米大統領選挙:勝利を収める投資テーマは?

2028-10-25
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米国で間もなく行われる大統領選挙は、近年最も重要な選挙となり、その影響は世界中に及ぶ可能性があります。そのため、様々な産業や地域にわたる当社の14の投資テーマに、選挙結果がどのように影響し得るのか、当社のグローバル産業アナリスト(GIA)やその他の専門家と整理しました。私たちはグローバル産業アナリストと密に協業し、トップダウンの視点とボトムアップの知見をすり合わせることによって、各投資テーマにおける最も魅力的な企業を見極めることができると考えます。

興味深いことに、グローバル産業アナリストから一貫して見られた反応の一つが、米大統領選挙を重大なイベントとして見ていないということでした。しかし、選挙結果によっては、マイナスの影響を受ける可能性のある投資テーマがあり、選挙が行われる11月まではリスク要因を注視することが賢明と見られます。以下、グローバル産業アナリストやポートフォリオマネージャーの意見を交え、選挙結果によって各投資テーマごとにどのような点を考慮すべきかまとめました。

次世代エネルギーと自動車:トランプ氏勝利による変化は予想されるほど大きくない?

米大統領選挙までの期間、マクロ・ストラテジストのジュヒ・ダワンが注目する政策の一つに税制と支出の変化があります。支出については、バイデン政権が2022年に施工した、米国史上最も大きな気候変動とエネルギー対策への投資を含むインフレ抑制法(IRA)が影響を受ける可能性があります。ジュヒによれば、トランプ氏はバイデン大統領と比較してクリーンエネルギー補助金に対する関心が遥かに低いため、トランプ氏勝利の場合は、補助金が支払われる期間が短縮し、補助金の対象となるクリーンエネルギーのカテゴリーも縮小する可能性があります。このような政策の変化がどの程度現実のものとなるかは、今後議会がどのように進むかによるため、トランプ氏が勝利した場合、政策を推し進めるために必要な圧倒的勝利を収められるかにかかっています。米国の製造業や環境関連企業は、これらの補助金によって収益が大きく向上しているため、ハリス氏の勝利となれば、今後もこれらの分野で堅調な業績が期待できるでしょう。

インフレ抑制法の下で発表されたプロジェクトの多くはまだ計画段階にあるため、いくつかのプロジェクトは中止あるいは選挙の見通しがより明確になるまで先延ばしになる可能性があります。株式リサーチ・アナリストのデイヴィッド・カッターは、共和党の圧勝となった場合、減税策延長の財政補填として、インフレ抑制法は一部撤回される可能性があると見ていますが、完全に撤回されることは考えにくいと述べています。その理由の一つが、インフレ抑制法関連の投資の多くが共和党支持の州や地域を対象としたものであり、これらの州・地域は当法の主要な条項を支持する方向で動くと見ているからです。電気自動車(EV)や充電スタンドは見直しの対象になり、セクター内でボラティリティが見られると同時に、買いの機会も生まれる可能性があると考えます。また、本稿執筆時点(2024年10月)では、イーロン・マスク氏がトランプ支持を公にしていることも、トランプ氏の勝利が電気自動車業界にどのような影響を及ぼすかを読みづらくしています。ポートフォリオ・マネジャーのキース・ホワイトが述べる通り、トランプ氏がインフレ抑制法をどのように修正するかについては大きく懸念されていますが、実際は懸念されるほど大幅な変更はないと考えます。

気候変動に関する規制や政策を20年近く見続けているポートフォリオ・マネジャーのアラン・ス―も同様の見方を示し、選挙や選挙結果は市場を惑わす情報であり、実際大統領が選任された後は「徐々に織り込まれた後元に戻るか、最終的には全く影響のないものとなる傾向がある」と述べています。共和党政権では、温室効果ガスに関する規制が緩和され、クリーンエネルギーへの設備投資が先延ばしになるかもしれませんが、これはインフラ強化、国土強靭化、事業の国内回帰に伴う設備投資によって相殺される可能性があります。最終的には、アランが述べる通り、顧客当たりの収益性やファンダメンタルズの方が大きな影響を及ぼすでしょう。

ヘルスケア:想定されるシナリオにそれほど大きな差は見られない?

当社のヘルスケア・インクルージョン(包摂)・チームは、過去の医療政策と政治の関連を踏まえ、2024年の米大統領選挙や議会選挙も、これまで同様、医療市場のボラティリティを高めると予想しています。しかし、選挙後に想定されるシナリオの幅は、これまでの選挙と比較して狭いとも見ています。これは、トランプ氏が既に一度大統領に就任し、医療政策に対してどのようなアプローチで臨むのか実例がある一方で、ハリス氏はこれまでの政策を踏襲する可能性が高いと見ているからです。また、医療は、生活費にとって重要な項目ではあるものの、少なくとも現時点では有権者の関心がそこまで高くないため、医療政策や制度が大きく変わる可能性は低いと考えられます。結果として、比較的見通しの良い業界環境となるため、医療関連のサブセクター企業にとっては計画を実行しやすくなるでしょう。

