クオリティ・グロース投資:
インフレと金利上昇の影響

2022-12-31
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マクロ経済に逆風と追い風が同時に吹き付けています。このような環境下、グローバル・グロース株式投資にあたっては、ポートフォリオのバランスが肝要であると考えます。私たちが運用するクオリティ・グロース株式戦略では、投資対象銘柄を、クオリティ、グロース、バリュエーションの上昇余地、キャピタル・リターン(投資総還元率)の4つのファクターを用いて評価しますが、各ファクターを重視する度合いは現在が景気サイクルのどの局面であるのかによって異なります。世界経済のトレンドを定量化したウエリントン独自の指標であるウエリントン・グローバル・サイクル・インデックス1(図表1)は、昨年からの過去最大の景気回復を反映して急上昇し、最近ピークに達しましたが、その後横ばいで推移しています。この状況を考慮し、現在は、投資ユニバース銘柄を評価・順位付けする際に、上記の4つのファクターを均等に重視しています。同時に、足元の不安定な市場を乗り切る手だてとして、高クオリティの維持とバリュエーション規律に特に留意しています。

本稿では、この市場環境がグロース銘柄に与える影響と、今後1年を見越して有望とみられる分野について論じます。 

1ウエリントン・グローバル・サイクル・インデックス:世界の経済活動のトレンドを定量化したウエリントン独自のインデックス。構成要素:鉱工業信頼感指数、消費者信頼感指数、設備稼働率、失業率、グローバル・イールド・カーブ、政治リスク、企業の合併・買収活動。これら7つのマクロ指標の将来予測と世界景気の方向性についての仮定を組み合わせています。仮定は過去の実績と将来結果の予測に基づき、従って、この分析には多くの限界があります。実際の結果は、仮定に反映された将来予測と大きく異なる場合があります。

図表1
世界景気サイクルはピークに達し、その後は横ばいで推移

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*全期間の相関。出所: MSCI、ブルームバーグ、データストリームのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。期間:1988年1月31日~2021年9月30日。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

逆風と追い風が交錯

まず、グロース株に影響を及ぼす現在のマクロ経済要因を評価する必要があります。昨年は、新型コロナ感染症に有効なワクチンと治療法の開発、世界各国の前例のない金融緩和策と財政刺激策、消費者信頼感の改善などのマクロ要因が経済成長率を押し上げました。

しかし、インフレ率が上昇し、米連邦準備理事会(FRB)が債券購入策の縮小を進め、利上げに着手しようとする今、2021年の追い風は逆風の勢いを強める要因になりつつあります。2021年9月にインフレ率は30年ぶりの高水準に達しましたが、市場は今後インフレが持続的なものであることを織り込むとみています。私たちは、リフレーションの下支えに十分な賃金の上昇がなければ、エネルギー価格や物価の上昇が消費者信頼感を悪化させ、実質賃金を目減りさせるため、2022年上半期に経済成長率が鈍化すると予想しています。

マクロ経済分析の次に検討すべきは、上記の多様なマクロ要因がグロース企業にどのような作用を及ぼすのかということです。

金利上昇の影響

金利上昇の影響は企業やセクターによって大きく異なります。プラス面は、高クオリティ・高成長の金融機関が利ざやの拡大から恩恵を受けることです。例えば、富裕層向けに資産管理業務を行うウェルスマネジメント会社は預かり資産残高をベースとした手数料を引き上げることができ、銀行の預貸利ざやは金利の上昇につれて拡大し、上場市場との相関が低い未上場株式投資に対する需要が増加します。

一方で、金利上昇時には、バリュエーション規律がいつにも増して重要になります。そして、グロース株式投資では、その重要性がさらに高まります。金利上昇は資本コストを上昇させるため、マルチプル(株価評価倍率)が高いなど、割高な銘柄ほど影響を受けます。例えば、一部のテクノロジー株にこの傾向が認められます。これは、私たちがバリュエーション規律を投資プロセスにおける必須の検討項目としている理由の一つです。私たちは、バリュエーションの上昇余地が最低でも10%以上ある銘柄の特定に努め、同時に、フリーキャッシュフロー(FCF)利回りが悪化している銘柄への投資を避けます。また、負債比率の高い企業やドル建て負債を多く抱える新興国企業も金利上昇環境で苦戦する可能性があります。FCFマージン(FCF÷売上高)が高く、負債比率が低い、高クオリティの企業を重視することが金利上昇環境ではとりわけ重要になります。

インフレの影響

インフレ圧力のグロース銘柄への影響も企業やセクターごとに大きく異なります。一部の企業は、利益率を低下させずに、コストの上昇を吸収することができます。コスト増を価格に転嫁させることができるほど、強い価格決定力を持つからです。ソフトウエア・サービス、ヘルスケア、データ分析、資本財・サービスのセクターにそのような企業が存在します。該当する企業の優位性はインフレ下で高まります。ユニークで付加価値が高く、効率性の向上やコスト低減を実現できるなど、顧客にとって必要不可欠なプロダクトやサービスを提供しているため、高い価格決定力を保持することができます。

逆に、差別化されていない、付加価値の低いプロダクトを提供する企業、特に、オンライン販売により価格透明性が高い場合は、価格決定力が弱くなります。例えば、生活必需品セクターは他のセクターよりも、現在のインフレ圧力の上昇に対して脆弱です。こうした企業は原材料価格と輸送コストの上昇を十分に顧客に転嫁することができず、自らでコストを吸収する必要があり、その分だけ利益率が低下します。賃金の上昇も労働コストの増加につながり、消費者サービスやコンサルタント業の利益率を低下させます。注目すべきは、グローバルに事業を展開する各業界の大手企業は賃金の上昇にそれほど影響されないことです。社員の採用や研修のための優れたテクノロジー基盤を整え、多様な国での人員採用が可能だからです。こうした対応は中小企業には容易なことではありません。

中国グロース株投資の機会

最後に取り挙げるのは中国グロース株です。私たちは中国の潜在的な成長力は高く、2022年に多くの投資機会が生じるとみています。同国は2021年に規制を強化し、流動性の供給を抑制しました。結果として、中国の経済成長率の伸びは他の主要国のそれと比べて低く、中国株式は劣後しました。しかし、中国は2022年に多くの投資機会を提供すると考えます。世界の他の国々が引き締め策を採る中、中国は景気刺激策を採るとみているためです。さらに、中国の規制強化の動きは一服すると予想し、中国株の足元のバリュエーションは割安であると判断しています。

特に、消費やインターネット関連企業とヘルスケア企業を有望とみています。これらのセクターは政府の長期的な成長支援策から恩恵を受けるうえ、台頭する中間層の可処分所得がモノやサービスの消費に向かうと予想しているためです。

まとめ

現在の市場は、政府の景気刺激策、金利の上昇、インフレ、規制など、マクロ要因の影響を強く受けています。グロース株運用者である私たちは、規律に基づくシステマティックな運用哲学とプロセスを堅持することで、足元の不安定な環境を乗り切ることができると考えています。2022年以降を展望すると、クオリティ、潜在成長力、バリュエーションの上昇余地、キャピタルリターンの高い企業を見極める私たちのアプローチは現在のような市場環境下では特に有効であると考えます。

John Boselli

ジョン・ボセリ

株式ポートフォリオ・マネジャー