グローバル市場見通し:2024年下半期

過去最高値とCPI:次は何か?

2024-10-15
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要旨:

  • ファンダメンタルズは、経済成長、インフレ、金融政策の観点から見ると世界的に良好で、割高なバリュエーションや不透明な政治情勢にもかかわらず、リスクオンを支持しています。インフレが低位に落ち着くかどうかはまだ見通せないものの、中央銀行は利下げ基調です。
  • グローバル株式に対して小幅オーバーウエイトの見通しを維持しており、株式市場の上昇が超大型株以外にも広がる兆しが見られれば、より上向きに転じるでしょう。各国の収益成長も拡大することを期待しており、地域別の見通しは中立としています。
  • デュレーションに対しては、経済成長とインフレ鈍化の兆し、米連邦準備理事会(FRB)の緩和寄りの政策スタンス、利下げ回数が2024年4-6月期より少ないという市場予想を踏まえ、国債の見通しを小幅オーバーウエイトに引き上げました。クレジット・スプレッドはタイトな水準が続くと見ており、特にハイイールド債を選好しています。
  • コモディティに対しては、特に原油の需給動向およびキャリーが良好であることから、小幅オーバーウエイトの見通しです。
  • 下振れリスクとしては、インフレの再燃、米国または欧州の政治的混乱、中東における紛争の拡大などが挙げられます。上振れリスクとしては、ディスインフレの再開による積極的な利下げ、超大型テクノロジー企業以外の予想より堅調な業績、ガザ地区における戦争の終結などが挙げられます。

経済的なファンダメンタルズが市場を比較的落ち着かせてきたものの、今年は重要な米大統領選の年とあって政治的ノイズが高まっています。しかし、それが市場に持続的な影響を及ぼすかどうかは別の問題です。選挙結果に及ぼす影響を予測することは困難です。そこそこの経済成長、インフレの鈍化、信用できる金融政策といった基本的な背景には持続力があるという見通しに関して確信度を強めており、リスク資産に対しては、バリュエーションは割高ではあるものの、強気の見通しです。米国の経済成長は減速しており、労働市場はやや緩和している兆しが見られます。サービス物価の上昇率は高止まりしており、居住費は高いものの、傾向は下向きです。そのため、FRBはいずれ金融緩和に動き、株式および債券を後押しするでしょう。

もちろん、政治情勢を無視することはできません。フランスの欧州議会選挙での極右・国民連合(RN)の勝利とマクロン仏大統領による解散総選挙の発表は、2024年6月に債券市場を押し上げました。GDPの5.5%に達するフランスの財政赤字に加え、国民連合による大衆迎合的な支出案を背景に、フランス10年国債とドイツ10年国債の利回りのスプレッドは、フランスの財政懸念が同様に高まった2017年初頭以来の水準まで拡大しました。しかし、2つの理由から、これが幅広い問題にまで発展するとは見ていません。第1に、欧州連合(EU)は、その財政ルールと制度的基盤が課題に直面しているものの、欧州連合の分裂をリスクとして見ていません。第2に、2022年に英国で、2015年にギリシャで、2017年にフランスで見られたように、財政政策が放漫と見なされる場合、市場は政治家に規律を求める可能性があります。仮に危機が続いて起きても、欧州中央銀行(ECB)は、リスク・プレミアムがある程度まで上昇すれば、最後の買い手になると見込まれます。その他の地域でも政治情勢に起因する市場の混乱を注視していきますが、そうした混乱が今後12カ月の見通しに影響を与えるほど持続するとは考えていません。最終的に、米国のねじれ議会が支出を抑制する可能性がある一方、英国の選挙が市場に影響を与えることはないと考えられ、より明るい見通しをもたらす可能性さえあります。

良好なファンダメンタルズ環境を確信し、グローバル株式に対して小幅オーバーウエイトの見通しを維持していますが、特に選好している地域はありません。新興国株式に対する見通しは中立に引き上げました。バリュエーションは相対的に割高ではないものの、政治情勢とFRBによる利下げの遅れがマクロ経済見通しを悪化させています。また、マクロ環境、そして米国の利回り低下が流動性へのアクセスを改善してきたことから、リスク資産の中ではハイイールド債を選好しており、中でもフランスの政治的懸念に反応してスプレッドが拡大したことから、欧州ハイイールド債をより選好しています。コモディティの中では、逼迫した市場を保ちたいという石油輸出国機構(OPEC)の思惑と原油先物のポジティブ・キャリーを踏まえ、原油に対して小幅オーバーウエイトの見通しです。

国債については、経済成長の減速、インフレ率の低下、いずれ行われる中央銀行の緩和が、先進国地域全体にわたりデュレーションを適度にロングとする私たちのスタンスを裏付けています。日本に対する見通しは幾分か異なります。日本では、特に円が安値を更新していることから、日銀の政策はインフレ統計と同調していないと考えられますが、経済成長関連指標の悪化を踏まえ、日銀は現状を維持すると考えています。

投資への影響

グローバル株式へのエクスポージャーを堅持:経済成長率とインフレ率は高水準から低下しており、中央銀行はいずれ利下げに踏み切ります。良好なファンダメンタルズが企業業績を支えると予想していることから、バリュエーションが割高で政治的なノイズはあるものの、リスクオン姿勢を維持するべきと考えています。

株価上昇の裾野拡大を予想:もはや地域別でのバイアスはなく、株価は先進国と新興国で上昇する可能性があると考えています。また、超大型テクノロジー株以外の分野でも業績が改善すると見ており、バリュー株や小型株などの出遅れてきた分野に恩恵をもたらす可能性があると見ています。セクター別では、素材、生活必需品、コミュニケーションよりも金融、公益事業、一般消費財・サービスを選好しており、情報技術に対しては中立の見通しです。

デュレーションおよびクレジットをオーバーウエイト:ほとんどの中央銀行が利下げ基調に転換しているため、地域全般にわたり利回りの低下余地があると見ています。キャリー、強い需給要因、デフォルト率の低下を背景に、引き続きクレジット・スプレッドを選好しています。上向きのマクロ環境と高いキャリーを踏まえ、投資適格社債よりハイイールド債を選好しています。

良好な市場環境への期待が阻害される可能性:ファンダメンタルズはリスクオンを裏付けるものの、特に欧州と米国における政治情勢に起因するボラティリティの高まりを懸念しています。今後の状況次第ですが、上向きの企業業績および信頼性の高いクレジット・スプレッドの平均回帰を踏まえ、割安なバリュエーションを機会と捉えて株式を積み増す方針です。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
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インベストメント・ストラテジー・
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