-
ナネット・アブホフ・ジェイコブソン
- グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
Skip to main content
- 会社情報
- INSIGHTS コンテンツ
- 運用ソリューション
マクロ経済と市場の観点では、最悪期は脱した可能性があるものの、2023年に入りリスクがすべて解消されたと見るのは時期尚早です。主要中央銀行のインフレとの闘いが続く中、金融情勢のタイト化は多くの先進国経済にとって逆風となるでしょう。中でも、米国と欧州のリセッション入りを予想しますが、それがどの程度深刻なのかは未だ不明です。しかし、2022年10‐12月期の急反発が示すように、市場はシナリオ内のリセッションの章を省略し、利下げが実施され、リスク資産がその恩恵を受ける筋書きへと一足飛びに進んだようです。リセッションは、たとえ緩やかなものであっても、企業業績の減益を招き、ひいては株価とクレジット・スプレッドに悪影響を与えます。
一方、中国など新興国株式については、相対的に明るい見通しを持っています。中国のゼロコロナ政策の転換は、感染急拡大のリスクを伴うものの、最終的には、他の地域で見られたような、サービスに対する膨大な潜在需要を顕在化させ、アジアの他の新興国や中南米の輸出国にプラスの波及効果をもたらすでしょう。さらに、中国株式が他の株式市場と低相関である点も注目されます(図表1)。
中国株式市場は他の株式市場と低相関
MSCI中国とMSCIワールドの24カ月ローリング収益の相関(現地通貨ベース)
期間:2003年1月31日~2022年12月31日。出所:データストリームのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
リスク資産全般に対して幾分かディフェンシブな姿勢を取るべきとの考えに変化はないものの、地域やサブセクターによっては、2023年後半に向けて、楽観的な見方ができると考えます。グローバル株式について、そのバリュエーションはリセッション・リスクを十分に織り込んでいないとみて、小幅アンダーウエイトとしています。しかし、中国と他の新興国については、見通しの改善を踏まえ、それぞれに対する見方を小幅オーバーウエイトと中立へと上方修正しました。対照的に、米国株式に対する見方は小幅アンダーウエイトと弱気に傾いています。一方、日本をオーバーウエイトとする見方に変化はありません。欧州に対する弱気の見方も維持します。同地域は依然としてエネルギー価格の上昇と内的要因によるインフレに苦闘し、企業業績予想は今後一層下方修正される可能性があります。
次に債券ですが、デュレーション全般については中立とし、欧州と日本の金利よりは米国の金利を選好します。FRBがインフレとの闘いで先行しているのに対し、欧州中央銀行(ECB)は今後インフレ抑制に力を入れる必要があるでしょう。米国の成長率減速が予想されるため、米国10年債利回りの3.5% – 4%という水準は魅力的であり、高格付け債券の分散化効果が復活したと考えます。スプレッド・セクター(グロース債券)については、アンダーウエイトの見方を維持します。リセッション時のクレジットの平均リターンは歴史的に振るわず、スプレッドの中央値が示すリスク・リターンの特性は、より穏当な経済シナリオを描いた場合でも、良好とは言い難い状況にあります。
概ねディフェンシブな私たちの見方の上振れリスクとして挙げられるのは、主要国経済がソフトランディングに成功することと、中国がゼロコロナ政策について効果的な出口戦略を採ることです。しかしながら、どちらのシナリオにおいても、インフレの問題が解決するわけではありません。むしろ事態が悪化する可能性さえあり、その場合、中央銀行の言葉をそのまま信じるのであれば、より一層の金融引き締めが行われることになるでしょう。
インフレ率は2023年に低下はするものの、依然として目標を上回るため、中央銀行は利上げを停止しても、利下げに転じることはないと予想します。前述の通り、市場は景気回復シナリオに一足飛びに進み、金融引き締めが景気や企業業績を抑制する効果を理解していないようです。ここ数週間で企業による業績見通しの下方修正が相次いでおり、利益率はピークを打ったとみています。業績予想を左右するマクロ要因は一層悪化すると予想します。そして、現在の株式バリュエーションはこの可能性を十分に織り込んでいないようです。企業業績悪化の状況を見極めることなく、グローバル株式に対して強気になることはできません。
