2025年市場展望:オルタナティブ

ヘッジファンドのリターンを高める3つの要因

2025年1月
2025-12-31
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Alternatives Outlook

※下記コメントは2024年12月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

私たちは、30年以上にわたるヘッジファンド業界のデータを調査し、銘柄間格差が大きく、マクロ・ボラティリティと金利が高い時期にヘッジファンドのパフォーマンスが最も良好になる傾向にあることを発見しました。現在はそのような環境に入っていると考えられ、ヘッジファンドをマルチアセット・ポートフォリオに追加することで、リターンを高められる可能性があります。

厳しい環境がもたらすメリット

1990年代と2000年代は、株式ロング/ショート戦略、レラティブ・バリュー戦略、マクロ戦略、イベント・ドリブン戦略など、ヘッジファンドのパフォーマンスが好調でしたが、2010年代はより困難な時期となりました。私たちの調査によると、1990年代と2000年代のヘッジファンドの成功は、3つの市場要因がありました:

  • 銘柄間格差(株式や債券などの個別証券間のリターンの乖離)が大きかったこと。これは、株式ロング/ショート・ファンドなどのヘッジファンドに銘柄選択を通じてアルファを追求する豊富な機会を与えました。
  • マクロ経済変数(通貨、金利、インフレ率など)の変動を捕捉するマクロ・ボラティリティが高かったこと。これは、トップダウンの経済イベントを利用しようとするヘッジファンドにとって理想的であるダイナミックな環境を生み出しました。
  • 金利が現在よりも大幅に高かったこと。高金利は、高いボラティリティや大きなリターン格差と同時に起こる傾向にあり、これはヘッジファンドにとって有利に働く可能性があります。ヘッジファンドはデリバティブやレバレッジを活用した取引を実行するために通常かなりの現金準備を維持していることも、高金利から恩恵を受ける理由になります。

図表1は、1990年代/2000年代(青い破線)と2010年代(オレンジの破線)の間で、上記の要因が著しく異なっていることを示しています。重要なのは、これら3つがここにきていずれも上昇していることです。これはヘッジファンド投資家にとって明るい兆しでしょう。

What a difference a decade can make

何が変化を促しているのか?

2010年代の比較的安定した環境から、現在は以下のような特徴を持つ経済レジームに移行していると考えられます。

  1. 構造的な高インフレ:労働市場の逼迫、財政支出の増加、コモディティ生産への投資不足、脱グローバル化が背景にあります。

  2. 金融政策の難しい舵取り:中央銀行が経済成長を支えつつインフレ率の上昇に対処しようとしている結果、さまざまな地域で経済の不確実性が高まるとともに、政策の乖離が拡大しています。

  3. 政府の経済へのより積極的な関与:規制と産業政策を通じて、政府が経済により積極的に関与しています。

これらの要因により、マクロ・ボラティリティの水準が上昇し、国ごとの経済のばらつきが大きくなり、その波及的影響で個別銘柄のパフォーマンスの差が拡大するでしょう(金利、インフレ率、成長率の変動は、企業ごとに異なる影響を及ぼします)。加えて、構造的に高く不安定なインフレ率は、財政・産業政策の強化と相まって、金利上昇につながると考えられます。

図表2は、銘柄間格差の程度に応じた株式ロング/ショート・ファンドのパフォーマンスを示しています。左図は、世界の株式市場に対する株式ロング/ショート・ファンドの5年ローリング・ベータ調整後のアウトパフォーマンス(超過リターン)を示したものです。これらのファンドは、銘柄間格差が平均より大きかった時期(水色でハイライトした部分)に力強くアウトパフォームしました。右図は、銘柄間格差が小さかった/平均的だった時期と、銘柄間格差が大きかった時期の平均年率リターンを示しています。ロング/ショート・マネジャーが後者の時期にアウトパフォームしたことは明らかです。

Equity ling/short fund results

同様に、図表3は、さまざまな経済環境におけるマクロ・ヘッジファンドのパフォーマンスを示しており、マクロ・ファンドの5年ローリング・リターンを、株式60%/債券40%のポートフォリオと比較しています。グローバル株式ではなく60/40ポートフォリオを使用したのは、60/40ポートフォリオは、概して株式ロング/ショート・ファンドほど大きなリスクを取らず、債券の比率が高いマクロ・ファンドとの類似性が高いためです。マクロ・ファンドは株式ベータがあまり高くない傾向にあることから、リターンのベータ調整は行いませんでした。

左図は、マクロ・ボラティリティが平均より高かった時期(水色でハイライトした部分)にマクロ・ファンドがアウトパフォームしたことを示しています。この関係は明らかですが、上述した銘柄間格差に関する分析結果ほど強力ではありません。右図は、マクロ・ファンドの平均年率リターンが、マクロ・ボラティリティが高い時期には市場よりもはるかに高く、マクロ・ボラティリティが低いまたは平均的な時期には市場とほぼ同等であったことを示しています。

Macro fund results

今後の道筋

私たちの見通しが正しければ、ヘッジファンド・マネジャーにとってはアルファを生み出す方法が増え、お客様はその恩恵を受けるでしょう。このような潜在的な変化に備えるために、ヘッジファンド・ポートフォリオの規模や構成を再検討し、ヘッジファンドへのエクスポージャーを十分に持ち、変動の激しい市場でポートフォリオ全体のボラティリティを抑制する必要があります。また、ヘッジファンド業界の資産残高は2024年6月末時点で約4兆3,000億米ドル1に達し、1990年の110倍以上となっています。こうした急速な成長を踏まえると、ファンド・マネジャーの選択がより重要になるため、投資家はアプローチを見直すべきでしょう。

1Source: Hedge Fund Research Inc., as of 30 June 2024.

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アレックス・キング

インベストメント・ストラテジー・アナリスト
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アダム・バーガー

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド