債券投資手法の再考:利回り以外に目を向ける

2025-06-12
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世界的に広がる新たなレジームはリターンに対する期待とその達成方法についての再考を迫っていますが、私たち含め投資家はこうした新たなレジームに対応しようとしています。

中央銀行の介入がクレジット市場における大幅な変動の頻度と規模を増大させる中、債券への資金配分から得られるリターンにはそれほどのボラティリティがないという長年にわたる前提はもはや成立していないように思われます。実際、債券と価格のボラティリティがより大きくなった現在の状況では、債券投資家は目標を達成するためのよりダイナミックなアプローチを必要としています。

簡単に言えば、投資家は柔軟性を持つことで利回り以外に目を向けるべきと私たちは考えます。必要に応じて流動性と分散化を求めて米国債に資金配分し、次に再びインカムを生み出す機会が生じた際に社債や新興市場債に資金配分することで、より分散化された強靭なポートフォリオから恩恵を受けることができるでしょう。満期まで保有することでどれだけのインカムが得られるかということだけで資産を評価するのはもはや有効ではなく、投資のより幅広い可能性を検討する必要があると私たちは考えます。

経済と市場の新たなレジームへの適応

ボラティリティの上昇は、各国政府が財政政策に依存して成長ギャップを埋めようとする世界的なシナリオの必然的な結果だと見ています。金融政策にはそれほどの力がないため、財政政策が成長を促すうえでの大きな役割を果たしています。

2024年の財政支出は昨年ほどではないものの、2009年や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)といった危機の中で、第2次世界大戦後初めてとなる歴史的な財政赤字を計上する可能性も高まっています。

一方、財政支援、堅調な雇用、強靱な家計収支に支えられた力強い経済は、市場にとって明るい材料となっています。健全なキャッシュフローを持つ企業は、現在の利回り水準でバランスシートにレバレッジを掛ける必要はそれほどありません。しかし、通常、信用スプレッドのボラティリティは金利のボラティリティを大きく下回りますが、2023年末の急激な信用スプレッドの縮小を受けて、投資機会はあまり魅力的ではありません。

こうした状況は、投資家がある程度のキャッシュを保有する一方で、インカムを確保するのに役立つと考えます。これは景気後退を恐れているからではなく、たとえ軽微な下落であっても、下落時に押し目買いを入れるためです。これはかなりの期間、リスクを下支えするはずであり、レバレッジが低位に止まる中、信用メルトダウンといった重大な懸念がないと考えられれば、リスクをオーバーウエイトすることで恩恵を受けることが出来ると私たちは考えています。

利回り以外に目を向ける

今日の環境下で考えられる投資家にとっての潜在的リスクは、債券の高値買いと価格ボラティリティの過小評価です。

利回りのみに惹かれて投資することは理解できないことではありません。いかなる価格水準であれ、利回りを求める投資家の姿勢を踏まえれば、債券の市場価格はファンダメンタルズや将来のリターンに対する合理的な期待とは相容れない極端なものになりがちです。

具体的な事例として、市場で一般的に利用される2つの指数(米国総合指数と米国中期クレジット債指数)の2021年1月から2023年12月までのリターンの内訳を見てみましょう(図表1)。図表が示すように、れっきとしたインカムは、価格下落のマイナスの影響を受けたトータルリターンによって打ち消される結果になりました。

図表1: 利回りのみ注目して投資を行うことには注意が必要
累積インカムリターンと累積プライスリターンの比較(%)
累積インカムリターンと累積プライスリターンの比較

出所:ブルームバーグのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。データ期間:2021年1月―2023年12月。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。上記はあくまで例示目的で示しています。

こうした状況を回避し、ポートフォリオに必要な柔軟性を加えるには、米国債がクレジットやリスクに対する真の分散投資になり得るとともに、流動性の効果的な供給源にもなり得ます。

より具体的には、信用スプレッドが縮小している局面で、米国債への配分を高めることにより、資本の保全を図るとともに、負のプライスリターンがインカムを上回るポジションからポートフォリオを守ることができるため、理にかなった対応であると考えます。そして米国債をドライパウダー(待機資金)として保有することで、ボラティリティの高まりによって魅力的なインカムとキャピタル・ゲインの機会がもたらされた際に、これを用いることを可能にします。

また、社債が信用リスクや流動性リスクに見合ったリターンを投資家に提供していない場合、投資家はベンチマークから離れて、社債リスクを米国債に置き換えることで、一貫したプラスのトータル・リターンを達成することがより容易になると考えます。

究極的に、需要が旺盛で、バリュエーションが割高な水準にある局面で、大規模な資産保有者が売却を余儀なくされた際には、債券投資家が流動性プロバイダーとしての役割を果たすと考えることができます。

利回りの追求はありふれたことですが、現状のマクロ環境および市場環境は、より柔軟で創造的な債券戦略を求めています。インカムを生み出す一方で、価格の非効率性に乗じるべく、ベンチマークを超えて米国債、社債、新興国債の間の乗り換えといった銘柄選択に対するシンプルでダイナミックかつ積極的なアプローチを取ることによって、リスク調整後のトータル・リターンを長期間にわたって最大化することに焦点を当てるべきと考えます。

Connor Fitzgerald

コナー・フィッツジェラルド

債券ポートフォリオ・マネジャー