グローバル市場見通し:2023年下半期

景気後退局面に入るか

2023-10-30
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要旨

  • 世界経済は米国の銀行危機を乗り切り、生成人工知能(AI)やソフトランディング(軟着陸)の可能性を織り込み、底堅さを維持しています。しかし、信用状況のタイト化と金融引き締め策が引き続き経済に打撃を与えると予想しており、株式やグロース債券と比べてディフェンシブ債券を選好しています。 
  • 先進国株式市場の中では引き続き日本を最も選好しています。日本企業はインフレから恩恵を受けており、金融政策は他の先進国と比べて緩和姿勢を維持しています。また、株主アクティビズムにより、コーポレート・ガバナンスは改善傾向にあります。中国については、不動産市場における過剰債務と消費者の消極的な態度を踏まえ、小幅なオーバーウエイトに引き下げました。
  • 景気後退を基本シナリオとしており、デュレーションは全体的にややオーバーウエイトとし、米国のデュレーションを選好しています。低格付け債券のスプレッドに対してアンダーウエイトの見通しを維持する一方、投資適格社債については、ファンダメンタルズが低下しているものの依然として堅調であることから、より良好な見通しです。 
  • コモディティに対して前向きの見通しを維持し、銅と金に注目しています。シクリカル要因は原油と金属に重しとなる可能性があるものの、供給が制限されることで価格を下支えると予想しています。 
  • 下振れリスクとしては、米国または欧州における深刻な信用危機と景気後退、中国やロシアに関わる地政学リスクが挙げられます。上振れリスクとしては、中央銀行の引き締めがインフレを十分に抑制する一方で、景気後退を引き起こすことはないというソフトランディング・シナリオが挙げられます。

世界経済は予想よりも底堅く推移してきましたが、景気後退入りは遅れるものの、回避できないと考えています。後から考えると、金融引き締めの効果は、過剰貯蓄、逼迫した労働市場、消費者と企業が金利上昇に対してあまり敏感ではないこと、生成AIの躍進によって相殺されました。しかし、これらの明るい材料は今や株価に十分に織り込まれており、今後は中央銀行が利上げを継続し、経済を圧迫するとみています。

当局は米国の銀行問題を当初はうまく収拾したものの、まだ完全に解決した訳ではありません。銀行は資金調達コストの上昇や資金需要の増大に加え、商業用不動産市場の低迷など信用状況の悪化に直面しています。銀行は経済のライフラインである融資を削減する可能性が高いとみています。米国の債務上限問題を巡る合意の一環として1兆米ドルの米国債が新規発行され、その魅力的な利回りのため銀行準備金から資産が引き出されると、流動性はさらに悪化する可能性があります。 

こうした背景から、各資産クラスに対してある程度ディフェンシブな見通しを維持しており、債券と比べてグローバル株式をアンダーウエイトしています。中国株式に対する見通しは、中国における消費者主導の景気回復が予想を下回っているため、小幅オーバーウエイトに引き下げました。日本国債に対する見通しはアンダーウエイトを維持しています。インフレは賃金や企業利益率に恩恵をもたらすため、日本政府は日銀がイールドカーブ・コントロール政策と低金利政策を当面は継続することに満足しているようです。 

グロース債券に対してはアンダーウエイトの見通しを維持しています。融資基準の厳格化による影響は企業のデフォルト率の上昇に現われ始めており、ハイイールド債券などリスクの高いクレジットに打撃を与えざるをえません。企業のファンダメンタルズは広範に悪化しているとみていますが、グローバル投資適格社債については、そもそものファンダメンタルズが極めて強固であり、積み上がったキャッシュのおかげで資金調達の必要がないことから、より楽観的にみています。コモディティに対する見通しも小幅オーバーウエイトを維持しており、下支えとなる需給動向を踏まえて銅と金に注目しています。

投資への影響 

引き続きクオリティ株を重視 — 金融引き締め策が経済システムに影響を及ぼすのには予想よりも長い時間が掛かりましたが、今後さらに経済成長を減速させ、業績を圧迫するでしょう。先進国株式では、生成AIに対する楽観的な見方を背景にバリュエーションが割高になってきたことから、クオリティ重視の姿勢を維持します。インフレ圧力に耐えうる強力なバランスシートを有する企業を選好します。また、セクター別では、金融セクターよりも産業セクターを選好しています。AI関連銘柄の今後の上昇を追い求めることはせず、米国テクノロジー株に対して中立の見通しです。  

先進国株式の中では日本を最も選好 — 日本株式のバリュエーションは、この見過ごされた市場に資金が流入するにつれ上昇してきました。しかし、コーポレート・ガバナンスの改善や株主への資本還元がようやく市場に浸透してきたことで、日本株式にはまだ上昇余地があるとの見方を維持しています。中国の景気回復は期待外れですが、現在の株価は悲観的であるとみています。   

債券利回りは相対的に魅力的 — ディフェンシブ債券は妥当なインカム、分散投資効果、キャピタル・ゲインが見込まれます。米国債は利回りの低下(債券価格の上昇)余地が最も大きいとみられます。グロース債券のクレジット・スプレッドは景気後退リスクを織り込んでいないため、高格付けの債券を選好しています。

起こり得る幅広い結果への備え — 市場は銀行、信用状況、インフレ、地政学などにおける様々なリスクを回避してきましたが、依然として不確実性が高い状況です。スタグフレーション・リスク、地政学的状況の悪化、米ドル離れに直面する中、金を選好しています。また、銅はエネルギー転換において重大な役割を果たすものの、供給面では厳しい制約に直面するとみています。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
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アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・
アナリスト