新たなマクロ環境への移行はどのような影響をもたらすのか

2024-03-31
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インフレ率の急騰と利上げの1年を経て、現在の市場コンセンサスは、中央銀行が低インフレと健全な成長というゴルディロックス(適温経済)のシナリオへの回帰を可能にする「ソフトランディング」を達成する寸前にあると想定しているようです。しかし、ウエリントンのマクロストラテジストが注視しているいくつかの景気先行指標は、世界の経済成長とインフレが底入れしつつあり、中央銀行は市場予想を上回る引き締めを実施せざるを得ない可能性があるという別のシナリオを示しています。このリスクの高まりは、不透明感の高まりとボラティリティの上昇という広範な展望に適合します。マクロストラテジストの分析は、経済が構造的な高インフレ、頻繁に繰り返すサイクル、さらに際立つ各国固有のリスクを伴う非常に異なる時代に入ったことを示唆しています。マクロストラテジストのジョン・バトラーとヘッジファンドのマクロ戦略運用担当者のマーク・サリバンに、新しいマクロ環境とその投資への主な意味合いについて聞きました。

Q. 新しいマクロ環境の主な特徴は何ですか?

バトラー:過去20~25年間は極めて異常な時期でした。というのも労働力やサプライチェーンのグローバル化に加え、資本の自由な移動などの要因が、資産間の相関にほとんど変化がなく、インフレ率が低位に安定した環境を生み出したからです。今やこうした要因の一部が停止または逆転さえしており、したがって、より振幅の大きいサイクルに戻る可能性が高いと思われます。

サリバン:投資の観点から見ると、この不透明感の高まりと国・資産間の格差拡大は、相当に大きな新しいリスクにつながり、潜在的な結果のちらばりが遥かに広がるばかりでなく、活用すべきマクロ戦略の投資機会が増大します。

Q. この環境変化において次に想定される段階は何ですか?

バトラー:実際、インフレ率の低下によって景気刺激策が経済を加熱させることはないという安心感を中央銀行に与えた環境は転換しています。今や高成長が高インフレに繋がり、それがインフレ率を目標水準まで下げるために著しい需要破壊を必要とするというパターンに戻っています。

現在の引き締めはインフレ率を大幅に引き下げるには不十分で、景気は予想より底堅い可能性があると考えます。経済成長とインフレは既に底入れし始めていると見ています。すなわち、中央銀行は想定よりも引き締めを強化しなければならないか、最終的にそうする意思があります。市場は追加利上げの可能性を認識している兆しを示し始めていますが、市場コンセンサスはまだ引き締めサイクルの早期終了を見込んでいるようです。そのため経済指標がその見通しと食い違い始めれば、景気変動が再開する可能性があります。

Q. インフレは今後どうなるでしょうか?

バトラー:インフレ率の上昇ペースは現在鈍化しているものの、ウエリントンの分析では、根深い構造的要因がインフレ率の上昇を支えていると見ています。そうした要因として、多くの政府が防 衛、エネルギー転換、所得格差などの分野への支出を増やす必要性に加え、ショックの影響を和らげるために公的資金を使う意欲などが挙げられます。

労働市場も注視すべき重要な要因です。労働市場と賃金が景気後退に反応しにくくなってきた可能性を示唆する証拠があります。それが正しければ、インフレ率は現在見られるように低下すると思われますが、高水準で底をつけ、変動が激しくなる可能性があります。

インフレ率(および景気)の変動が激しくなれば、金利の変動も激しくなります。なぜなら中央銀行は景気の転換点を見極めにくくなり、景気の後退と拡大を増幅するからです。

Q. 経済成長の底入れに関する見通しの根拠は何ですか?

バトラー:複数のマクロ経済要因が相まって世界の経済成長を再び押し上げる可能性があるため、経済成長指標、そして特に購買担当者景気指数が提供する先行指標は、今後数カ月にわたり注視すべき重要な指標です。米国では、これまでの消費の鈍化は段階的で、所得の改善と残存する貯蓄がともに残された下支え要因です。また、中国の経済再開による需要押し上げ効果は、現在の大方の予想よりも大きいと考えます。日本も、賃上げ圧力が増大している兆候があるにもかかわらず、金融政策が超緩和的姿勢を維持しているため、高い名目経済成長率を享受すると見込まれます。欧州の経済成長も、エネルギー価格上昇圧力が和らいでおり、概ね緩和的な金融・財政政策を維持しているため、上振れする可能性があります。より根本的なレベルでは、ウエリントンのコンセンサスと異なる見方は、ドイツの財政政策に対する態度の変化と欧州連合(EU)の調整強化によって、欧州の景気が自律的に拡大し、インフレを生み出す状況が生じるというものです。

