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シュー・スー
- グローバル産業アナリスト
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2022年、新興国市場のヘルスケア株式は苦戦を強いられました。MSCI エマージング・マーケット・ヘルスケア・インデックスは2022年に20%超下落しました。その要因として、軟調なマクロ経済環境、世界的な地政学的な不安定化、規制の不確実性、長引く新型コロナウイルス禍の混乱が挙げられます。
しかし、私たちは不安定な市場環境下でも、新興国のヘルスケア市場への長期的な投資機会に高い確信を持っています。同市場は今後、構造変化やイノベーション(革新)の進展の恩恵が期待できるため、私たちは今こそ新興国のヘルスケア株式に目を向けるときであると考えます。
新興国のヘルスケア市場の中でも、特に投資機会が豊富な中国で良好な回復の兆しが見え始めています。中国のヘルスケア市場は、ゼロコロナ政策の緩和と規制環境の安定化や不透明感の後退、さらに予想を上回るペースの経済回復を追い風に、魅力的なリターンが見込まれます。また、ファンダメンタルズの改善や魅力的なイノベーションの進展を受け、地政学的な不安定化の中でも企業成長が期待できるため、投資の魅力的なエントリーポイントと言えるでしょう。
好調だった2021年から大幅に下落したMSCIチャイナヘルスケア・インデックスは現在、5年平均を下回 る水準で推移しています。新型コロナウイルス禍からの堅調な回復と、より予想しやすい政策環境が再評価の機会を見出しています。
新型コロナウイルス禍からのリバウンドを示す兆候として、病院の外来患者数の回復が挙げられます。外来患者数 はヘルスケアの需要を示す重要な指標です。中国政府が2022年末にゼロコロナ政策を転換して以降、2年間のスランプを経て、病院は通常業務に戻りつつあります。受診患者の増加は医薬品、医療機器、関連製品の需要拡大につながっていきます。すなわち、ヘルスケア業界全体の潜在成長を示しています。
中国政府による推進政策は、研究開発への投資を促し、画期的な新薬開発を支え、ヘルスケア業界全体に大きな波及効果をもたらします。画期的な新薬開発は製薬メーカーにとって重要な基盤です。アンメット・メディカル・ニーズ(医療分野の満たされていないニーズ)に対処できる可能性が高まると共に、長期的なリターンの源泉にもなります。
重要な進展の一つとして、過去5年間、バイオ医薬品・医療機器業界の重荷となってきた中国政府による量的調達(VBP)制度の安定化が挙げられます。VBP制度の狙いは、消費者のために医薬品および医療機器の価格を抑制することですが、医薬品や医療機器メーカーにとっては収益や収益性の足かせになります。中国政府は現在、VBPによる価格調整に対して満足しているとみられ、コスト抑制とイノベーション推進とのより適切なバランスを目指し、政策の緩和に動いています。イノベーションの余地がより多く残されているということは、中国のヘルスケア市場の潜在力を示しています。
また、中医学(中国の伝統医学)に対する支援も強化され、「第14次5カ年計画」の優先課題の一つに掲げられています。中国政府はの中医学の医薬品の医療保険適用範囲を拡大し、業界の品質基準の見直しも進めています。これらの政府の取り組みは、中医学へのアクセスの改善とイノベーションの強化を示しています。以前と比較して現在の中国では政策環境が改善され予測可能となったことを受け、特にイノベーションをリードする企業を中心に、より高い収益成長が見込まれます。
医薬品の中でも最初に認可された新薬などベストインクラスまたはファーストインクラスの画期的な医薬品を開発しているバイオテクノロジーおよび医療機器メーカーの見通しは明るいでしょう。これらの企業は、中国国内市場での製品やサービスの代替と、他地域への参入が見込めるため、長期的に力強い潜在成長力が期待できます。中国は膨大な患者数を基盤にした国内需要を抱え、多くの治療領域で現在もグローバルブランドが優位な立場にあります。そのため、中国国内での製品のマーケタビリティ(市場性)が鍵となります。最近中国では地政学上不安定化していますが、国内市場が堅調である限り、多少の国際的な圧力は相殺されるとみられます。
中国の経済活動再開が、他の新興国諸国のヘルスケア市場の成長を再び加速させる可能性があります。中国の厳しい検疫措置が解除されたことによって、周辺アジア諸国の医療ツーリズム(国外を医療目的で訪れる)が活発になるでしょう。例えば、東南アジアの病院は、中国からの患者の受け入れが大幅に増加することが予想されます。
また、インドでは特に低価格帯の医療サービスを提供する地元企業を中心に、力強い成長が見込まれます。インドでは慢性疾患がまん延しており、大規模病院では対応が求められています。こうした状況は、インド国内のヘルスケア市場への長期的な投資機会につながります。インド政府は医師不足の解消、医療保険業界の拡大、デジタル化による業界統合の推進に注力しており、ヘルスケア業界はその恩恵が期待されます。
中国のゼロコロナ政策転換は、新興国のヘルスケア株式への投資にとって好材料になるでしょう。ヘルスケアセクター全般で魅力的な長期の投資機会が散見されます。特に2023年は、中国市場へのエクスポージャーが高く、バリュエーションが妥当な水準にあり、かつガバナンスが堅実な企業に着目すべきと考えます。
シュー・スー