インパクト投資最前線②:
デジタルデバイド(情報格差)解消の架け橋

2022-12-31
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投資候補の選定基準

ウエリントンのインパクト投資では、「衣食住の確保」「生活の質向上」「環境問題」の3つの分野からなる11の投資テーマに基づき、インパクト企業への投資機会を追求します。投資候補銘柄は次の3つの基準で選定します。

1)重要性:企業の収益や売上高などの50%以上占める中核事業が、投資テーマの社会的課題の解決につながること
2)追加的効果:その企業の社会的課題の解決につながる事業や技術などが他にまねできない独自の存在であること
3)定量化:社会や地球環境へのプラスのインパクトを定量的に評価することが可能なこと

これらの3つの選定基準に加えて、投資収益の成長が見込めなければなりません。また、インパクト運用チームは、投資候補の企業や発行体、業種の財務状況、競争優位性、ESG(環境・社会・ガバナンス)課題などについても評価します。

デジタルデバイド(情報格差)解消の重要性

世界の社会的課題

インターネットの普及:先進国はインターネットの普及率が約87%に対し、発展途上国は約47%にとどまります1

ブロードバンドの利用:モバイルブロードバンド*の普及率が約10%上昇すると、国内総生産(GDP)を約2.8%押し上げると予測されます2


* 携帯電話やスマートフォンなどの移動体通信機器を使用して 無線でインターネットに接続する技術。

「デジタルデバイド(情報格差)」は、ウエリントンのインパクト投資で注目している投資テーマの一つです。先進国と発展途上国、富裕層と貧困層の間のデジタルデバイド(情報格差)を解消することは、不平等を是正するための重要なステップです。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、デジタル化を加速させました。しかし、その陰でインターネットが利用できない貧困層や普及していない地域では、社会包摂(ソーシャル・インクルージョン)や経済的な活躍促進(エンパワーメント)が阻害されています。信頼できるデジタルサービスへのアクセスがなければ、インターネットのアクセスを持たない人や企業はデジタル化の波から取り残されてしまいます。
本稿では南アフリカの携帯電話会社の例を取り上げ、投資先企業の社会的課題解決のインパクトをどのように計測・評価しているのか深掘りすると共に、「デジタルデバイド」分野の投資機会について考察します。

南アフリカの携帯電話会社の事例

インパクト運用チームでは、財務状況が健全でデジタルデバイドの解消につながる事業や技術を手掛けている企業に注目しています。エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が発表したインターネット環境調査3のランキングではアフリカのほとんどの国が下位を占め、ネット環境が不十分であることが明らかになっています。そうした状況下、インパクト運用チームは無線通信製品や通信インフラを手掛ける南アフリカの携帯電話会社に着目しています。同社の事業はアフリカ諸国のデジタルの普及を後押しし、十分なデジタルサービスを受けていない人や地域の社会· 経済的活躍促進(エンパワーメント)の支援につながっています。

インパクトの計測

ウエリントンのインパクト運用チームではインパクト計測管理(IMM)の5つの基本要素の枠組みに沿った成果指標(KPI)を用いて、投資対象企業の技術やサービスなどが、社会的課題の解決目標にどのように貢献しているかを評価します4。例えば、この南アフリカの無線通信会社については、以下のように評価しています。

インパクト計測管理(IMM)の事例:南アフリカの携帯電話会社

impact investing practice bridging the digital divide fig1

上記はいずれも一例にすぎません。例示をもって理解を深めていただくことを目的とした概念図です。

定性評価を重ね合わせる

ウエリントンのインパクト運用チームでは、インパクト成果指標(KPI)に加えて、投資先企業の社会的課題解決へのコミットメントを定期的に定性的に評価します。定量と定性の両評価を重ね合わせることで、企業がもたらす社会や地球環境へのプラスの影響(インパクト)だけでなく、広範な事業活動に関連した環境破壊などの負の外部性や、特定の投資に関連する意図しないマイナスの影響を検証し、包括的なインパクトの把握を追求します。

南アフリカの携帯電話会社の定性評価では、主な負の外部性として企業のネットワーク環境の影響と脆弱性を突くサイバー攻撃の増加の2つが特定されました。ただし、同社は適切な措置を講じており、それらの影響は極めて小さいとみられます。同社は潜在的なマイナス影響へのさらなる対応策に取り組む姿勢を示しています。

国連の持続可能な開発目標(SDGs)との整合

ウエリントンのインパクト運用の11の投資テーマの考え方は、国連が2015 年9月に採択した「持続可能な開発目標(SDGs)」とも整合しています。運用チームは、投資テーマとは別に投資対象企業を国連のSDGs の目標に沿って独自に分類し、SDGs における目標の169のターゲットとも照合しています。いずれの投資対象企業も、国連のSDGs が掲げる国際社会が解決すべき課題と共通目標に対して解決策を示すことができると考えます。

この南アフリカの携帯電話会社は、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の9.C(特に後発発展途上国で情報通信技術の利用を広げ、より安価でだれでもインターネットを使えるようにする)5と整合しています。

impact investing practice bridging the digital divide fig2

企業エンゲージメント

インパクト運用チームは南アフリカの携帯電話会社とのエンゲージメントを通して、顧客セグメンテーション、顧客満足度、価格優位性に関する情報開示の課題に重点を置き、対話を重ねてきました。同社は事業規模を拡大していく意向と共に、アフリカ各地の農村地域や十分なサービスを受けていない人々にも広くサービスを提供していく方針を示しています。

出所:International Telecommunications Union, 2020. 2 Harald Edquist, et al., “How Important are Mobile Broadband Networks for Global Economic Development?”, Imperial College Business School, May 2017. The Economist Intelligence Unit “Inclusive Internet Index 2021”. 4 The Impact Management Project, impactprojetmanagement.com. 国連のSDGsターゲットの記載は一部内容を簡略化しています。

Tara Stilwell

タラ・スティルウェル

株式ポートフォリオ・マネジャー
Campe Goodman

キャンプ・グッドマン

債券ポートフォリオ・マネジャー