脱グローバル化と乖離:
好機か、それとも脅威か?

2024-12-13
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※下記コメントは2023年10月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

世界経済の相関関係は数十年にわたりますます緊密になっていましたが、私たちの研究によると、世界経済は新たな、より不安定なレジーム(環境)に突入し、各国間の乖離は次第に大きくなっています。こうしたグローバル化からの脱却は否定的な見方も多いですが、資産配分の観点からすると、より微妙なニュアンスのアプローチが適切だと考えます。本稿では、各国間の乖離を大きくしているマクロ情勢を考察し、それがポートフォリオにもたらす重要な影響をご紹介します。

分岐したマクロ情勢を理解する

大局的な観点で見ると、新たなレジームは構造的な高インフレ、景気サイクルの短期化と不安定化、雇用可能な労働力の減少、そして世界的な供給ラインの分断が伴い、地政学的な対立の激化と気候変動がこれらのすべてを助長しています。そして、グローバル化によって各国間の所得格差は縮小した一方、各国内の所得格差が拡大しました。現在、グローバル化が進んだ世界に関するコンセンサスに公然と疑問が投げかけられています。貿易規制が急速に増える中で(図表1)、各国政府は自国の需要と、エネルギー転換や技術などの重要産業を支援する政策を追求するようになり、各国間の乖離はさらに加速しています。各国の景気サイクルと政府方針の推移に一致して、各中央銀行の政策も乖離する可能性が高いとみています。

図表1

世界の貿易規制は増加傾向

出所:グローバル・トレード・アラート1のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2023年10月13日時点。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

依然として変わらない市場シナリオ

それにも関わらず、市場は依然として、経済の収束と米連邦準備制度(FED)を筆頭に各国中央銀行が引き締め政策を継続することを織り込んでいます。FEDが引き続き利上げとその後の利下げサイクルを主導し、他の中央銀行は程度の差こそあれ、遅れてそれに追随する一方、日銀は政策据え置きを継続すると市場はみているようです(図表2)。これが1998年以降の傾向であり、市場は今後もその傾向は続くと考えています。

政策金利と市場の期待

出所:リフィニティブ・データストリーム2のデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2023年9月29日時点。点線は市場予想に基づく予測。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

市場がFED主導による各国政策の収束を確信し続けている理由は、以下の3つの要因が考えられます。

  • 「独立した」思考の欠如-各中央銀行がどこも同じような処方箋を適用している状況です。この見方には一理あるかもしれませんが、経済のインフレ水準がばらつくにつれ、こうしたコンセンサスは揺らぐ可能性があります。
  • 資本フロー-グローバル化が進んだ状況では、ある国の金融政策がFEDの政策から大きく乖離すると、その国の通貨が上昇することになり、その国の成長に負担がかかることを意味します。
  • 米国主導の世界成長-1990年代後半以降、世界は実質的に、米国の個人消費の「おかげで」成り立ってきました。端的に言うと、中国、ドイツ、日本などは、世界に消費財と資本財を供給することで、巨額の貯蓄を積み上げてきました。そのおかげで、米国は(そして英国も)持続的な経常赤字を補填してきました。米国の景気サイクルが他の国々にとって極めて重要である以上、他国の中央銀行がFEDに追随するのはごく当然のことでした。

乖離への回帰

1990年代後半までの時代、とりわけ1970年代と1980年代には、国ごとに独自の内需サイクルがあり、実質と名目成長率は国によって大きく異なり、実質と名目の個人消費に大きな異常値はありませんでした。時には、財政政策と金融政策の方向性も大きく異なり、ある程度の差がありました。

確立されたパラダイムがシフトするには時間がかかりますが、私たちの研究によれば、世界はこうした過去の環境に戻りつつある可能性が高いです。これに関して注目すべき重要な動向は以下の通りです。

