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ナネット・アブホフ・ジェイコブソン
- グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
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2023年の大半にわたり、経済にとっての悪材料は、市場にとっての好材料でした(第1局面)。例えば、米国労働市場の緩和は、経済成長とインフレが鈍化し、FRBがソフトランディングを達成できるという兆しとして、リスク資産により好感されました。しかし、今やこの関係は逆方向に展開しています。予想より底堅い経済がターミナル・レート(利上げの最終到達点)予想を長らく引き上げ、株価の低迷を引き起こしています(第2局面)。一方で、依然として逼迫している労働市場およびコモディティ価格の上昇は、企業や消費者が利上げの影響をまだ十分に消化していない中、インフレ圧力が継続していることを示唆します。これは、経済と市場の関係が第3局面に入り、経済の鈍化が市場にとって悪材料になることを意味する可能性があります(図表1)。
図表1
世界経済全体でサービス業は下落傾向
先進国の購買担当者景気指数(PMI)
Bloomberg Finance LP、S&P Global Developed Market PMIのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。データ期間(製造業):1998年1月~2023年8月。データ期間(サービス業):1998年6月~2023年8月。
今後の見通しについては、予想以上に時間がかかったものの、利上げは世界経済に打撃を与えるため、やや慎重な投資スタンスがまだ妥当であると考えます。また、本稿執筆時点(2023年9月)において、米国政府閉鎖の可能性、原油価格の高騰、米ドル高など、まだ顕在化しつつある多くのリスクを注視しています。とはいえ、株式や不動産の値上がり益による家計の純資産増加、消費者や企業が固定したパンデミック時代の低金利、豊富な流動性など、幾つかの好材料を過小評価していたことから、米国経済の底堅さについて楽観的にみています。
リスク資産の高いバリュエーションおよび遅れたものの視野に入っている金融引き締め策の影響を考慮し、リスク資産はディフェンシブ債券をアンダーパフォームすると予想しています。しかし、グローバル株式およびクレジット・スプレッドのアンダーウエイトを縮小しており、アクティブ・ウエイト全体で中立の見通しに近づけています。日本については、最も確信度の高い見通しを維持しています。日本株式は、経済およびコーポレート・ガバナンスの改善をようやく織り込み始めてきた一方、金融引き締めが遅れたことで、実質利回りはマイナスの領域に留まっており、他の地域と比べて割高です。スプレッド・セクターの中では、グローバル投資適格社債を選好しています。コモディティについては、銅と金を中心に小幅オーバーウエイトを維持しています。
引き続きクオリティ株を重視 ― 景気回復の兆しは見られるものの、金融引き締め策が経済システムに影響を及ぼし始めており、今後さらに経済成長を減速させ、業績を圧迫するとみています。セクターを問わず、強力なバランスシートを有し、景気循環圧力に耐えうる企業を選好します。生成人工知能(AI)がさまざまなセクターや企業に影響を与える可能性はあるものの、広範なハイテク銘柄の今後の上昇を追い求めることはないでしょう。
日本株式の現状および長期的な見通しに注目 ― 日本株式は年初来、他地域をアウトパフォームしており、景気回復とコーポレート・ガバナンスの改善という独自の組み合わせにより、日本株式にはさらなる上昇余地があるとみています。輸出企業は引き続き円安の恩恵を受けると考えます。
より良い相対価値を提供する債券を追求 ― 欧米の利回りが急上昇し、欧州の景気減速が顕著になっていることから、日本国債より欧米国債を選好します。また、グロース債券のクレジット・スプレッドは景気後退リスクを織り込んでいないため、高格付けの債券を選好します。
さらなる機会への備え ― 経済成長とインフレのミックスが悪化すると、企業利益率やクレジット・ファンダメンタルズを圧迫するでしょう。スタグフレーション・リスク、地政学的状況の悪化、米ドル離れに直面する中、金を選好しています。銅はエネルギー転換において重大な役割を果たすものの、供給面では制約があることから、良いインフレ・ヘッジになる可能性があります。私たちは、市場のリプライシング(価格調整)に備え、機会を見逃さない様にリスクを織り込む必要があるでしょう。
ナネット・アブホフ・ジェイコブソン
スプリヤ・メノン
アレックス・キング