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ウィリアム・クレイグ
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アーネスト・ヘミングウェイの著書「日はまた昇る」に、「人は徐々に、そして突然、破産する」と記されています。
10年におよぶ低金利の時代にはベンチャー・エコシステムにおける案件が加速し、案件規模も拡大しました。その後の新たな「長期的な高金利」局面は、多くのセクターのベンチャー企業に課題をもたらすと考えます。このダイナミクスが展開されるには時間がかかると考えられますが、ニューノーマルに適応できない、または適応する意思がない企業は、運転資金(ランウェイ)が減少し、突然終わりを迎える可能性があります。
こうしたシフトの結果、明らかになった教訓の一つは、強固で持続可能なファンダメンタルズ、特に資本効率の高いビジネスに投資することの重要性です。資本効率の高い企業は一般的に、持続的な収益性と持続可能な成長を達成するための計画を有し、マクロ経済の逆風を比較的受けにくい状況にあります。本稿では、企業が「ユニコーン」の地位を手にする可能性を含め、金利がベンチャーキャピタルの活動に与える影響を調査し、ベンチャーキャピタルの支援を受けるレイトステージ企業の資本効率を分析するための重要な指標について議論し、ベンチャーキャピタル・エコシステム全体の参加者が今後どのような状況と向き合う可能性があるのかを推測します。
2013年にユニコーンという言葉が初めて生まれた際、この希少な地位まで昇りつめた企業は約40社でした。ユニコーンの定義はさまざまですが、米調査会社のPitchBookでは、ベンチャーキャピタルから資金調達を受けた企業のうち、資金調達後の企業価値が10億米ドル以上の企業をユニコーンと定義しています。1その後10年間で、ユニコーンの数は飛躍的に増加し、米国では700社を超え、そのうち50%近くが2021年のベンチャーキャピタル投資の最盛期にユニコーン企業としての規模に到達しました(図表1)。
しかし、その後の低金利局面は、ベンチャー・ファンド・マネージャー数の大幅で迅速な増加につながり、それに応じて資本投下額もより高い水準に増大し、これらが相まってベンチャーの資金調達環境全体に需要ショックが拡大しました。企業が一つの資金調達段階から次の段階に移行するペースは全体的に上昇し、案件のクローズに要する期間は次第に短くなり、多くの案件は12か月未満でクローズしています。企業規模、収益性に関する基準は緩和された一方、バリュエーションは急騰しました。SaaS分野では、企業が資本を蓄えるよりも消費している方がマルチプル倍率でより高い評価を得ていたケースも頻繁に見られます。つまり、2022年までは誰もが膨大な利益をあげていましたが、突然その状況が変わったのです(図表2)。
図表1
2022年以降の案件額と取引量は減少傾向
出所:NCVA Venture Monitor Q1 2024、Pitchbook Data, Inc.のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2024年3月31日時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
図表2
新規ユニコーン企業は劇的に減少
出所:NCVA Venture Monitor Q1 2024、Pitchbook Data, Inc.、FREDのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2024年3月31日時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
現在、ユニコーン企業の90%超は今の環境下で資本調達に至っていないため、ユニコーン企業としてのステータスは机上のものでしかありません。2多くの企業は、ゼロ金利時代の最高水準のバリュエーションに基づいて資金調達ラウンドを実施することに苦戦することになり、新たなスタートアップ企業も後続ラウンドでの資金調達が難しくなると考えます。これらのアクティブなユニコーン企業のうちの40%は、セカンダリー市場で10億米ドル未満で取引されていると推定しているデータもあります。3
このような状況の変化は、マクロ経済の背景にかかわらず、どの指標が企業の長期的な成功を示す信頼できる指標なのかを熟考する良い機会となります。多くのアクティブなユニコーン企業のバリュエーションに疑問がある場合、投資家は支援する企業やその企業の価格の判断をどのように行えばよいのでしょうか。
私たちは以前、アーリーステージ企業に焦点を当てたベンチャーキャピタルの成長効率指標(英語のみ)について議論しました。ここでは、投資家が企業の資本効率、したがって耐久性を評価する際に役立つレイトステージ企業の指標に焦点を当てて議論していきます。企業が成長し規模を拡大し続ける中で、さまざまな指標やストレステストの前提条件を見直し、リターン・シナリオの影響を考慮することが重要です。私たちは、以下を主要な指標の一部として捉えています。
獲得可能な最大市場規模(TAM)
TAMは、製品やサービスに対する収益機会または最大市場需要を表します。TAMを理解することは、特定の市場における潜在的な規模や成長見込みをスタートアップ企業や投資家が評価する際に役立ちます。
顧客獲得コスト(CAC)
CACは、企業が新規顧客を獲得するために費やすコストを測定します。マーケティングと販売費用の合計を一定期間に追加された顧客数で割って算出します。CACは、企業の顧客獲得活動の効率性と収益性を示す指標です。
解約率
解約率は、顧客が企業との取引を停止する割合を測定するものです。解約率の高さは、製品やサービスに対する不満、非効果的な顧客維持戦略、競争の激しい市場、またはこれら3つの組み合わせを示している可能性があります。
顧客生涯価値(LTV)/顧客獲得コスト(CAC)
