2024年下半期市場展望:株式

米国大型株を超えて:株式投資家の次の一手は?

2025-12-31
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2024年下半期に差し掛かり、予想がハードランディング(強行着陸)からソフトランディング(軟着陸)へ、そしてノーランディング(無着陸)の可能性へと変化しています。しかし、市場の集中度は依然として課題となっています。世界の株式市場では、銘柄だけでなく、セクターやファクターへの集中化も進んでおり、分散投資やリスク管理への懸念が高まっています。

投資家は投資対象が限られる市場をどのように切り抜けるべきでしょうか。ロングオンリーのアプローチにこだわらないことが集中リスクを緩和する一つの方法かもしれません。また私たちは、現在の環境ではクオリティが重要であるという考えを維持しています。一方、市場の幅を拡大し得る要因と、その要因が生じた場合に実現する投資機会を注視しています。

2024年下半期を見据え、構造的背景を分析し、注目すべき株式の投資機会についてご紹介します。

地域別の概況

グローバル

2024年上半期、世界の株式市場は力強いプラスリターンをもたらし、大半の市場が上昇相場となりました。その大部分は世界的な経済成長の回復によって説明することができ、グローバル総合購買担当者景気指数(PMI)は、サービス業と製造業の業況が大幅に改善したことを示しています。

2023年の世界経済の成長をけん引した主な要因は米国でしたが、2024年上半期のPMIデータでサービス業と製造業の新規受注が幅広く回復したことに示されるように、経済の勢いは米国だけでなく欧州や中国にも波及しました。この傾向は2024年下半期も続く可能性が高く、世界のリスク資産にとってはプラスの局面が訪れるでしょう。資本再投資による複利効果が期待され、安定的で配当を増やしている銘柄やセクターに加え、小型株や新興国市場などのより「初期サイクル」に位置する分野など、過去2年間、株価の上昇に遅れをとってきた分野は特に魅力を帯びる可能性があります。

米国

米国株式は、米国株式指数が引き続き人工知能(AI)関連銘柄への大幅なエクスポージャーの恩恵を受け、6か月連続でグローバル株式をアウトパフォームしました。しかしこれは、パフォーマンスの集中が継続していることを意味します。将来的には、小型株、配当株、バリュー株など、見過ごされてきた分野において最も魅力的なリスク・リターンのバランスを見出せるのではないかと考えます。成長の勢いがより著しく鈍化した場合には、安定的で配当を増やしているセクターなど、市場のよりディフェンシブな分野が魅力的なヘッジとなる可能性があります。

日本

世界の投資家が日本の構造的変化というストーリーを認め続けるなか、日本の株式市場は引き続き堅調に推移しました。米国の同業他社と比較してバリュエーションが低いことを踏まえると、特に企業改革が継続してみられるなかで、日本株式は中期的に引き続き魅力的に映ります。ただ、政策当局が円の安定化に奮闘するなか、短期的には一部不透明感が続く可能性は高いでしょう。

欧州

欧州はAIテーマへのエクスポージャーは極めて少ないものの、欧州株式は成長モメンタムの加速とディスインフレが生じるゴルディロックス(適温経済)の恩恵を受けてきました。欧州のこのような環境が維持されれば、この地域では好材料が続くはずであり、明確に焦点を絞った欧州戦略が魅力的なリスク/リターンをもたらす可能性があります。しかし、フランスの次期国民議会選挙は欧州のリスク資産に大きな不確実性をもたらしています。

英国

根強いインフレと金利の先行き不透明感により、英国株式のバリュエーションは引き続き圧迫されています。しかし、英国株式は現在、世界の中でも最も割安な水準にあります。現在のリスク/リターン比率は高いものの、経済に対する投資家の不安が和らぎ、特の次期選挙で政治にある程度の安定がもたらされれば、短期的には大幅な株価上昇につながる可能性があります。

中国

中国の力強さを欠く景気回復と不動産市場に対する懸念の高まりを背景に、中国株式は2023年から2024年初頭にかけて厳しい展開となりました。最近では、政策当局による支援策によって住宅セクターがようやく安定し、それが回復の引き金になるという期待を投資家は再び抱いています。しかし現時点では、真の回復は実現されていません。英国と同様に、リスク/リターン比率は高くなっていますが、投資家心理の落ち込みによってある程度バランスがとれています。経済的および地政学的リスクを考慮すると、中国株式の割安感が他の地域よりも高いことは妥当であると考えます。

新興国市場(除く中国)

先進国市場に対する相対的なアンダーパフォーマンスが15年間続いた後、現在の新興国市場は投資家の注目に値する市場であると考えます。私たちの分析では、新興国市場は米国主導の先進国市場で景気が後退した後の初期サイクルで最もパフォーマンスが高くなる傾向があります。中国は2024年も新興国株式のパフォーマンスの足かせとなる可能性がありますが、比較的低いインフレ率、ファンダメンタルズの改善、低いバリュエーション、市場の非効率性が高いことは、アクティブ・マネージャーにとって魅力的な機会を生み出すと考えます。

