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ジョン・バトラー
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※下記コメントは2023年11月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
人工知能(AI)の進歩は、潜在成長率と長期実質金利予想をともに引き上げることでマクロ環境を大きく変える可能性があると考えますが、いつ、どの程度引き上げるかは不透明です。本稿では、脱グローバル化と人口動態の変化という背景を踏まえ、こうした疑問に答えるための基本的な考え方をご紹介します。
生成AIは人間に近いアウトプットを生成し、自然言語処理と幅広い応用可能性を備えた非常に便利な技術です。
AI主導の自動化が成功すれば、効率性が向上し、より生産性の高い仕事にリソースを割くことで、生産性の向上が期待されます。そうした効果は、潜在成長率と自然利子率(Rスター:経済に対して緩和的でも引き締め的でもない中立的な実質金利の水準)があまりに低く、金利が投資を刺激するほど低下することがないという長期停滞の懸念が最も一般的な市場テーマの一つであった環境では、歓迎されるでしょう。
十分なデータがないため、AIがマクロ環境に及ぼす影響を予測するのは極めて困難です。いくつかの学術研究(図表1)は、ボトムアップ方式によるセクター別の自動化の可能性と、過去の技術進歩の採用速度に基づき、予測を試みています。当然ながら、生産性向上の可能性に関する推定値の範囲は大きく、タスクの自動化のレベル、それに伴う構造的な人員整理、導入のスケジュールに関する想定にも左右されます。
要するに、これらの研究では生産性上昇率が0.5~6.8%の範囲で上昇し得ると予測されますが、その意味合いは明らかに大きく異なります。この7件の研究を平均したところ、推定される生産性上昇率は2.5%に上り、(生産に占める労働力の割合から推測される)潜在的な潜在成長率は0.1%~2.0%(平均して1.0%)上昇する可能性があり、推定値の範囲は非常に広いです。
図表1
生成AIが生産性を押し上げる余地:様々な研究による推定値
出所:ウエリントン・マネージメント。2023年10月時点。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
世界金融危機以降、債券の実質利回りは急激に低下していますが、その主な要因は以下の2つです。
自然利子率の推移は、生産性や実質GDP成長率のトレンドと高い相関関係を持つため(図表2)、自然利子率の推定値が、世界金融危機後の生産性の急低下と同時期に起きていることは驚くべきことではありません。私たちは、先進国の自然利子率がゼロまで低下したのは、イノベーションの欠如、人口の高齢化、教育水準の低下、所得分布の歪みなどによって需給が低迷したためであると確信していました。その結果、各国の中央銀行は支出と投資を刺激するのに十分な金利引き下げに苦慮し、金利の下限撤廃や、場合によってはマイナス領域への金利引き下げが議論されました。
図表2
主要7カ国(G7)の生産性上昇率と利回りの推移(%)
出所:OECD、リフィニティブ1などのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。2023年10月時点。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
AIによって、低下傾向にある生産性が上向くのであれば、過去15年間に景気を減速させるのに十分であった金利水準は、もはや十分ではなくなるかもしれません。金利の上昇は、主に長期的な資本収益率の上昇見通しを反映しているため、リスク資産のバリュエーションの上昇と密接に関連している可能性もあります。事実、市場が「AIは生産性を向上させ、潜在成長率を上昇させる」という期待を、いくらか織り込み始めている可能性を示した暫定的な証拠があります。
AI移行のスピード、想定される自動化の程度、そしてAIに職を奪われる可能性のある雇用の割合は、まだあまり明らかになっていません。私たちの見るところ、まだ未解決の最も重要な疑問は次の2つでしょう。
考慮すべきもう1つの重要な要素として、AIの進歩は単体で起きるものではありません。高所得国では人口動態の変化や脱グローバル化をはじめとする他の複数の構造的要因が人件費を上昇させ、生産性が低下しているため、これらの新技術を採用するインセンティブはより高くなっています。
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