COP26はニュースの見出しよりも建設的

2022-12-31
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第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の合意については様々な見方があるものの、私たちはメディアよりも前向きな見解を持っています。COP26 で採択した成果文書「グラスゴー気候合意」は、地球温暖化を抑え気候変動の深刻な影響に対処するための国際協力と行動を加速させる枠組みとなるでしょう。

主なポイント:

  • 一層積極的な目標:パリ協定の締約国に対し、世界の平均気温の上昇を産業革命前から2度未満の水準を下回る1.5度に抑えることを目標とし、世界の温暖化ガスの排出量を2050年ではなく2030年までに2010年比で45%削減することを求める。
  • CO2以外の対策:二酸化炭素(CO2)よりも強力な温暖化ガスであるメタンの排出量削減に対する行動を促す。
  • 石炭火力の段階的な削減:パリ協定の締約国は、世界のエネルギーミックスに占める石炭火力発電の割合削減を加速させることで合意。COPで初めて化石燃料と地球温暖化の関連が明確に認識される。
  • 気候変動対策への資金:各国政府は公共部門に対して今後2年間、気候変動対策プロジェクトに年1,000億米ドルの資金を投入する。民間部門では、資産運用会社220社(運用資産総額約57兆米ドル)が2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)にする目標を掲げている。また、投融資先を含めたネットゼロをめざす金融機関の有志連合「グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)」が正式に発足。銀行、保険、資産運用会社など約450企業・機関が賛同表明した。
  • カーボンクレジット:ネットゼロを達成するために、CO2クレジットなどによる排出量の相殺(カーボンオフセット)も選択肢とする。

メディアはCOP26についてパリ協定の目標を実現するには具体策が乏しく、達成の道筋は描けなかったと批判的です。私たちもそれに対し異論ありません。温暖化ガスの排出量削減目標を当初の2050年から2030年に前倒しした結果、2010年比で45%減しか期待できず、2025年までは少なくとも温暖化ガス排出量が増え続けることが認識されました。良かれと思った変更が悪い結果を招いたという印象を与えても不思議ではありません。

石炭火力に対しこれまで以上に厳しい目が向けられましたが、土壇場で合意文章の表現は「段階的な廃止」から「段階的な削減」に書き換えられました。天然ガスなどのブリッジ燃料についても、より寛容な表現となっています。また、ネットゼロを達成するためにカーボンオフセットを活用することは建設的な策ですが、質の一貫性や商品化することが難しいため、その効果は限定的であるとみられます。温暖化ガス排出量削減目標はすべての国が厳格化しているわけではないため、それこそが最終的に最も重要だと考えます。

投資に関するポイント

COP26の具体策には課題が残るものの、脱炭素の実現はあらゆる業種に何らかの影響を与える長期的でグローバル、かつ包括的なトレンドであることは間違いありません。国や企業は脱炭素の目標を達成するために、数兆ドルもの資金を投じることを掲げています。温暖化はもはや避けられず、気候変動の影響の被害を減らす「適応策」は重要な投資テーマの一つであることが認識され始めました。そのため、今後市場の拡大により需要が供給を上回ることが見込まれ、気候変動の「緩和策」と「適応策」関連株式の割引率は調整されると考えます。また、脱炭素社会への移行に向けてカーボンクレジットがより広く活用されるようになると、気候変動に有利な資産と不利な資産との間でパフォーマンスやバリュエーションの格差が広がっていくとみられます。

また下記も予想されます。

  • スケールメリットのある再生可能エネルギーが、化石燃料からシェアを奪い、エネルギー効率の高い技術の導入が進み、低炭素型の輸送手段が本格化することで脱炭素化が進む。
  • カーボンマーケット(炭素市場)が発展し続けることで、より多くのステークホルダーが関わり、より効率的にカーボンプライシング(炭素価格)が設定される。
  • 各国が気温上昇を1.5度に抑えるために原子力発電を見直す可能性がある。
  • 資本市場が革新的な進歩を後押しし、今後20年間で炭素回収や気候変動の緩和と適応のソリューションにおいて大胆なイノベーション(革新)が起きる。

COP26では脱炭素に関する画期的な対策はありませんでした。しかし、様々な業種の企業が脱炭素のために革新的なソリューションを積極的に開発しています。持続可能な農業、炭素回収・貯蓄技術、バイオマス(生物資源)燃料、カーボントラッキング(消費活動から生じる温暖化ガス排出量を自分で計測)など、多種多様な分野で意味のある進展が進んでいます。COP26は、画期的な技術を手掛けるイノベーターに、スケーラビリティ(拡張性)が高いソリューションが巨大な世界市場につながることを鮮明にしました。

COP26は総じて気候変動の最終目標を明確にし、その達成に向けた緊急性を強調したという点では、進展を果たしたと言えるでしょう。しかし、まだ多くの課題が残っており、今後は政府や国が何を示すかよりも、何を行動するかがカギとなると考えます。

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アラン・スー​

株式ポートフォリオ・マネジャー