2024年下半期市場展望:債券

金利変動をチャンスに:2024年下半期の機会を解析

2024-12-31
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各国中央銀行による世界的な金融緩和の流れは、債券投資家に歴史的な恩恵をもたらしました。ところが2024年前半は、堅調な経済データが利下げ観測を後退させ、この追い風が弱まっています。年初時点では、多くが米連邦準備理事会(FRB)が成長リスクを抑えるために大幅な利下げに踏み切ると予想し、年末までに150ベーシスポイント(bps)の利下げを織り込んでいる先物市場もあります。根強いインフレ基調と回復力のある個人消費支出を背景に、2024年後半に突入する現時点で予測される利下げは50bps程度と考えられます。こうした金融政策に関わる不透明感は、地政学的緊張状態の継続や間近に迫った米国大統領選挙と併せて市場の不安定要因である一方、積極的なセクターローテーションとデュレーション管理の機会を示唆しています。

FRBは利下げに踏み切るのか?

欧州中央銀行、カナダ銀行、スイス国立銀行をはじめ、複数の中央銀行がここ最近のデータを根拠に今年に入って利下げを決定しました。その一方、米国では予想を上回るインフレによって、FRBが物価の安定と完全雇用という2大使命のバランス調整を迫られています。2024年第1四半期の米国GDP成長率は予想を下回り、製造業景況感指数と消費者信頼感指数も揺らいでいます。労働市場に目を向けると、求人件数の減少と賃金の低下を雇用者数の力強い伸びと4.0%の低失業率が打ち消し、強弱が混在しています。

インフレ率が2022年をピークに低下する一方、FRBがインフレ指標として重視するコアPCEデフレーターは2024年4月に前年同月比2.8%でした(図表1)。私たちは、インフレ率はFRBの2%目標を上回る3%手前で高止まりする可能性があると考えています。インフレ率が高止まりすれば、政策立案者は成長リスクを取るか、インフレ抑制に対するFRBへの信認を取るかの選択を迫られることになります。成長と労働市場はこのまま安定した状況が続くと見込まれ、よって年内の利下げを予想する市場の観測どおりにFRBが動く可能性は低いと考えられます。

Can the fed cut rates with inflation this elevated?

利回りは一定レンジ内で推移する可能性

インフレ率は、この先も金利の方向性とクレジットセクターのパフォーマンスを判断するうえで重要な役割を果たします。大規模なショックが起きなければ、安定したインフレ率は金利ボラティリティを落ち着かせ、米国債利回りも比較的安定して推移するはずです。多くの先進国市場の現在の利回りは、手元資金の運用先を探している投資家にとって機会となります。金融市場の金利は魅力的ですが、現在、多くの債券ポートフォリオはキャッシュを上回る利回りです。

なおかつ、キャッシュ運用のままでは再投資リスクやデュレーションリスクなどのリスクが伴います。再投資リスクとは、景気後退中は特に、短期金利が急速に低下し、キャッシュ投資家が魅力の薄い低金利での再投資を余儀なくされるリスクを指します。デュレーションリスクは、キャッシュ投資家が短期債券への投資を続けることによって負うリスクです。金利の低下は通常、長期債券のキャピタルゲインにつながり、よってキャッシュ投資家はそのチャンスを逃すことになります。 

ハイクオリティ債券は一般的に、投資家のポートフォリオの分散化に価値ある役割を果たします。満期までの期間が長い債券は多くの場合、株式のカウンターバランスとして機能し、株式市場が低迷すると価値が上昇する傾向があります。

クレジットリスクに対して保守的姿勢を維持する

多くの債券セクターのスプレッドは過去データに照らして縮小したままですが、これ以上のタイトニングの可能性は限定的と考えられます。私たちはこの先の緩やかな経済成長と力強い企業ファンダメンタルズを見込んでいます。そして、経済は過去の縮小サイクルと比べ、比較的高い金利に対する弾力性を備えています。景気減速時に典型的な大幅なスプレッドの拡大はないと予想していますが、リスクテイクの機会となる軟調期間はあると考えています。債券については、高利回りによる需要の継続が予想されます。債券セクター間や地域間のバリュエーションのばらつきは、抜け目のない投資家にとって市場の混乱を逆手に取る機会になるでしょう。