中国経済の再開は困難を伴うと予想します。感染急拡大による人手不足や医療システムの負担増が避けられないからです。しかしながら、コンセンサス予想は2023年の中国の成長率回復とインフレ率の改善の可能性を過小評価していると考えます。潜在需要が顕在化し、金融情勢が緩和すれば、特に、消費関連セクターに好影響を及ぼすでしょう。他の新興国については、中国経済回復の恩恵を受けるほか、先進国において、(賃金と住宅価格主導の)インフレ率の緩和により、金融引き締め停止の余地が生じることもプラスに働くでしょう。新興国市場は先進国市場とは異なり、2023年に企業業績が大幅に悪化する可能性を織り込んでいるため、株価が最悪期を脱したとの見方をすることができます。
米国に対する見方を小幅アンダーウエイトへと変更したことに伴い、同市場への資産配分を削減し、中立に変更した中国を除く新興国への資産配分の増加分に充当しました。米国の成長率とインフレ率の問題は未解決のままで、財政政策も他の地域以上に足かせになると見られますが、米国の株式バリュエーションや企業業績がこれを反映しているとは思われません。欧州株式については、アンダーウエイトの見方を維持しています。同地域のリセッションが企業の収益に与える影響は未だ過小評価されているからです。例えば、2023年について2.1%の増収が予想されています。エネルギー価格の下落は幾分か安心感を与えますが、エネルギー供給不足の状態は少なくとも2025-2026年まで続くと予想し、リスクは下振れに傾いていると考えます。最も重要なのは、コアインフレ率が高止まりしている欧州の金融引き締めリスクと金融情勢の悪化の可能性が他のどの地域よりも高いことです。
日本株については、割安なバリュエーション、相対的に良好なマクロ環境、支援的な財政・金融政策を踏まえ、引き続き投資妙味があるとみています。日銀は2023年に、イールドカーブ・コントロール(YCC、長短金利調整)の出口戦略を探る動きを次第に強めると予想し、その成り行きを注意深く見守っています。労働市場の活性化や設備投資の急拡大の可能性、最大の貿易相手国である中国のゼロコロナ政策の転換を踏まえ、日本の成長率が構造的に高まるとの見方を維持しています。
銅に対する見方を小幅オーバーウエイトに引き上げました。銅やその他の産業用メタルの在庫が低水準で推移している一方で、中国の銅需要はゼロコロナ政策の緩和や追加的な住宅市場支援を背景に大幅に増加すると予想しています。銅の価格は世界全体の銅需要の54%を占める中国の需要に大きく左右されます。より構造的な観点では、脱炭素化の流れの中で必要性が高まる再生可能エネルギー設備、送電網、蓄電池、電気自動車(EV)の製造に不可欠な銅需要が世界的に加速するとみられます1。
原油については、最近の価格下落にもかかわらず、ロールイールドは依然としてプラスであり、オーバーウエイトの見方を維持しています。最近の原油安の要因の一つは、ロシア産原油の取引価格の上限を1バレル60米ドルとする措置の導入であり、今後もその動向を注視します。しかし、現在の原油価格は想定限界コストをわずかに超える水準であり、引き続き投資妙味があると考えます。
1出所:ウッド・マッケンジー、JPモルガン。時点:2022年11月30日。
日銀が事実上の利上げを決定したことで、今やすべての先進国中央銀行が利上げサイクルにあるため、世界的に流動性は細り、成長率が減速しています。しかし、地域ごとの状況は大きく異なります。米国では、市場がFRBの現在の予想ターミナルレート(政策金利の最終到達点)5%を既に織り込んでいるため、3.5‐4%のレンジにある米国債10年債利回りは成長率の減速とインフレの長期化を反映した水準であるとの安心感を覚えます。市場は年内の利下げを楽観視していますが、インフレを完全に封じ込めるには、追加利上げを行うか、金融引き締めを長く続ける必要があり、これはリセッション(景気後退)の可能性と高め、結果として長期債利回りの低下につながります。
ECBは昨年12月に、エネルギー・ショックの緩和と財政支援策の効果を確認したうえで、タカ派的スタンスを強めました。コアインフレ率が高止まりし、賃金上昇圧力が高まり、中国経済再開が需要上振れリスクを助長する可能性があることから、ラガルドECB総裁は、「FRBに比べ、ECBはより広い地域をカバーし、より長い道のりを歩んでいる」と警告を発しました。従って、欧州ソブリン債券に対して弱気の見方をしています。日銀のYCC運用の柔軟化は現行の量的緩和策の出口戦略に向けた重要な一歩であるものの、金融政策正常化は段階的に進められ、金利上昇は抑制されるとみています。
