グローバル市場見通し:2023年第2四半期

世界経済の試練

2023-06-30
アーカイブ info
アーカイブの記事内の作成者の見解は、過去の作成時点の情報に基づくことをご留意ください。
1171004924

要旨

  • 銀行業界の混乱に起因する信用状況のタイト化と、中央銀行の金融引き締めを受け、世界経済は減速すると予想します。ファンダメンタルズの悪化に反して、株式のバリュエーションが上昇したことから、企業業績とマルチプル(株価収益率)は脆弱であり、株式やグロース債券と比べてディフェンシブ債券を選好しています。
  • 市場ストレスが高まるとリスク資産間の相関も高まる傾向にあります。ただし、中国と日本のファンダメンタルズは異なり、米国や欧州と比べて中国と日本を選好しています。中国の経済再開が同国株式市場への強気姿勢を下支えしていくと考えます。日本は中国のゼロコロナ政策の解除や、他の先進国・地域よりも緩和的な政策から恩恵を受けるとみられます。
  • 国債をオーバーウエイト、グロース債券をアンダーウエイトしています。米国の景気後退懸念が一段と高まり、後退局面入りが早まる可能性もある中、米国債のパフォーマンスは良好に推移すると予想します。一方、欧州と日本の国債についてはやや弱気の見通しを維持します。スプレッドのバリュエーションは若干改善しているものの、ファンダメンタルズの見通し悪化を十分に織り込んでいないと考えます。
  • コモディティ市場に対して依然として前向きの見通しを維持し、金に注目しています。不確実性が高い環境下、金融市場ではインフレ意識の投資から安全資産に資金逃避が加速し、金価格が上昇する見通しです。
  • 下振れリスクとしては、米国または欧州における深刻な信用収縮や景気後退、中国やロシア関連の地政学リスクとして挙げられます。上振れリスクとしては、ソフトランディング・シナリオ(金融ストレスは特異な状況で、米連邦準備理事会(FRB)のインフレ目標の達成を後押し)や、中国のファンダメンタルズの明白な改善が考えられます。

金融引き締めは今景気サイクルで初のシステム不安に近い事態を引き起こしました。米国の地方銀行シリコンバレーバンク(SVB)とシグネチャー・バンクの取り付け騒ぎと、UBSのクレディ・スイス買収は、世界の金融システムに対する信頼を失墜させました。当局は流動性の確保と預金者の保護を目的とした様々な措置を実施し、預金の流出を食い止めています(2023年3月時点)。しかし、金利上昇の結果として亀裂ができ、投資環境の再評価が必要になっています。経済と市場にとって今後数カ月間が最大の試練となるでしょう。

銀行破綻の詳細は特異であっても、昨今の出来事は信用状況のタイト化につながり、企業や消費者の活動を低下させる可能性があります。同時にFRBによる前例のない利上げの波及効果は、実体経済にまだ完全に浸透していません。不確実性が増す中、政策を決定するにはデータに表れていない経済動向に基づく判断が必要になります。景気後退懸念が一段と高まり、後退局面入りが早まる可能性があります。

ボラティリティは高水準にとどまり、リスク資産は苦戦すると予想されるため、幅広い資産クラスでややディフェンシブな姿勢を維持しています。現在のバリュエーションは極めて楽観的な経済見通しを反映しているとみられるため、グローバル株式を小幅なアンダーウエイトとしています。地域ごとの相関の高まりを考慮し、欧州株式のアンダーウエイトを小幅なアンダーウエイトに、日本株式のオーバーウエイトを小幅なオーバーウエイトに調整しました。また、中国の経済再開と石油輸入価格の下落から恩恵を受けるとみられる同国とアジアの株式市場を引き続き選好します。国債価格は上昇しましたが、特に米国債は足元の利回り水準に加え、米国が景気後退局面に入る中で2023年後半にFRBが利下げに転じる可能性があるため、さらなる価格上昇余地が見込まれます。スプレッドは拡大しているものの、景気後退リスクを反映した水準には達していません。グロース債券、特にハイイールド債券と銀行ローンのアンダーウエイトを継続しています。コモディティ市場については小幅なオーバーウエイトを維持しつつ、石油から金に焦点を移しました。

総じてディフェンシブな見通しにおける上振れリスクはソフトランディングです。それは、銀行に対して流動性を供給するために資産購入を増やし、FRBのバランスシートが拡大したものの、銀行破綻は単発的な出来事で収束。需要とインフレの減速に十分なだけ信用状況がタイト化し、FRBは過度の金融引き締めを回避し景気後退が避けられるというシナリオです。ただし、このシナリオが実現する可能性は低いでしょう。このような一見穏やかなシナリオは、インフレを深刻化させ、中央銀行にとってより厄介な問題の火種になるだけかもしれません。

投資への影響

景気軟化の中、クオリティ重視-金融引き締めと信用状況引き締めが浸透する過程で、先進国経済の底堅さが試されることになるでしょう。バリュエーションが割高な水準にとどまっている中、景気後退という基本シナリオからすると業績予想が楽観的であるため、先進国株式についてはクオリティ重視の姿勢を維持します。持続的なインフレ圧力やバランスシート圧縮に耐えられる優良企業や、エネルギー関連や素材などのバリュー志向のセクターを選好しています。

中国に対して強気の見通し-経済再開によって特にサービスへの繰延需要が出てくるとみられるため、中国に対してオーバーウエイトの見通しを維持しています。中国経済の回復は他のアジア諸国にプラスの波及効果を与えると予想されるものの、他の新興国では金利コストの上昇や世界的な経済減速へのエクスポージャーが課題となるでしょう。

相関が高まる見通し-ボラティリティが高い局面では、地域差はさほど目立たなくなるとみられます。欧州株式は米国の銀行問題の影響を受けやすいでしょう。一方、日本株式はデフレ心理の弱まりや割安なバリュエーションに加えて、中国に近く経済回復の恩恵が見込めるため、米国の銀行問題の影響は受けにくいとみられます。

債券利回りは相対的に魅力的-ディフェンシブ債券は妥当なインカム、キャピタル・ゲイン、分散投資効果が見込まれます。利回りの低下(債券価格の上昇)余地が最も大きいのは米国債で、次いで欧州、日本となります。グロース債券のクレジット・スプレッドは景気後退リスクを織り込んでいないため、高格付けの債券を選好しています。

インフレよりも金融システムの安定が優先される可能性-インフレ率は構造的に上昇するとみられますが、市場の注目は当面、信用状況のタイト化とディスインフレ効果に集中するでしょう。コモディティ市場の中では金を選好し、中国経済の見通しが改善していることから工業用金属、特に銅に対し小幅なオーバーウエイトとしています。また、インフレ率の鈍化に伴い、物価連動米国債(TIPS)のブレークイーブン・インフレ率は低下する可能性が高いと考えます。

Nanette Abuhoff Jacobson

ナネット・アブホフ・ジェイコブソン

グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
menon-supriya-10018

スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)
king-alexander-7545

アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・
アナリスト