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コナー・フィッツジェラルド
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米国の富の格差拡大が巻き戻されるとしたらどうなるでしょうか?米国の投資パラダイムを覆しかねないこれほどあまのじゃくな問いかけは他にはないかもしれません。
過去数十年の間、格差の拡大は米国経済を方向付け、投資リターンもその延長線上にあります。一方、金融政策からグローバル化、組織労働者に至るまで、長期にわたり格差を助長してきた要因の多くが現在変化しています。格差拡大の巻き戻しが起きれば、資産クラス全体に深く広範囲な波及効果が生じるでしょう。
ウエリントンの専門家の中には以前から米国マクロ経済のレジーム・シフト(構造変化)を指摘する声があり、一部の超大型テクノロジー株への資本の集中、インフレ、金利、アクティブ運用ではなくパッシブ運用の増加などについて詳細分析を行ってきました。だからこそ今、世界金融危機後の米国内外におけるもう一つの経済的特徴である富の格差について考えるべきだと考えます。
富の格差は評論家、政治家、学者、金融アナリストなどの間で長年にわたって懸念視されてきたテーマです。米国の政治的、経済的安定性にシステミックな脅威を与えるおそれがあります。過去30年間で広がった世界的な経済格差には以下のようなさまざまな要因があります。
こうした世界的傾向の一部が解消され、逆転した場合、富の格差も同じように変化するのでしょうか?
富の格差の巻き戻しは新型コロナウイルス感染症のパンデミック前に始まり、その後加速していた可能性があります。労働力供給は、特に先進国において今後構造的な制約を受ける可能性が高く、労働者の交渉力が増している状況が見受けられます。一方、脱炭素化と脱グローバル化の取り組みが世界的に進展する中、結果として有形資産への財政投資や企業投資が促されます。さらに、名目金利が上昇局面に突入し、富が米連邦準備理事会(FRB)や市中銀行から消費者へと渡ることになるでしょう。もし富の格差の巻き戻しが実際に起きれば、市場や投資に大きな影響が生じます。また格差の縮小により、持続的インフレが下支えされたり、消費者の支出パターンが変化する可能性があります。私は、変曲点の可能性を検討することは決して時期尚早ではないと考えています。
私は以前から、消費者支出は高金利の上昇局面に直面した場合でも予想以上に抵抗力を示す可能性があるという理論を主張してきました。幅広いコンセンサス予想とは必ずしも一致していない考え方ですが、現在一般的になされる低所得の消費者のストーリーは完全な間違いではないにせよ、誤解を招くものであると考えます。長年、政策変更を含め、さまざまな事柄が高所得者に有利な方向で進められ、低所得者層はその多くから恩恵を受けられませんでした。上位5%は常に下位20%よりもますます裕福になった一方、この富の相対関係はこの数年で反転している可能性があります。
例えば、不動産価格は過去10年間高騰が続いており、コロナ禍でそのペースが加速し、過去最高水準に達しています。こうした値上がりの正味の影響として、家計部門のキャッシュフローが全体的に上向いています。最上位所得層で最も大きな影響が見られる一方、最下位所得層でも正味プラスです。最下位所得層では財産の6割を不動産が占め、よって低所得者層の住宅所有者が昨今の不動産セクターの動きから恩恵を受けている可能性があります。これは重要なポイントであると同時に、現状が維持された場合には、これらの世帯にもたらされる正味金利収入が増えることを意味します。
言うまでもなく、富の格差は間違いなく存在し、ごくわずかな超富裕層が最下位所得層と比較しはるかに有利な経済的基盤を築いていることは確かです。その一方で、ある程度の前進はあったと考えられます。次の問いとして頭に浮かぶのは、この流れが今後も続くのかという点でしょう。
この問いに答えを出すためには、いくつかの点を考慮しなければなりません。不動産価格の推移が決定要因の一つであることは明らかです。一部のアナリストは、崩壊にまでは至らずとも、住宅価格の大きな引き戻しを予測しています。しかし、私は需給バランスの大きな偏りを踏まえ、住宅価格の上振れ予測の持論を崩しておらず、米国内で100万戸以上の戸建て住宅が不足している可能性があるとみています。とはいえ、金利上昇の影響で値上がりペースが鈍化し、住宅価格が2022年6月以降横ばいで推移していることは注目すべきでしょう。私は、2023年末にかけて若干の値下がりはあるものの、住宅価格は今後も底堅いと予想しています。
その一方で、賃金上昇が低所得者の購買力を支え続けることが見込まれます。この数年の4年制大卒者と高卒者の賃金上昇率は平行線を辿っています。以前の賃金上昇率は大卒者が高卒者を上回っていました1。この傾向は今後も続くと考えられます。
これに加え、多くの産業で人手不足が解消されていません。2022年末時点のレジャー・ホスピタリティ産業の労働者は、2020年2月と比較して5万人以上減少したままです2。耐久財製造、卸売・小売、教育、医療サービスなどの産業においては、業界経験のある失業者数よりも、求人数の方が多いのが実情です。事実、耐久財製造業経験者の失業者全員が雇用されたとしても、この業界の現在の求人数の25%は空いたままです3。
組合労働者の再びの台頭が中・低所得労働者の賃金を支える可能性があります。実際のところ、1979年以降の高・中所得労働者の賃金格差のおよそ3分の1は非組合化に起因します4。昨今、労働者が交渉力を獲得するにつれ、組合加入者が増加し、これに呼応して大規模なストライキも増加しています。 2023年はこうした勢いが加速しているようです。エンターテイメント産業における作家や俳優のストライキのほか、全米自動車労働組合の大規模なストライキが紙面を賑わせていますが、どちらも経営者層(エンターテイメント産業については一部の大物有名人)の取り分のあまりの多さに不満を募らせたことが原動力になっていることは明白です。現在、米国民の71%が労働組合を支持しており、1965年以降最も高い数値となっています5。
約30年間、富の格差の拡大はとどまることを知りませんでした。その促進要因の多くは今も存在し、業界再編は現在も歴史的に極端な状況にあります。デジタル化が急速なペースで広がり、人工知能(AI)に伴う自動化の加速が労働者の今後の交渉力に脅威を生み出しています。さらに、2024年には米国大統領選挙を控え、米国内の今後の富の格差に何らかの影響が及ぶことは間違いないでしょう。
とはいえ、状況がすでに変曲点に達していることを示す証拠も増え続けています。富の格差は今後数年、縮小し続ける可能性があります。となれば、米国の政治力学に変化が生じるかもしれません。財とサービスに対する需要の性質が変わる可能性があります。結果として、資産クラス全体について投資の前提条件が問われることになります。1980年から2008年の間は、家計はバランスシートが脆弱化する中で景気後退を経験してきました。世界金融危機後はその逆の現象が起きています。これが投資にも経済にも、予期せぬ大きな影響を与えています。
格差の巻き戻しは非常に広範なテーマですが、以下にいくつかの要点を取り上げます。
1 Federal Reserve Bank of Atlanta, August 2023. | 2 The Washington Post, "Restaurants can’t find workers because they’ve found better jobs," 3 February 2023. | 3 US Chamber of Commerce, "Understanding America’s Labor Shortage: The Most Impacted Industries," 10 August 2023. | 4 Economic Policy Institute, "The erosion of collective bargaining has cost middle-wage workers thousands of dollars each year," April 2021. | 5 Gallup, "U.S. Approval of Labor Unions at Highest Point Since 1965," 30 August 2022.
コナー・フィッツジェラルド
トレバー・ノーレン