが起こる可能性が高い理由を分析することに価値があると考えます。

現在、市場はトランプ政権の政策が米国の成長を支え、経済とクレジットのサイクルを長引かせる可能性を結果Aとして織り込んでいると考えています。しかし、トランプ政権の政策が成長に打撃を与え、米国の金融環境が引き締められるという結果Bの方が市場の予想よりも高い確率で起こる可能性があります。それはなぜなのか、詳しく見ていきましょう。

  1. 歳出削減:トランプ政権は歳出削減や無駄の排除に重点を置いています。これは長期的には有益かもしれませんが、短期的には成長を大きく阻害する可能性があります。2020年初頭の新型コロナウイルス感染症の流行以降、米連邦政府の支出は対GDP比で平均25%となり、それ以前の年間平均19%から大幅に増加しています1。 私たちの見解では、数千億米ドル規模の連邦資金の流れを断ち切ると、米国経済がこれまで通り順調に回り続けることは期待できません。
  2. 関税:関税は非常に多くの要素が関係するためモデル化が難しいですが、私たちの直感では、関税はインフレを引き起こすよりも成長の逆風となる可能性が高いと考えています。トランプ氏は関税を交渉の手段として活用するかもしれませんが、私たちは関税がトランプ氏の経済計画における唯一かつ重要な「資金源」であると見ています。つまり、トランプ政権は減税措置の延長や追加の景気刺激策を賄うために関税が必要なのかもしれません。しかし、この視点では、関税政策が国際貿易を混乱させ、市場に不確実性をもたらす点が見落とされています。そして、米国もその影響を免れません。米国以外の国に目を向けると、経済成長は精彩を欠いています。
  3. 第4四半期の成長率:2024年第4四半期の米国経済の堅調さは、バイデン政権の急速な政府支出や、関税を見越した消費者や企業の先行支出によるものかもしれません。これにより、将来の成長が前倒しになっている可能性があります。
  4. 移民:移民は労働力供給を拡大し、総需要を押し上げる要因でもあります。 移民の減少や大規模な強制退去がインフレに与える影響は判断が難しいですが、成長にネガティブな影響を与える可能性が高いと考えています。住宅、食料、商品、サービスを求める人々が減少すれば価格は下がるのでしょうか。米国は構造的な住宅供給不足を解消しようとしているため、移民の減少は特に住宅市場に顕著な影響を与える可能性があります。
  5. 雇用:トランプ政権が米連邦職員を対象に実施した退職勧奨は従業員数を減らすことを目的としており、雇用創出を妨げる可能性があります。2022年1月以降に追加された米国の雇用のうち、46%は政府および教育・医療サービス分野で創出されています2。これらの分野での採用削減や雇用喪失は、全体の雇用創出に大きな影響を与えるでしょう。
  6. イールドカーブ: 米国のイールドカーブの逆転は、2022年および2023年の誤った前兆とは異なり、真の景気後退の兆しとなる可能性があります。今回は、連邦準備制度理事会(FRB)がインフレに対して強硬な姿勢を維持し、市場参加者が成長鈍化に対するより魅力的なヘッジを求めて長期国債を購入することで、カーブが逆転するシナリオが考えられます。また、財政赤字が予想よりも小さいと市場が認識し始めると、イールドカーブの長期部分が低下する可能性もあります。これは、最近のイールドカーブのスティープ化が、財政赤字に対する懸念に影響を受けている可能性が高いためです。私たちは、逆イールドカーブはクレジット市場にとって憂慮すべき兆候であり、現在の非常にタイトなスプレッドが拡大する可能性があると見ています。

全体的に見て、トランプ政権が実施した政策は経済成長に対してネガティブな影響を与えると考えています。トランプ政権が望む刺激策は議会の承認が必要であり、確実ではありません。現在の連邦赤字とパンデミック以降の財政刺激策は前例のない規模で、対GDP比での現在の支出は過去に成長が急激に落ち込んだ危機局面に匹敵する水準です。

現政権は、どの程度の景気刺激策を実施できるかは債券市場に左右されることを認識していると感じています。さらなる財政の放漫化は、債券利回りの上昇を招くでしょう。過去5年間の財政赤字拡大に対する市場の反応とは異なり、現在は政府が提供できる財政刺激策の上限に達している可能性があります。

この見解が正しければ、今後の景気刺激策は縮小に向かうしかありません。政府が支出を削減し始めれば、米国の景気後退の可能性が高まり、米国債の発行量の削減につながるでしょう。

現在、米国の財政刺激策はスラックタイドの状態にあるかもしれません。つまり、一時的に穏やかに見える期間の後、流れが逆転する可能性があるということです。

1US Treasury Department, 1954 to 2024. As of 31 December 2024. | 2Bureau of Labor Statistics. January 2022 to December 2024. As of 31 December 2024.

Connor Fitzgerald

コナー・フィッツジェラルド

債券ポートフォリオ・マネジャー