2025年市場展望:債券

債券市場の乖離に乗じる

2025-12-31
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※下記コメントは2024年12月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

債券市場は2025年にどの方向へ進むのか、そして不確実性の中でどのように債券ポートフォリオをポジショニングすべきかを探ります。当社の債券ストラテジストであるアマ―とインベストメント・ディレクターのマルコが、金利全般の機会とリスクについて考察します。また、インベストメント・スペシャリストのウィルが、サイクルの長期化がクレジット市場にとって何を意味するかを議論します。注目すべき主要なテーマに加え、アクティブ投資家がユニバース内のばらつきと乖離の広がりに伴う上値余地を最大限に捉える方法についても解説します。

金利の見通し:

より長期間より高水準にとどまる — その影響は?

インフレ・ショックが金利市場に混乱をもたらし始めた2022年初頭以降、私たちはインフレの要因とこうした物価変動への政策反応を理解しようと努めてきました。そして私たちは2024年を目前に、「ディスインフレが市場見通しを支配し、世界的に利下げが進む」と予想していました。実際に世界の大半の国・地域で政策緩和が進み、私たちの予想は正しかったことが証明されましたが、政策の転換が間近に迫り、今後は市場が不安定化する可能性があるため注意が必要です。

この注意が2025年の方向性を定め、国債保有による収益が、想定される金利ボラティリティを埋め合わせる役割を果たすと考えられます。すでに世界の名目成長率は高いため、今後想定される世界的な景気減速の影響はある程度吸収できるでしょう。現時点では、景気後退やそれに伴う格下げや債務不履行の増加は予想していません。また、現在の高い利回りは高ボラティリティに十分見合っていると考えています。ただし、長期債は供給動向、インフレ期待、名目成長率の上昇による逆風に直面しています。

地政学的な緊張が市場の不透明感を高める中、政策当局の対応が試されるでしょう。政府は今後も財政緩和を通じて外生的ショックに対応することが求められます。米大統領選に続き、2025年初頭にはドイツで連邦議会選挙が待ち受けているほか、中国は低迷する経済の再生に努めています。政治と関税の方向性は不透明ですが、関税を通じた貿易障壁の高まりや、欧州での防衛関連の財政支出拡大が予想されます。金利はレンジ内で推移する見通しですが、世界の市場が次第に緊迫化し、局所的な動向に反応することで上振れするリスクがあります。

各中央銀行の反応関数が試される

成長とインフレのトレードオフが世界的に復活したことは、過去1年間に大きな外部ショックを乗り越えなければならなかった市場参加者にとって重要なストレス・テストとなっただけでなく、政策当局の反応についてもいくつかの証拠を示しています。つまり、政府は失業率の上昇から消費者を守ろうとする一方、中央銀行は政策金利を現在の「タイトな」水準から引き下げようとしています。これらの措置の組み合わせがより粘着的なインフレをもたらすとしても、です。

財政のニューノーマル:支出に次ぐ支出

トランプ氏の再選を受けて、労働供給の軟化と財政悪化という基調的なトレンドは加速する可能性が高いでしょう。米連邦準備制度理事会(FRB)は予想よりも早くに利下げサイクルのペースを遅らせ始める可能性があるものの、将来の利下げペースに関する市場のプライシングは不安定化すると予想されます。つまり、国債の高利回りは今後も続く可能性が高く、長期国債に至ってはさらに上昇することも考えられます。世界各国の政府は、防衛費の増大から設備投資、気候変動への対策に至るまで、かつてないほどに積みあがった財政課題の資金繰りに対応するため、債券市場への依存を続けると予想されます。今世紀最初の20年間を支配していた長期トレンドは振り返って見るとディスインフレ傾向でしたが、今では脱グローバル化と人口高齢化によって部分的に逆転しています。

  • 米国:1月の大統領就任後、比較的すぐに2期目のトランプ政権が発足すると予想されます。これに伴い、トランプ氏が掲げた関税、減税、移民規制の強化といった政策がどの程度実現するかがより明確になるでしょう。その間、私たちは国家経済会議(NEC)、財務省、商務省、通商代表部などの要職の指名リストを注視する意向です。FRBは利下げを継続する可能性が高いですが、インフレ対策において米国がおそらく最も前進しているため、リフレ政策が進まず、金利が長期にわたって高水準にとどまるリスクがあります。
  • ユーロ圏:新型コロナウイルス感染症のパンデミックとエネルギー・ショックという二重の課題を巡り結束と緊迫感が一時的に高まりましたが、外生的ショック(関税など)に対する政策反応は、再び冗長な意思決定と妥協のパターンに戻ると予想されます。欧州委員会の財政ルールが再導入されることで、ユーロ圏および他の欧州連合(EU)加盟国が関税に対抗するための大規模な歳出や一貫した対応を行う余地は限られるでしょう。同時に、EUの一部の大国に脆弱性が認められています。米国とは対照的に、欧州の国債利回りには下押し圧力がかかるとみられ、欧州中央銀行(ECB)は市場の予想よりも早いペースで利下げするかもしれません。
  • 英国:根強いインフレと拡大的な財政赤字により、市場の利下げ期待はすでに低下しています。堅調な労働市場、粘着的なコア・インフレ率、住宅活動の活性化を通じてサイクルが引き続き回復力を見せた場合、英国債が欧州国債よりも上昇するリスクがあります。
  • 日本:デフレ・リスクが消え、賃金のプラス成長、輸入インフレ、消費者行動の変化によりリフレ見通しが強まっています。短期利回りは夏までに日銀の目標である1%に向かって着実に上昇すると予想されます。
  • 中国:世界の他の国・地域と異なり、政策当局はバランスシートの大幅な景気後退に対応していないため、金利は低水準にとどまると予想されます。これまで当局は地方政府のバランスシートのレバレッジ解消に重点を置き、投機としての住宅投資を抑制するとともに輸出主導の成長に注力してきました。中国は世界的なデフレ要因となる可能性があります。