スプレッド・セクターについては、バリュエーションが過去の水準の中央値にあるため、軽度のリセッションであっても信用力が悪化する事態を織り込んでいないとみられます。例えば、グローバル・ハイイールド債券の過去3回のリセッション期の平均スプレッドは1,000ベーシス・ポイント(bps)でしたが、現在のスプレッドはその半分の水準です。加えて、最近の融資基準の厳格化はスプレッド拡大の可能性を示唆しています(図表2)。
従って、スプレッド・セクターについて、全般的にアンダーウェイトとし、高格付け銘柄を重視します。利回りを犠牲にすることなく、高格付け重視の姿勢を実現する一つの方法として、ハイイールド債券よりも、約50%が投資適格債券である(米ドル建ての)新興国ソブリン債券の選好が考えられます。私たちの調査は、新興国債券のグローバル株式に対するベータはハイイールド債券のそれよりも低いことを示しています。
融資基準の厳格化はスプレッド拡大を示唆
米国ハイイールド債券オプション調整後スプレッド(OAS)と銀行融資担当責任者調査
期間:1998年2月29日~2022年12月31日。出所:ブルームバーグのデータ及び米連邦準備理事会(FRB)に基づき、ウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
私たちの見通しの上振れリスクとして第一に挙げられるのはソフトランディング(軟着陸)シナリオです。つまり、FRB(および他の中央銀行)が雇用や消費に打撃を与えることなく、インフレ抑制に十分なほど成長率を減速させ、リセッション回避に成功することです。米国・欧州・中国の財政支出の拡大が金融引き締め策による下押し圧力を相殺する可能性も上振れリスクの一つです。さらに、中国のゼロコロナ政策の転換が世界需要と同国内の消費やサービス需要を押し上げる効果を市場が過小評価している可能性もあります。
一方、下振れリスクとしては、金融情勢のタイト化の効果がタイムラグを伴って顕在化し、世界的に雇用・企業業績・生産に予想を上回る悪影響を及ぼし、結果として、より深刻で長期にわたるリセッションを引き起こす可能性が考えられます。その他、2022年に英国で起きた年金基金危機のような流動性不足を起因とする金融問題が市場横断的なシステミックリスクにつながる可能性やロシア・ウクライナ紛争が激化するリスクも考えられます。
金融引き締めが続く中、リスクへの警戒姿勢を堅持-リセッションの脅威は未だ払拭されておらず、企業業績予想は依然として楽観的に過ぎるため、先進国株式についてはクオリティ重視の姿勢を維持します。インフレ圧力に耐えうるだけの、強力な価格決定力・長期にわたり安定した利益率・健全なバランスシートを有する企業を選好します。また、エネルギーや素材などのバリュー寄りのセクターを選好します。
中国と新興国市場に若干前向きの見方-中国のゼロコロナ政策の転換は、その過程で痛みを伴うものの、同国の景気回復につながる可能性が高いとみています。中国に対する見方を小幅オーバーウエイトに変更しました。また、中国の需要回復がその他の新興国にプラスの波及効果を及ぼすと予想します。
アクティブ運用を通じた地域分散効果を追求-金融引き締めサイクルのどの局面にあるかは国ごとに異なり、中国に至っては金融緩和策を採っています。また、他国に比べて依然として緩和的な金融政策を採り、成長率とインフレの状況が良好な日本を選好します。セクターとしては、金融が日本国債10年債利回りの上昇から最も大きな恩恵を受けると考えます。欧州株式は、米国や日本と比較し、大きな下落に見舞われる可能性が高いとの見方を維持しています。
株式益回りよりは債券利回りを選好-高格付け債券は利回りの観点で株式よりも割安で、上値の余地があり、成長率が減速した場合には分散化効果も発揮すると考えます。
インフレ防衛策を追求-コモディティについて、先進国の需要低迷は逆風であるものの、需給不均衡が引き続き支援になるとみています。中国がゼロコロナ政策を転換した今、産業用メタル、とりわけ銅を選好します。一部の実物資産と同様、物価連動米国債(TIPS)には引き続き投資妙味があると考えます。
クレジットに対して慎重な見方-リセッションリスクが高まっていることを考慮すると、クレジット・スプレッドが特に割安な水準にあるとは考えられません。ただし、証券化商品、特に、起債から年月を経たノンエージェンシー住宅ローン担保証券と短期クレジットについては投資妙味があるとみています。
ナネット・アブホフ・ジェイコブソン
スプリヤ・メノン
アレックス・キング