しかし同時に、ヘルスケア・インクルージョン・チームは、医療業界内でも相対的な勝者と敗者が生まれると見ています。当チームは、バリューベース・ヘルスケアの拡大、行動医療サービスへのアクセス拡充、薬剤給付管理の改革や薬価の精査など、選挙結果を問わず続けられるであろう超党派の医療政策があると見ています。

民主党が圧勝となった場合、ハリス氏は、毎年メディケア(米国の高齢者向け公的医療保険制度)に含めるべきか交渉の対象となる医薬品の数を拡大することを提案する可能性があります。この提案が通れば、バイオ医薬品企業の収益見通しに影響が見られるかもしれません。また、メディケイド(米国の低所得者向け公的医療保険制度)や医療保険市場の影響を受ける企業は、資金や補助金に関して引き続き良好な政治環境が期待できるでしょう。一方、メディケア・アドバンテージ(メディケア制度によって承認された民間保険プラン)は、引き続きある程度の向かい風にさらされると予想します。

分割政府下でハリス氏が大統領に就任した場合、米国薬価制度の変更は最小限となり、既存の制度が続くと見ています。

分割政府下でトランプ氏が大統領に就任するか、共和党の圧勝となった場合は、それほど薬価に焦点は当たらないでしょう。一方で、米政府の支出要件があるため、共和党圧勝でもインフレ抑制法が撤回される可能性は低いと考えます。

国家安全保障:結果的に生まれる差が多い?

地政学ストラテジストのトーマス・ムーチャは、ハリス副大統領とトランプ元大統領の優先する政策の差異、そして選挙結果にかかわらず、地政学的環境は、恐らく今後数年間は厳しい状態が続くと予想しています。このような、国家の安全が不透明な状況では、たとえ経済の効率が犠牲になっても、米国や他国の政府の焦点は引き続き安全保障に当てられるでしょう。

安全保障がより重視される結果、安全保障に関わる特定の戦略的セクターが、政策、輸出管理、法的措置などによって保護・推進されると考えられます。また、リスクが競争国に左右されるのを避けるため、政府は企業に対して同盟国に事業を展開することを推奨するでしょうが、これによってサプライチェーンが世界的に途絶される可能性があります。半導体やバイオテクノロジーなどの次世代技術に関わるセクターは、政府が戦略的セクターとして重視する可能性があると見ています。

トーマスは、ハリス副大統領の外交政策はバイデン大統領の政策に沿ったものと見ています。それはつまり、AI、重要鉱物、バイオテクノロジーなど、中国との大国間競争に不可欠な戦略的セクターを引き続き保護・推進していくであろうことを意味しています。

トランプ氏が大統領となった場合の外交政策は、恐らく1期目のトランプ政権の政策に類似したものとなるでしょう。2期目も貿易によって外交政策を形成していくと考えられます。トランプ氏は中国、そして欧州やインド太平洋の特定同盟諸国にも高い関税を課すと宣言しており、これが2期目の外交政策のカギとなると同時に、米中や米国と同盟国間の摩擦の火種になる可能性が高いと見ています。

グローバル産業アナリストのクロード・スタリ―は、共和党と民主党どちらが勝利しても防衛費は高い水準で維持されると見ていますが、その内訳が変わると言います。メディアでは「スターウォーズ計画」と呼ばれた1983年のレーガン政権による戦略防衛構想や2019年にトランプ大統領が発表した米宇宙軍構想など、共和党はこれまで高額な支出や未来的な戦争を前提とする一方で、民主党は、既存の軍事活動の維持管理や現在起きている紛争に焦点を当てる傾向が見られます。世界的には、米国以外のNATO諸国も、引き続き防衛費増加の圧力にさらされ、米国外の防衛支出は、米大統領選挙の行方を問わず上がり続けるとクロードは予想しています。NATOが作成した以下の図表によると、防衛費は加速的に上昇し、NATOが加盟国に設定したGDP比2%の目標を達成する国は、2021年の6カ国に対し、2024年には23カ国に達する見通しとなっています。

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投資家はどのように対応すべきか?

テーマ型投資において政策を注視することは非常に重要であり、政策に変化が生じる可能性がある状況では、より注視すべきと考えます。個々のテーマに対する影響は大小あると見られるものの、当社内の議論では、共和党政権下では規制リスクが低下する可能性があること、今後サステナビリティや電動化はより細かく精査されるであろうこと、防衛に対する支出の増加など超党派の動きは続くであろうこと、事業は国内回帰し、米中関係は悪化するであろうことが共通の意見として浮かび上がってきました。米大統領選挙の結果に伴うリスク要因は意識すべきであると考えますが、選挙結果が特定の投資テーマにとって好ましくない場合でも、土台となるテーマに短期的に悪影響が及ぶ可能性は低いと見込んでいます。しかし、このような状況下で勝者と敗者の間に生まれ得る差異を投資機会として捉えるには、アクティブな銘柄選択と入念なリサーチ、そして政策の変化が与える潜在的な影響を理解する必要があると考えます。

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サイモン・ヘンリー

株式ポートフォリオ・マネジャー
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ダーラ・ダン

ネクストジェネレーションテーマ・ヘッド
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アーロン・コー

インベストメント・ストラテジー・アナリスト