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アラン・スー
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世界有数の科学研究機関「ウッドウェル気候研究センター」(以下「ウッドウェル」)は、世界各地で深刻化する気候危機が今後も続き、極端な気象現象が起こりやすくなっていると強調しています。日本も例外ではありません。猛暑日が増え、豪雨や沿岸部の暴風雨、海面上昇による洪水の確率が高まることが、ウッドウェルの共同調査で明らかになっています。
ウッドウェルは、2050年までに日本の南部では命にかかわる危険な暑さの猛暑日が2倍に増え、北部では年間20日以上の猛暑日に見舞われる恐れがあると予測しています。高温多湿は人々の健康や経済を蝕むリスクにつながります。暑さが続くと熱中症患者が増加し医療現場を圧迫します。感染症の温床にもなります。また、労働力の喪失を誘発し、生産性を低下させます。国際労働機関(ILO)は、「熱ストレス」で失う労働時間が2030年までに全世界で2.2%に上り、フルタイムで働く8,000万人の労働力に相当するとし、経済損失は2兆4千億米ドル(約276兆円*)になると分析しています1。(図表1)。日本では12万6,000人分のフルタイム労働時間が失われると、同報告書は予測しています。
*1米ドル=115.155円換算。1 国際労働機関(ILO)”Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labor productivity and decent work” (2019)。
図表1
熱ストレスで労働力やGDPの損失が拡大する恐れ
(左図:失われるフルタイム労働力の予測、右図:GDP損失額の予測)
出所:国際労働機関(ILO)”Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labor productivity and decent work”(2019)のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
日本は、豪雨による河川の氾濫、台風による高潮、海面上昇による浸水という、3つの洪水の脅威にさらされています。地球温暖化による異常降雨の発生確率が高まっています。ウッドウェル気候研究センターでは、1981年~2000年の20年間と比べて、100年に1度の大雨の発生確率が2035年に2倍、2065年に4倍になると予測しています。特に北日本では、100年に1度の大雨が10年に1度発生する可能性があると指摘しています(図表2)。日本の国土の約3分の2は山地で、中央部の山脈から海岸平野にかけての傾斜が急なため、河川の流量が増加しやすく洪水リスクが高くなっています。
図表2
100年に1度の大雨の発生が増加
*大雨事象とは特定の災害事象に結びつくような降水現象。出所:ウッドウェル気候研究センター ※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
日本は地理的要因から台風が多いと言えます。台風は大雨や暴風、高潮をもたらし、堤防決壊などによる浸水被害を引き起こします。日本の政府は治水対策やインフラなど、水害対策の取り組みを加速させています。さらに、日本の一部地域では温暖化で海面上昇による洪水リスクが高まっています。2050年までに海面上昇の影響を受けやすい都市として、新潟、名古屋、岡山、佐賀、熊本が挙げられます。
日本は長年にわたり、洪水などの水災害のための強靭化に向けて、インフラの整備や再建を積極的に進めてきました。例えば、東京都は東京・大阪などの5水系6河川(利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川)では、計画規模を超える洪水にも耐えられるように、堤防の高さの約30倍の幅を確保した「スーパー堤防(高規格堤防)」の整備を進めています。また、東京都では、集中豪雨時の下水道氾濫に備え、雨水貯留施設を持つビルの建設が相次いでいます。渋谷駅の地下深さ25メートルには、20年に1度の大雨に耐えられる雨水貯留施設が整備されています。貯水能力は約4千立方メートルで、1時間あたり75ミリの雨(滝のように降る非常に激しい雨)に対応できます。しかし、気候変動による被害は深刻化しつつあり、日本では自然災害対策への設備投資などの必要性が一層増すとみられます。
2 United Nations, Department of Economic and Social Affairs.
アラン・スー
クリス・グールゲイジアン