Q. 中央銀行はどのような役割を果たす可能性が高いでしょうか?

サリバン:チーム内で盛んに議論している話題の一つは、中央銀行および市場の構造的な立場と景気が一致するか否かという点です。両者が一致しない時には、多くの場合、資産価格が最も大幅に変動するからです。この不一致は昨年初頭に生じ、ほとんどの中央銀行が今や政策を 軌道修正していますが、興味深い点は、インフレがピークをつける最初の兆しが見られた時に、米連邦準備理事会(FRB)と他の中央銀行はアクセルから足を離す用意ができていたと思われることです。それと同時に、投資家はまだ「最後の利上げを受けて買う」という古いモデルを再現しようとしています。ウエリントンの日次での会議や運用者間の協議において、バトラーと同僚がこの固定的な行動に伴う資産価格のリスクを強調しているため、そうした動きをかなり警戒しています。

バトラー:最終的に、中央銀行は、その多くが複数の代替的な目標を積み上げており、インフレ率を目標水準以下に低下させるために必要な需要破壊を回避すると考えます。さらに、新しい環境は金融市場を不安定にするリスクを高める可能性があり、中央銀行は常にインフレ目標より金融市場の安定を優先するとみています。

Q. この環境変化はポートフォリオ構築にどのような意味合いがあるでしょうか?

サリバン:意味合いは大きいと考えます。投資家がほぼすべての資産クラスをロングとすることで利益を獲得した過去の市場環境は今や終了しています。投資家として、システマティック・バイアスやファクター・バイアスをとることなく顧客にリターンを提供し、理想的にはポートフォリオ内のリスクを分散させるエクスポージャーを提供したいと考えています。新しい環境下でそれを成功させるためには、多様な側面と高度な分散を必要とすると見ており、ポートフォリオでは、多様な側面と分散の可能性を評価することに重点を置いています。これは今やさらに重要であると同時に、その達成が格段に難しくなっています。

Q. それはターム・プレミアムにどのような影響を及ぼしますか?

バトラー:ウエリントンの分析によれば、ターム・プレミアムの低下傾向は、異常に高水準の中央銀行の流動性に加え、資本の自由な移動と世界全体で大幅に過剰な貯蓄と密接に連動しました。今やこれらの要因がすべて逆転していると考えます。時間の経過とともに、これがターム・プレミアムを大幅に上昇させる可能性があると思われます。

Q. 投資家が考慮すべき主なポイントをいくつか挙げてください。

サリバン:集中リスクはこの環境下で主な懸念材料です。大まかに言えば、優れたリサーチを行うことは確かに有益となってきましたが、予測および最新のリサーチを維持することも難しくなっています。この点は中央銀行と財政当局にも当てはまります。そのため、金融・財政政策が常に正しいということはありません。流動性がさらに引き揚げられるにつれて、新たな脆弱性も発生します。多くの地政学的なサプライズが生じる可能性も懸念しています。地政学ストラテジストの助けを得て、そうしたイベントへの対応に努めることが重要と考えます。これらすべてが、ポートフォリオにおいて多様な側面と高度な分散を保有し、受動的ではなく能動的に行動すべき追加の理由であると見ています。

Q.次のショックはどこから来ると思いますか?

バトラー:いずれ金利が低位に安定した世界に戻ると市場がまだ概ね前提にしていることが主なリスクであると考えます。昨年英国で見られたように、これらの前提が試される時には、厳しい結果を招く可能性があります。日本はおそらく、これらの前提が最も根深く組み込まれているため、そうしたショックに対して最も脆弱な市場です。そのため、日銀がどのようにイールドカーブ・コントロール政策から脱却するかは、特に日本が流動性と資本を世界に提供している役割を考慮すると、注視すべき重要な分野です。住宅市場に多額の債務がある一部の小規模自由経済国など、より脆弱な国も注視しています。

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ジョン・バトラー

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