日本が抱える気候変動リスク

2024-12-31
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世界有数の科学研究機関「ウッドウェル気候研究センター」(以下「ウッドウェル」)は、世界各地で深刻化する気候危機が今後も続き、極端な気象現象が起こりやすくなっていると強調しています。日本も例外ではありません。猛暑日が増え、豪雨や沿岸部の暴風雨、海面上昇による洪水の確率が高まることが、ウッドウェルの共同調査で明らかになっています。

猛暑

ウッドウェルは、2050年までに日本の南部では命にかかわる危険な暑さの猛暑日が2倍に増え、北部では年間20日以上の猛暑日に見舞われる恐れがあると予測しています。高温多湿は人々の健康や経済を蝕むリスクにつながります。暑さが続くと熱中症患者が増加し医療現場を圧迫します。感染症の温床にもなります。また、労働力の喪失を誘発し、生産性を低下させます。国際労働機関(ILO)は、「熱ストレス」で失う労働時間が2030年までに全世界で2.2%に上り、フルタイムで働く8,000万人の労働力に相当するとし、経済損失は2兆4千億米ドル(約276兆円*)になると分析しています1。(図表1)。日本では12万6,000人分のフルタイム労働時間が失われると、同報告書は予測しています。

*1米ドル=115.155円換算。1 国際労働機関(ILO)”Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labor productivity and decent work” (2019)。

図表1
熱ストレスで労働力やGDPの損失が拡大する恐れ

(左図:失われるフルタイム労働力の予測、右図:GDP損失額の予測)

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出所:国際労働機関(ILO)”Working on a warmer planet: The impact of heat stress on labor productivity and decent work”(2019)のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

洪水・台風

日本は、豪雨による河川の氾濫、台風による高潮、海面上昇による浸水という、3つの洪水の脅威にさらされています。地球温暖化による異常降雨の発生確率が高まっています。ウッドウェル気候研究センターでは、1981年~2000年の20年間と比べて、100年に1度の大雨の発生確率が2035年に2倍、2065年に4倍になると予測しています。特に北日本では、100年に1度の大雨が10年に1度発生する可能性があると指摘しています(図表2)。日本の国土の約3分の2は山地で、中央部の山脈から海岸平野にかけての傾斜が急なため、河川の流量が増加しやすく洪水リスクが高くなっています。

図表2
100年に1度の大雨の発生が増加

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*大雨事象とは特定の災害事象に結びつくような降水現象。出所:ウッドウェル気候研究センター ※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

日本は地理的要因から台風が多いと言えます。台風は大雨や暴風、高潮をもたらし、堤防決壊などによる浸水被害を引き起こします。日本の政府は治水対策やインフラなど、水害対策の取り組みを加速させています。さらに、日本の一部地域では温暖化で海面上昇による洪水リスクが高まっています。2050年までに海面上昇の影響を受けやすい都市として、新潟、名古屋、岡山、佐賀、熊本が挙げられます。

日本は長年にわたり、洪水などの水災害のための強靭化に向けて、インフラの整備や再建を積極的に進めてきました。例えば、東京都は東京・大阪などの5水系6河川(利根川、江戸川、荒川、多摩川、淀川、大和川)では、計画規模を超える洪水にも耐えられるように、堤防の高さの約30倍の幅を確保した「スーパー堤防(高規格堤防)」の整備を進めています。また、東京都では、集中豪雨時の下水道氾濫に備え、雨水貯留施設を持つビルの建設が相次いでいます。渋谷駅の地下深さ25メートルには、20年に1度の大雨に耐えられる雨水貯留施設が整備されています。貯水能力は約4千立方メートルで、1時間あたり75ミリの雨(滝のように降る非常に激しい雨)に対応できます。しかし、気候変動による被害は深刻化しつつあり、日本では自然災害対策への設備投資などの必要性が一層増すとみられます。

主な投資機会

  •  猛暑日増加に伴い、空調や冷凍・冷蔵機器の製品やサービスの需要が増大するでしょう。また、産業用や屋外用の技術の自動化、重量物の運搬を補助する装着型機械などのロボットにも着目しています。
  • 台風や洪水が頻発しているため、日本では水災害に強いインフラの整備や再建の必要性が増すでしょう。それに伴い、建設、浚渫(しゅんせつ)を含む海洋土木工事、建設機械・資材事業の需要が拡大する可能性があります。
  • スーパー堤防の維持管理や都市部の地下雨水貯留施設の建設も加速する可能性があります。

気候変動の「適応策」と「緩和策」に貢献している日本企業の例

【適応策の例】空調機器・冷媒メーカー

  • エアコンや冷蔵庫は今の生活になくてはならないものです。しかし、それらの冷媒に使われる「代替フロン」は、地球温暖化を招く作用が二酸化炭素(CO2)よりもはるかに強く、温暖化を加速させることが懸念されています。そのため世界的に代替フロンに対する環境規制が強化されています。この日本の空調機器・冷媒メーカーは、温暖化への影響を大幅に削減できる「グリーン冷媒」の開発と実用化を進めています。
  • エアコンは気候変動への「適応策」の一つとして、今後も持続的な需要が見込めるため、同社は引き続き循環的な成長が期待できるでしょう。また、同社は原材料価格の上昇を販売価格に転嫁できており、これも同社の冷暖房機器の堅調な需要を示しています。

【適応策の例】農業機械メーカー

  • 近年、地球温暖化に伴う気候変動が深刻化し、干ばつや洪水が世界で相次いでいます。農業は気候変動の影響を受けやすく、特にアフリカや南米、東南アジアなど赤道付近の農業国では、穀物生産への影響が指摘されています。
  • 一方、世界人口は2050 年までに 100 億人に達し、今より 6割の 食料増産が必要になると予測されます2。人口増加に伴い、食料を安定的に確保する必要性が増しています。
  • 同社が手掛けるスマート農業ソリューションは、農機具から収集した作物の生育・収穫状況データや、気象データを分析することで、高品質な作物をより多く収穫する精密農業を可能にしています。
  • 同社の技術は気候変動の「適応」策に貢献しています。世界的に農業の生産性向上や持続性につながる技術の需要が高まっているため、同社の構造的な成長余地は大きいと考えます。

【緩和策の例】旅客鉄道輸送サービス会社

  • 日本の二酸化炭素(CO2)排出量のうち、運輸部門は約2割を占めており、脱炭素の実現に向けて削減が求められています。
  • この日本の旅客鉄道輸送サービス会社の鉄道部門は、温暖化ガス排出量実質ゼロを目指した電車の運行に取り組んでいます。運転用の電力を再生可能エネルギーなどに切り替えると共に、自社送電網の高効率化を図り、省エネルギー車両の導入を進め、CO2排出を削減し、脱炭素の取り組みを加速しています。
  • 同社の事業は、気候変動の「緩和」策に貢献しています。CO2の排出規制が強まる中、商用トラックと比べて排出量が少ない鉄道輸送の需要拡大が見込まれるため、同社の収益拡大の余地も大きいと考えます。

2 United Nations, Department of Economic and Social Affairs.

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アラン・スー​

株式ポートフォリオ・マネジャー
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クリス・グールゲイジアン

クライメート・リサーチ・
ディレクター