インパクト投資最前線:エネルギー転換を後押し

2022-12-31
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脱炭素への移行における代替エネルギーの役割

2021年11月に開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の成果文章「グラスゴー気候合意」には、世界平均気温の産業革命前からの上昇を、21世紀末時点で1.5度以内に抑える目標に向かうことが明記されました。これにより、今後一層世界経済およびそれを支えるエネルギー源の脱炭素に向けた取り組みが加速するでしょう。年間温室効果 ガス(GHG)排出量約510 億トンのうち、エネルギー発電の割合は約27%を占めています¹ 。2050 年までに温暖化ガス排出量実質ゼロの目標を達成する上で、エネルギーインフラの脱炭素化は重要なステップとなります。

脱炭素の動きが加速するに伴い、クリーンエネルギーはエネルギー市場のシェアを拡大しています。国際エネルギー機関(IEA)は、2040年までに再生可能エネルギーが世界の電力の45%を占めると予測しています²。太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーによる発電量を増やすことは、地球の気温上昇の原因になる温暖化ガスの排出量を削減し、大気中の温暖化ガスの濃度を減らすことにつながります。また、世界では依然として何十億人もの人が化石燃料の使用による汚染された大気を吸い、暖房用や調理用の危険な燃料に依存した生活を送っています。クリーンエネルギーへの移行は、コスト削減や早期死亡リスクの減少など、健康と社会にも便益をもたらすと考えられます³。

代替エネルギーをインパクト投資に適用

ウエリントンのインパクト投資では、11の投資テーマに基づきインパクト企業への投資機会を追求しています。「代替エネルギー」は重要な投資テーマの一つで、社会的課題の解決と投資収益の向上の両面から注目しています。実用規模の再生可能エネルギーは、脱炭素に向けた温暖化ガス排出量削減の課題を迅速かつ効率的に解決するための中核を担っています。

本稿では欧州の再生可能エネルギー会社の例を取り上げ、投資先企業の社会的課題解決へのインパクトをどのように計測・評価しているのか深掘りすると共に、代替エネルギー分野の投資機会について考察します。

欧州の再生可能エネルギーの事例

ウエリントンのインパクト運用チームでは、「代替エネルギー」の投資テーマの中で、太陽光や風力発電、太陽熱、バイオマス、水力などの再生可能技術を使ったエネルギープロジェクトを開発・建設・運営し、気候変動の影響の緩和策につながる製品やサービスを手掛けている欧州企業に着目しています。

この欧州の再生可能エネルギー会社が掲げる「サステナビリティ・マスタープラン」では、すべての事業で完全な脱炭素の達成をめざしています。さらに、同社は大型の代替エネルギープロジェクトを推進すると共に、他のエネルギー関連のインフラ整備事業の拡大も計画しています。また、十分なインフラが整備されていない経済的に困窮した地域への再生可能エネルギー供給を支援する、革新的なプログラムの開発も推進しています。

インパクトの計測

ウエリントンのインパクト運用チームではインパクト計測管理(IMM)の5つの基本要素の枠組みに沿った成果指標(KPI)を用いて、投資対象企業の技術やサービスなどが、社会的課題の解決目標にどのように貢献しているかを評価します⁴。例えば、この再生可能エネルギー会社については、以下のように評価しています。

インパクト計測管理(IMM)の事例:欧州の再生エネルギー会社

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上記はいずれも一例にすぎません。例示をもって理解を深めていただくことを目的とした概念図です。

定性評価を重ね合わせる

ウエリントンのインパクト運用チームでは、インパクト成果指標(KPI)に加えて、投資先企業の社会的課題解決へのコミットメントを定期的に定性的に評価します。定量と定性の両評価を重ね合わせることで、企業がもたらす社会や地球環境へのプラスの影響(インパクト)だけでなく、広範な事業活動に関連した環境破壊などの負の外部性や、特定の投資に関連する意図しないマイナスの影響を検証し、包括的なインパクトの把握を追求します。

例えば、欧州の再生エネルギー会社の定性評価では、主な負の外部性として電力生産の環境への影響と地域移転の可能性などが特定されました。ただし、これらの外部性によって想定されるマイナス影響はわずかで、十分な対策を講じているとみられるため、インパクト運用チームは同社を前向きに評価しました。同社は進化を続ける再生可能エネルギー業界の動向を捉えて適応し、独自の事業基盤のもと革新を遂げています。また、同社は自社の企業活動とタクソノミー規制との整合について、初期に情報開示に踏み切った企業の1社です。しかし、同社の革新的で付加価値のある持続可能な取り組みは、依然として市場で過小評価されているとみられます。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)との整合

ウエリントンのインパクト運用の11の投資テーマの考え方は、国連が2015 年9月に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」とも整合しています。運用チームは、投資テーマとは別に投資対象企業を国連のSDGs の目標に沿って独自に分類し、SDGs における目標の169のターゲットとも照合しています。

この欧州の再生可能エネルギー会社は、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」の7.2 「2030年までに世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる」 と整合しています。

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拡大する投資機会

脱炭素への移行に伴う化石燃料からの脱却が再生可能エネルギーやクリーンエネルギーなど代替エネルギー市場の成長を促し、地球環境や社会的な課題解決を後押しし、投資収益の向上にもつながっていくと考えます。インパクト運用チームでは、代替エネルギー分野における投資機会として、以下に注目しています。

  • 脱炭素を迅速かつ効率的に進めるために、太陽光や風力発電への大規模な投資・建設・運営を手掛ける企業
  • 電力貯蔵および供給サービスの革新的なソリューションを手掛ける企業
  • 太陽光発電のシステムや太陽光モジュールの設計・製造・販売を手掛け、温暖化ガス排出量削減に貢献している企業
  • 太陽光や風力発電などのプロジェクトを対象とするグリーンボンド(環境債)の発行増加。送電網の整備や化石燃料から再生可能エネルギーのビジネスモデルへの移行に伴う資金調達を目的とする企業によるグリーンボンドの発行
Tara Stilwell

タラ・スティルウェル

株式ポートフォリオ・マネジャー
Campe Goodman

キャンプ・グッドマン

債券ポートフォリオ・マネジャー

出所:¹ Breakthrough Energy 2020. ²World Outlook Energy International Energy Agency.  ³Emil Dimanchev, et al., “Health co-benefits of sub-national renewable energy policy in the US,” Environmental Research Letters, vol. 14, August 2019. ⁴ The Impact Management Project, impactprojetmanagement.com.