FRBへの過度な関心、看過された財政策

2025-02-24
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主なポイント

  • 私たちは米連邦準備理事会(FRB)の引き締めに気を取られ、業績と資産価格を押し上げた財政刺激策を見過ごしている可能性があります。さらに、実質金利は最近の人為的に押し下げられた水準は上回っているものの、長期平均を下回っており、制約的な水準ではありません。
  • 特に、持続不可能な8%という財政赤字を補うためにFRBが年間約2兆米ドルの新規国債発行を実施している状況において、現在の水準の米国債に価値を見出すことは難しくなっています。
  • 経済およびインフレは2024年後半に再加速する可能性があり、FRBは今後も対応が求められるでしょう。しかし、FRBは金利引き下げを受け入れる姿勢があり、リスク資産のアンダーウエイトを正当化するのは難しくなっています。
  • 個別企業の保守的な財務政策により、クレジット・ファンダメンタルズは良好となっており、FRBの過去の引き締めサイクルとは状況が異なります。特にソフトランディング・シナリオの恩恵を最も受ける先の一つである銀行をはじめ、クレジット市場については見通しは明るいと考えています。

FRBの引き締めに気を取られ、財政刺激策を看過

FRBの引き締め政策により、米国債の利回りがイールドカーブ全体で大幅に上昇し、債券市場の参加者はFRBの姿勢を注視していました。しかし、大規模な財政刺激策とそれが経済や市場に与える影響については十分な関心が向けられていなかったと感じます。私は「量的緩和がバリュエーションを拡大させたのと同じように、財政刺激策が業績を押し上げた」と考えています。量的緩和時代に積んだ経験から、私は市場がFRBと量的緩和によってけん引された過去のレジームに戻ることを懸念していますが、財政刺激策が経済に与える影響と、それが業績や資産価格に与える影響に焦点を当てることが賢明だと考えます。

米国だけでなく世界の多くの国で、財政政策が主導的役割を担い、金融政策は後回しになっているという新しい局面に突入したと考えます。経済や市場への影響は多大です。2024年の財政刺激策は、見方によっては2023年よりも僅かに縮小される計画ですが、第二次世界大戦後、2009年や新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的流行)などの危機的状況の時にだけ関心が薄れる財政赤字は、依然として歴史的な規模になることが予想されます。米国政府が7%~8%の赤字を記録する一方で米連邦公開市場委員(FOMC)は何か問題が起きる前に利下げを実施するように見受けられるなか、米国が2024年に厳しい景気後退に陥ることは想像しがたいと考えます。米国政府が賢明で持続可能な政策を追求しているとは考えていませんが、その見解が認識される日は、(1)当社の投資可能な時間軸を超えており、(2)現在よりもはるかに高い金利構造を必要とするでしょう。

実質金利はそれほど制約的ではない

インフレ率が低下し続けるなか、実質スポット金利が上昇し、FRBが実質的に政策を引き締めていくとの見方から、市場は今後12か月間で約150ベーシス・ポイントの利下げを織り込んでいます。実質政策金利は近年に比べて上昇しているように見えますが、10年債の実質金利は長期平均を下回っています(図表1)。近年の状況は、量的緩和とパンデミックの期間中にFRBが資産を買い入れたことによって人為的に低く抑えられていたものです。8%という財政赤字を補うためにFRBが年間約2兆米ドルの新規国債発行を実施している状況において、米国債に価値を見出すことは難しくなっています。経済の教科書では、巨額の赤字で資本を呼び込むためには平均を上回る実質金利が必要だとされています。米国政府の財政状況を考えると、2%を下回る実質金利は魅力的ではありません。米国の家計は4%前後の利回りの5年債や10年債を購入することに意欲を示さないでしょう。しかし、今後数年間で増大する赤字に資金を提供する必要があるのはこの層です。

米国の家計は4%前後の利回りの5年債や10年債を購入することに意欲を示さないでしょう。

図表1

米国債実質利回り

米国債実質利回り

出所:セントルイス連邦準備銀行のデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。データ期間:1982年1月―2024年1月。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

金融環境と実体経済

当社のマクロ・ストラテジスト、マイク・メデイロスは、金融情勢の変化が実体経済に波及するまでのタイムラグは過去よりもはるかに短くなっており、パンデミック前の約18カ月から現在は3カ月近くに縮小していると推定しています。この3カ月で成長率とインフレに関するデータは僅かに鈍化していますが、2023年10月末から見られている金融緩和(金利/住宅ローン金利の低下、株価上昇、堅調な住宅市場など)を考慮すると、2024年第2または第3四半期に経済が再加速するという見方を受け入れる姿勢を持つべきでしょう。また、インフレが伴う可能性もあります。これは、FRBが引き締め終了を宣言する度に市場は2段階先の本格的な利下げサイクルを想定し、実質的に引き締め政策が解除されるという循環的な問題です。このような市場の循環的な性質は長期にわたり存在することになり、私たちはそれに対応するべきだと考えます。