私たちが注視する点

  1. 米国の根強いインフレ — 米国経済は明らかに鈍化しているものの、インフレの道筋はそれほど明確ではありません。経済の勢いに合わせてインフレが低下すれば、投資家は早期かつ迅速な利下げを織り込み、市場はこれを好材料として受けとめるはずです。しかし、インフレが根強く維持されれば、米連邦準備理事会(FRB)による利下げの実施は難しくなるため、市場はそれをマイナス材料として捉えるでしょう。
  2. 欧州におけるゴルディロックスの持続可能性 — 欧州の成長が回復を続けるなか、欧州中央銀行は最近、初の利下げに踏み切りました。ディスインフレと成長加速の組み合わせは、欧州株式にとって大きな追い風となっています。しかし、2024年5月のインフレ指標は数か月ぶりとなる大幅な上方サプライズであり、市場はここから欧州のインフレ動向を注意深く見守るとみられます。
  3. 中国の進展 — 中国の経済指標は3か月間回復をみせた後、最近は好悪双方の材料が混在する結果となっています。海外投資家が中国株式に再度関心を抱くきっかけとしては持続的な回復が最も重要であるため、中国の成長モメンタムを注視していくことは引き続き極めて重要です。

チャンスはどこにあるのか?

2024年下半期に入り、さまざまな投資テーマが考えられます。

1. 投資対象の幅広さは改善傾向

2024年6月のS&Pのデータによると、S&P500構成銘柄のうち上位6銘柄が指数の30%超を構成しており、市場の集中度は50年ぶりの高水準となっています。年初来のリターンは再びこれらの大型株にかなり集中していますが、投資対象の幅は戻りつつあります。セクター間およびセクター内の両方で相関が低下し、分散が拡大しており、銘柄選択の機会が生まれる可能性があるでしょう。マクロ経済の不確実性が和らいでいくにつれ、2024年が展開するなかで主に「S&P493」と中小型株のリターンの改善を通じて、投資対象の幅広さが改善すると予想します。その状況は株式配分の拡大を検討する理想的な時期かもしれません。幅広さが完全に展開されるまでに時間がかかる場合は、集中した市場がもたらすリスクを中和する柔軟性が得られるためです。

2. 米国で再燃する小型株 

私たちは、緩やかな成長およびインフレと金利の低下の組み合わせを予想しています。中小型株は2023年は大きく遅れをとり、過去13年間の大半においてもインデックスリターンに大幅な遅れをとっており、緩やかな成長およびインフレと金利の低下という組み合わせは中小型株に有利な投資環境となるでしょう。ITバブル以降、小型株が大型株に比べてこれほど割安だったことはありません。

さらに、セルサイドカバレッジの縮小やETF取引の増加、および2020年から2021年の特別買収目的会社(SPAC)ブーム後にラッセル2000のうち業績不振の小型株が急増したことなどを背景に、中小型株のユニバースは非効率性が高まっています。結論として、私たちは中小型株がアウトパフォームする時期に差し掛かっていると考えているだけでなく、この状況はアクティブ・マネージャーにとって好ましいものであると見ています。

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3. バリュー株に価値を見出す時期

2023年および過去10年の大半において、米国では小型株と同様にバリュー株も大幅な遅れをとっていました(ただし、2023年は欧州と日本ではバリュー株がアウトパフォームしています)。こうしたアンダーパフォーマンスは2024年も続いています。そのため、米国の市場指数は超大型株に集中するだけでなく、セクターやファクター面でも集中化がみられるようになりました。これらの指標をベンチマークとしている顧客のエクスポージャーは、集中する分野への傾斜が増しています。また、世界のインデックスにおける米国のウエイトが大きいことから、この集中はグローバル・ポートフォリオにも当てはまると考えます。

投資家のポートフォリオの多くは、市場の動きによって成長株に偏っており、反転リスクにさらされているため、バリュー株は上昇の可能性とポートフォリオの分散という魅力的な組み合わせを提供します。バリュー株への配分は、クオリティ、テーマ、個別銘柄の投資機会を志向する形、または金利が低下し始める中でインカムを望む投資家にとっては配当を追求する形で実施することが可能です。

4. これまでとは違う日本

日本の名目GDP成長率は30年間にわたりほぼ0%でしたが、現在は大幅に回復しています。賃金の堅調な伸びと企業の価格決定力に支えられ、日本経済は長年続いたデフレ環境から脱却しつつあるようです。投資家は、企業改革が本格化し、企業が資本利益率を重視する傾向が強まっていることも好感しています。

私たちはこうした重大な変化はバリュエーションが妥当な状況で生じていると考えます。私たちの分析では、年初来で株価が上昇した後でも日本の株式市場のバリュエーションは20年の歴史において中央値に位置しており、米国のマルチプル倍率の3分の2の評価となっています。全体として、ファンダメンタルズに基づく上昇相場が継続するなかでは、この状況は魅力的なエントリーポイントになると考えます。

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アンドリュー・ハイスケル

エクイティ・ストラテジスト
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ニコラス・ワイレンゼック

マクロ・ストラテジスト