  • 欧州や日本では、企業や政府の所得と貯蓄を家計により多く分配するための慎重な政策決定がなされてきました。コロナ禍から生活費危機に至るまでの間、家計の下振れ要因は主に政府が吸収してきました。その結果、欧州でも日本でも、内需が押し上げられているという明白な兆候があります。経常黒字の縮小による二次的な影響として、他の国・地域の経常赤字の補填にかかるコストがかなり割高になると考えられます。
  • 中国の累積貯蓄率は、社会保障に限りがある状況を考えると、より構造的な性質のものとも考えられます。それでもなお、国内の消費拡大は今後の成長の重要な原動力になると予想します。 

すでに、これらの地域では製造業ではなくサービス業が成長を牽引しており、私たちが考えるように、内需の見通しが実現すれば、各国の経済と市場価格との相互作用は変化し、長期金利と幅広い資産に大きな影響が及ぶでしょう。

資産配分への影響 

資産配分の観点からすると、ボラティリティの上昇と地域ごとのばらつきは複数の影響をもたらしていますが、これらはすべてネガティブな影響という訳ではありません。ボラティリティは高リスクを伴う一方で機会をもたらすため、資産配分に際しては、ポートフォリオへのアプローチをどう順応させるか慎重に考える必要があります。

バランスシートのプラス面として、乖離するレジームは以下をもたらす可能性があります。

  • 幅広い投資機会-各国が景気サイクルを通過するペースにますます差が出て、それぞれが自国の財政・金融政策の影響をよりコントロールできるようになるにつれ、サイクルの各段階で幅広い機会がもたらされます。システミックな観点から見ると、これにより世界経済が「米国に巻き込まれる」形で世界的な景気後退や危機に陥る可能性は低下するでしょう。
  • ポートフォリオの抵抗力が高まる-ボラティリティが上昇していても、地域の乖離が広がり、内生的要因への依存度が高まるにつれ、資産配分の決定においては、相関の低さにより想定される恩恵から、ポートフォリオの抵抗力を強化し、全体のリスクを低減できる可能性が高まるかもしれません。

マイナス面としては、相関の低下と引き換えに以下の問題が生じる可能性があります。

  • ボラティリティの上昇-景気サイクルのより顕著な乖離は、ボラティリティの上昇と、資産価格の予測不能な動きにつながります。
  • 生産性の低下-脱グローバル化によって、貿易障壁の削減や世界規模のサプライチェーンの効率からもたらされていた生産性の伸びが損なわれ、経済成長率の低下、インフレ率の上昇、そして最終的には資産収益率の低下につながるかもしれません。
  •  債務の持続可能性-政府が国民を支援するために近年実施してきた大規模な給付は債務の持続可能性について疑問を招いており、二極化した大衆迎合的な政治の傾向から、財政再建への道筋がとりわけ想定し難くなっています。世界的な貿易フローの減少と相まって、これらの財政赤字の拡大は、より高く、より根強いインフレにつながるだけでなく、ターム・プレミアムの上昇にも寄与すると考えられます。というのも、私たちはリスクの負担に対してより高い見返りを求め、そのことが公開・非公開どちらの市場でも幅広い資産のバリュエーションに圧力をかける可能性があるためです。

この新たなレジームで成功するためには、私たちは上述のリスクと機会を念頭に、極めて慎重かつ体系的にポートフォリオを構築する必要があると考えます。具体的には、以下の内容が挙げられます。

  • 体系的な方法で、ファクターとベータにエクスポージャーを取る
  • 銘柄単位でもテーマ単位でも、リサーチ主導のアクティブ手法を最適な形で活用する
  • 新興国特有のリスクを絶えず注視しながら、先進国と新興国を含め地理的な分散効果を高める
  • 為替のボラティリティ上昇によって、ポートフォリオにおける為替リスク・ヘッジの必要性が高まる可能性があるため、為替ヘッジを取り入れる
  • オルタナティブ資産の組入比率を上げることで、分散効果をさらに高め、潜在的に他資産との相関が低いリターンを創出し、急激な変動からポートフォリオを守る

まとめ

私たちは独自の調査に基づき、世界のマクロ経済が乖離するレジームに戻りつつあると考えます。私たちはそうした事態に備えて、上述の事項を踏まえて資産配分を調整する必要があると考えます。

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ジョン・バトラー

マクロ・ストラテジスト
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スプリヤ・メノン

マルチアセット・ストラテジー・ヘッド(EMEA)