グローバル市場見通し:2024年第1四半期

分岐点:先行きは減速か再加速か

2024-03-31
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要旨

  • グローバル株式に対する見通しを中立に引き上げました。世界経済は底堅さを維持し、インフレ率は低下し、金融引き締め策は実質的に終了しています。しかし、市場は経済成長が予想を下回り、景気後退懸念が再燃するリスク、または経済成長が再加速し、インフレ上昇圧力を加えるリスクをほとんど織り込んでいません。
  • 日本については、インフレ率と利益率の上昇が見込まれる特異な経済状況にあると見ており、先進国株式の中では引き続き日本を最も選好しています。 中国については、不動産市場の回復が見えにくいものの、センチメントが既にかなりネガティブであるため、中立の見通しを維持しています。  
  • 国債のデュレーションについては、中立のスタンスを維持しています。中央銀行は金融緩和に備えているものの、市場の利下げ期待は行き過ぎと考えます。日本の実質利回りは、金融政策の修正により最も上昇しやすい脆弱性が際立ちます。スプレッド・セクターについては、スプレッドがデフォルトの増加に対してわずかなクッションしか提供しないため、小幅アンダーウエイトを維持しています。 
  • 構造的な要因によって、インフレ率は世界金融危機後の局面より高水準を維持し、激しい変動が続くと見ています。そのため、コモディティに対して前向きの見通しを維持しています。原油価格は経済成長の鈍化予想に応じて下落してきたものの、需給ファンダメンタルズに基づいて上昇余地があると予想しています。 
  • 下振れリスクとしては、深刻な景気後退または予想を上回るインフレや地政学的リスクなどが挙げられます。上振れリスクとしては、米連邦準備制度理事会(FRB)が市場予想に沿って、継続するディスインフレを背景に利下げに転じ、経済成長がコンセンサスを上回るというシナリオが挙げられます。

「景気後退は回避された」というのが2023年全体と同年の好調な市場パフォーマンスを最も適切に説明すると考えます。FRBの合計5.50%の利上げサイクルは、一部の市場に打撃を与え、なかでも米国地方銀行の破綻が最も顕著でしたが、堅調な個人消費と人工知能(AI)を巡る熱狂による穴埋めは過小評価されました。この結果は安堵をもたらしたものの、「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国の超大型株が市場を支配したことから、多くのアセット・アロケーターは自己のポートフォリオの結果に失望しました。

市場は今や、FRBの予測を超える利下げ期待を高めています。確かに経済成長とインフレの見通しは改善しており、経済にはより良い「均衡」があります(図表1)。しかし、リスク資産は既に急激な上昇を経験しており、株式のボラティリティが新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の最低水準まで低下したことから、より良好な金利環境が既に織り込まれているのか、という疑問が生じています。

この点に関連して、投資への影響が大きく異なる複数のシナリオが考えられます。一つは、利上げの効果が遅れて経済に打撃を与え、景気後退懸念が再燃するというシナリオです。もう一つのシナリオは、経済が再加速してインフレ率を押し上げ、市場が期待する利下げを妨げるというものです。

経済と市場がどちらの方向に振れるかは分かりませんが、私たちは市場が2024年に予想する平坦な道のりには懐疑的で、グローバル株式と国債に対して中立の見通しを維持しつつ、資産クラス内の相対価値に注目しています。とはいえ、グローバル株式より国債を選好した2023年と比べてリスクを高めています。

クレジットについては、スプレッドがファンダメンタルズと比べてタイトで、ファンダメンタルズは悪化していると見ているため、小幅アンダーウエイトを維持しています。債券利回りは2023年10月半ばから1.00%低下しているものの、既存債のクーポンと比べて遥かに高いリファイナンス金利に直面しているハイイールド債発行体にかかるリスクをほとんど相殺しません。私たちは、高格付けの投資適格社債を選好しています。

地域別の見通しは相対価値に基づきます。国債の中では、日銀が今年どこかで利上げに踏み切るという予想を背景に、日本より欧米を選好しています。株式の中では、日本が欧米より上昇余地が大きいという確信度の高い見通しを維持しています。

最後に、コモディティについては、原油の見通しに基づいてオーバーウエイトの確信度を強めています。原油価格の下落は、市場が供給の制約を過小評価しているという見通しに基づく投資の好機であると見ています。

図表1

経済のより良い均衡はリスク資産に投資する好機を示唆しているか?
先進国の購買担当者景気指数(PMI)

出所: Bloomberg Finance LP、S&P Global Developed Market PMIのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。データ期間(製造業):1998年12月~2023年11月。データ期間(サービス業):1998年12月~2023年11月。 ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

投資への影響

株式エクスポージャーを割高ではない分野に移行 — 経済成長率とインフレ率の低下というファンダメンタルズの環境の改善およびFRBの利下げ見込みを踏まえ、少なくとも中立の株式エクスポージャーが妥当と考えます。しかし、超大型株の相対的に割高なバリュエーションを考慮し、過小評価された公益事業およびエネルギー・セクターにより良い投資機会があると見ています。ディスインフレは一般消費財・サービス・セクターにとってプラスと見ています。

日本を始めとする地域の利点を模索 — 米国外の株式は割高ではなく、サイクルの異なる段階にあります。日本は、金融政策をわずかに引き締めても、利益率の改善にはまだ長い道のりがあると考えます。

中立のデュレーションを維持 — FRBの政策転換は国債市場にとってプラスですが、それは市場に織り込まれており、金利はインフレと米国債の供給に応じて上昇または低下する可能性があるでしょう。国債市場の中では、日本は金融政策の転換が予想されるため、欧米より下振れリスクが大きいと見ています。スプレッド・セクターについては、割高なバリュエーションおよびより高い金利での大量のリファイナンス・ニーズを踏まえ、小幅アンダーウエイトを維持します。

市場の良好な予想に反する事態への備え — インフレは再燃する可能性があります。原油と金の価格は、それぞれ地政学的リスクの高まりと中央銀行による大量の購入を背景に、上昇する可能性があります。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
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アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・
アナリスト