LTV、すなわち顧客1人あたりの平均総収益をCACで割り、企業のマーケティングと販売活動の採算性と効率性を測定します。LTV/CAC比率が高いほど、企業の資本効率が高く、顧客をより長く維持できており、新規顧客の獲得に費やす費用を抑えながら、既存顧客からより多くの収益を上げていることを意味します。
これらの指標は、企業のステージ、セクター、および営業地域によって異なる可能性があるため、競合他社や公開市場の既存企業全体をベンチマークとすることが重要です。
金利の上昇およびベンチャーの資金調達の減少によって資本コストが上昇するにつれ、企業は資本効率についてますます精査されるようになるでしょう。米Convoyや英Hopinなどの多額の資金を調達した企業が事業閉鎖や売却をするなど、このような合理化はすでに進行しており、運転資金(ランウェイ)が減少するにつれて、このようなユニコーンの大規模な破綻は今後数年間続く可能性があると私たちは考えます。4
資本効率を確保する必要があるのは投資先企業だけではありません。ベンチャーキャピタル・ファンドからの分配金が2021年から2023年にかけて84%減少するなか、5多くのリミテッド・パートナーはベンチャーキャピタル・ファンド・マネージャーに、そのプロセスや哲学、過去十年間にほとんど実現していないパフォーマンスについて厳しい質問を投げかけています。2020年と2021年の驚異的な流動性環境に特徴づけられ、10年にわたり活発な活動があったにもかかわらず、多くのベンチャー・ファンド・マネージャーが極めて少額しか投資家に資本を返還していないことがこうした動きの背景にあると考えられます。一例として、標準的な10年のファンド期間を考えてみると、2014年ビンテージファンドにとって、特に2021年は市場環境を活用できる最適なタイミングであったといえます。しかし、ケンブリッジ・アソシエイツのベンチャーキャピタル・ベンチマークによると、2014年の投下資本利益率(TVPI)の中央値は2.5倍で、投資家への還元は実現倍率(DPI)でわずか0.9倍でした(図表3)。2017年の数値はさらに厳しく、TVPI中央値は2.0倍、DPIはわずか0.1倍です。
図表3
キャピタルリターンの低下
出所:Cambridge Associates Venture Capitalのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2023年12月31日時点。データはパフォーマンスの中央値を示します。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
逆風が吹き続けてはいるものの、私たちはベンチャーキャピタルの今後について楽観的な見方をしています。金利は過去2年以上にわたり最低水準を上回っており、この短い期間に企業や投資家は既に耐久性を得るための基盤を築き始めています。私たちは今も驚異的なイノベーションの時代にあり、ほぼすべてのセクターで人々の興味を引く破壊的な企業が出現しています。これらのビジネスが成長を続けるためには、プライベート市場からの資金調達が必要になる可能性が高いでしょう。
過去10年間は「あらゆるコストをかけて成長する」を優先する傾向があり、ベンチャーキャピタルのエコシステムにはかつてないほどの資金が流れていましたが、私たちは、資本効率を含むビジネスの基盤が堅牢な企業がマクロ環境に左右されずに成長していくと見込んでいます。結果として、今後も新たなユニコーン企業が誕生する可能性はあるものの、そのペースはより適切になると考えます。こうした状況は今後数年間、ベンチャー投資家にとって資本を投下する絶好の機会となる可能性があります。失敗は徐々に、そして突然に起こり得るのと同じように、成功もまたそれと同じように起こるのかもしれません。
1“Post-money” refers to a company’s value after raising capital in a financing round. | PitchBook Data, Inc. no longer considers the company a unicorn if it loses venture backing because it goes public or is acquired, or if its valuation falls below the US$1 billion threshold; for example, because it went out of business or had a down round. | 2Rosie Bradbury, “Despite AI boost, unicorn creation hits 6-year low,” PitchBook Data, Inc., 17 January 2024. | 3Ibid. | 4Spencer Soper, et al., “Bezos-backed Convoy, once valued at $3.8B, shuts down,” Fortune, 19 October 2023; Ingrid Lunden, “Hopin, the struggling virtual conference unicorn, sells events and engagement units to RingCentral,” TechCrunch, 2 August 2023. | 5“2024 US Venture Capital Outlook,” PitchBook Data, Inc., December 2023. Distributions from US VC funds aged five- to 10-years old, from 30 September 2021 to 30 September 2023.
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