実際にこの流れが今後数か月で展開される場合、FRBは厳しい状況に置かれるでしょう。2024年3月に利下げを実施しても、データが激しく変動し、2024年第2四半期には引き締めの可能性に言及する必要が生じる状況です。FRBはインフレに打ち勝ったと確信する前になぜ利下げに急ぐのか、私はその点を疑問に感じています。インフレ率は引き続き目標値をはるかに上回っており、労働市場は逼迫し、株式市場と住宅市場は過去最高に近い水準にあるため、FRBの役割が終了したとは考えられません。

FRBが引き締め終了を宣言する度に市場は2段階先の本格的な利下げサイクルを想定し、実質的に引き締め政策が解除されるという循環的な問題です。このような市場の循環的な性質は長期にわたり存在することになり、私たちはそれに対応するべきだと考えます。

保守的な財務政策が企業のバランスシートを強化

2022年序盤、FRBが景気沈静化に動いていることを受け、企業の経営陣は債務の返済や現金の積み増しを行いました。売上が鈍化したにもかかわらずこれを実施できたのは、2022年に向けてスタート時のバランスシートが健全であったことと、キャッシュフローに悪影響を及ぼすほど経済が急速に減速しなかったためです。この現象は、経済全体の財務情報データと個別企業のボトムアップの総計によって裏付けられています。市場参加者は、過去のクレジット・スプレッドと経済に対するFRBの利上げサイクルの影響を過度に意識していると考えます。市場参加者は、私たちがリサーチ対象としている多くの企業の財務政策により注目すべきでした。つまり、「景気減速期に高い利回りで借り入れることは魅力的ではない」ということです。こうした政策により、2024年のクレジット・ファンダメンタルズは特に良好な状態でスタートしました(図表2)。

米国投資適格債のクレジットファンダメンタルズ

米国投資適格債のクレジットファンダメンタルズ

出所:S&P Global Market Intelligenceのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。データ期間:2004年3月31日―2023年9月30日。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

銀行セクターがアウトパフォームする見通し

私の見解では、クレジット市場で最も魅力的な投資機会は銀行にあると考えます。銀行は最もソフトランディング・シナリオの恩恵を受けるセクターの一つでありながらも、歴史的に他のセクターと比較して拡大したスプレッド水準で取引されています。2023年3月の銀行問題は過ぎ去ったと見ています。資本財セクターのように、銀行セクターもこの数四半期の間に資本を再構築する時間がありました。クレジット・デフォルト・サイクルによる懲罰的損失の見通しも大幅に低下したようです。最後に、経済がある程度堅調に推移し、金利がより長く高く維持されれば、今後数年は銀行が魅力的な金利で融資を行う可能性があるでしょう。規制の観点から、これが素晴らしいエクイティストーリーであるかはわかりませんが、今後数年は過去2年よりも収益性は改善すると見込んでいます。

クレジット市場に対する前向きな見通し

財政支援、底堅い労働市場、家計の堅調なバランスシートに支えられた力強い経済は、企業のキャッシュフローに恩恵をもたらすでしょう。同時に、現在一般的となっている利回り水準では、ほとんどの企業がバランスシートにレバレッジをかけることに積極的ではありません。これはクレジッド・スプレッドにおいてはプラスですが、2023年末の急激な債券価格の上昇を受けて、投資機会はそれほど魅力的ではなくなったと認識しています。私はインカムの維持を重視していますが、押し目買い(押し目は浅いと予想)を可能にするだけの流動性は保有する予定です。クレジット・スプレッドのボラティリティは金利のボラティリティと比較して大幅に低いはずです。しかし、短期金融市場の資産残高が過去最高を記録したことは、多くの市場参加者が景気後退を見据えていることを示しています。経済の最悪の懸念は既に過去のことであるように見受けられ、FRBが利下げの口実を探している今、リスク資産のアンダーウエイトを正当化することは難しいと感じます。現金保有者は押し目買いによる再投資機会を求めている可能性が高いため、相当の期間にわたりリスクテイクの姿勢を支えるでしょう。投資家がロング・ポジションに変更し、企業のバランスシートにそれなりのレバレッジが構築されるまで、信用崩壊は想定しにくいと考えます。その状況になるまでの道のりはまだ長いといえるため、オーバーウエイトするリスクに傾斜したいと考えます。

FRBが利下げの口実を探している今、リスク資産のアンダーウエイトを正当化することは難しいと感じます。

Connor Fitzgerald

コナー・フィッツジェラルド

債券ポートフォリオ・マネジャー