従来のクレジット市場を超える価値を探す

私たちがこれまで選好してきた一部のクレジット市場セクターは、ここ最近価値が下落しています。投資適格債またはハイイールド社債のスプレッドは縮小し、ハードカレンシー(米ドルまたはユーロ建て)の新興国市場ソブリン債のスプレッドは歴史的にタイトな水準にあります。欧州系銀行の劣後債(偶発転換社債、別名CoCo債)のパフォーマンスは悪くないものの、現時点では有利なリスク/リワードではありません。

私たちは、米国の消費者市場や住宅市場に関連した証券化セクターに、より魅力的な機会があると考えています。(CoCo債とは別物の)本来の転換社債(CB)は株式と連動したパフォーマンスを理由に魅力的と考えられ、強気シナリオにおいてはスプレッドがタイトな社債をしのぐ可能性があります。図表2は、潜在的な超過リターンの予測シナリオを示しています。

Illustration of top-down sector evaluation

どこに魅力あるリスク/リワード機会を見出すか?

  • 転換社債(転換社債型新株予約権付社債、CB):その他のハイイールドセクターと比較した場合、弱気リスクシナリオにおいては他のアセットクラスに則した動きになることが予想され、強気環境においては大幅なアウトパフォームが期待される転換社債は魅力的に見えます。従来の公開債券市場では選択肢が少ないテクノロジーやライフサイエンスなどのセクターへのエクスポージャーがある転換社債は、業種を分散させ、債券ポートフォリオの幅を広げる効果もあります。
  • 不動産担保証券(MBS):不動産担保証券は社債と比較して魅力的なスプレッドを示し、銀行からの需要の再燃や安定した金利による下支えを期待できます。
  • 自動車ローン資産担保証券(オートABS):自動車ローン資産担保証券のスプレッドが拡大する一方、自動車購入者に対する融資基準が過去1年間で大幅に厳しくなっています。オートABSは、サブプライム自動車ローンにフォーカスしたものは特に、債券市場において機会が過小評価されていると考えられます。
  • 住宅ローン担保証券(RMBS):住宅ローン担保証券のパフォーマンスにとって最も重要な基本的変数は住宅価格の上昇です。米国内の構造的な住宅供給不足と鬱積した消費者の新築住宅需要は、住宅価格の推移がこの先も堅調であることを示唆しています。

比較的魅力の低いセクターはどれか?

  • 長期投資適格社債:社債のパフォーマンスにとってタイトなスプレッドが一番の障害です。また、投資適格社債はプライシングパワー(価格決定力)の弱まりによって、利ざやに圧力が圧迫される可能性があります。 
  • 新興国市場ソブリン債:新興国市場は世界経済の底堅い成長の恩恵を得てきましたが、スプレッドはこれ以上の縮小の余地はほとんどありません。投資適格債の発行体である場合は特に、ハードカレンシースプレッドは極めてタイトです。
  • 偶発転換社債:偶発転換社債はクレディ・スイスの破綻を受けて2023年に低迷しましたが、以降大幅に上昇しています。欧州の金融機関に関して根本的な懸念はありませんが、1年前ほどの魅力はないと考えられます。

大統領選挙絡みの変動に備える

間近に迫った米国大統領選挙と地政学的緊張状態は市場変動の要因になります。私たちは、大統領選挙の結果如何を問わず、市場のレジリエンスを楽観視し、選挙前の一時的な変動の間もリスク資産の購入を選好します。

投資家は警戒心と先手の姿勢を失わず、生じた市場の混乱にむしろ乗じる準備を整えておく必要があります。こうした環境下では、さまざまな高利回りの機会を活かすと同時にリスクを慎重に管理する柔軟かつダイナミックなアプローチが求められます。機敏さを保ち、ポートフォリオを戦略的にポジショニングすることで、市場の不透明感を力強いアドバンテージに変え、2024年に利回りとトータルリターンのどちらも高めることができるでしょう。

Campe Goodman

キャンプ・グッドマン

債券ポートフォリオ・マネジャー
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アマー・レガンティ

債券ストラテジスト