乖離:投資家への影響

ボラティリティが高まる中、乖離というテーマは政策決定にも定着する可能性があります。これはこの数十年では見られませんが、1970年代には各国の中央銀行が長期にわたり同調せずに金利を設定していた期間がありました。成長とインフレのトレードオフがますます地域的な性質を強める中、金利市場は次第に世界のサイクルよりも各国のサイクルに敏感になるかもしれません。投資家はまだこの点を織り込んでいないと考えられます。

A lesson from the past: Policy Convergence is not a given

それでも債券投資家にとって、局所的な金利市場リスクを分散し、時には一部の欧州投資家が現在行っているように利回りを獲得するために、グローバルな視点に立つことは有益です。

結論として、ボラティリティが高まる局面では慎重に資産を配分し、不可避の市場変動を乗り切るための柔軟且つリサーチに基づいたアクティブ運用に注力する必要があります。しかし、持続的な金利上昇環境においても、国債のトータルリターンはプラスになるでしょう。

クレジットの見通し:

サイクルの長期化-次の展開は?

現在の環境は依然としてクレジット投資家にとって有利であると考えられます。世界金融危機以降、レバレッジを解消してきた民間部門を中心に、企業と消費者は金利上昇に対して抵抗力を示しています。投資適格級の企業の増益率は安定しており、労働市場は依然としてタイトで、消費は引き続き強さを保っています。社債のバリュエーションはスプレッド・ベースではやや高いものの、利回りの観点からは依然として魅力的です。歴史的に、魅力的な利回りは、利回りを追求する買い手を市場に呼び戻し、この資産クラスを強力に下支えしてきました。全体として、私たちはサイクルに楽観的な見方を持ち、金利がレンジ内にとどまる環境がクレジット投資家に恩恵をもたらすと考えています。今後については、迅速なアプローチが有益であり、2025年に投資適格投資家にとって有望な投資機会となり得る3つの分野を特定しました。

  1. 金利のボラティリティの高まり
    今後、金利のボラティリティは上昇し、乖離は拡大すると予想されます。国債利回りの変化率がリスク資産のバリュエーションに大きな影響を与える可能性が高いでしょう。ポートフォリオのクレジット・ポジションを機動的に調整できる投資家は、ボラティリティの波を乗り切り、市場の急変動によって生じる潜在的な機会を上手く活用できるはずです。
  2. 先進国間の乖離
    先進国で成長率とインフレ率が乖離し続ける可能性が高いため、クレジット投資家はリスクを取る対象を慎重に選ぶべきだと考えます。例えば、欧州の自動車、素材、一般消費財などのセクターは、トランプ政権が課すと予想される関税の影響を受け、欧州の景気減速を招く可能性があるとみています。一方、米国は財政緩和の拡大、内需の強化、規制緩和が追い風となり、米国企業のファンダメンタルズは引き続き支えられる可能性があります。こうした乖離は、局所的なマクロ分析に併せて、セクターと発行体に関するボトムアップの深いファンダメンタル・リサーチを行う投資家にとって大きな投資機会となります。
  3. アニマル・スピリッツの復活
    長年の極端に緩和的な金融政策により、クレジット市場ではセクターや発行体のボラティリティとばらつきが抑制されてきました。しかし、ばらつきが再び生じ、今後さらに拡大する可能性があります。これは、世界の成長が安定し、企業が自律的成長にとどまらない事業拡大(社債で資金調達するM&Aを含む)を模索する意欲が高まっているためです。これにより、増発や信用格付の変更、ひいてはクレジット・スプレッドのボラティリティ上昇が予想されます。アニマル・スピリッツの復活に伴い、慎重なボトムアップ・リサーチを通じて勝者と敗者を特定する投資家は報われる可能性があります。

全体的な焦点は回復力と銘柄選択

現在のクレジット・サイクルは依然として底型く、強固なファンダメンタル要因、テクニカル要因、魅力的なオールイン利回りに支えられています。したがって、投資家はクレジット推進に軸足を置きつつ、ボトムアップで有望なセクターおよび銘柄選択の機会を模索することで恩恵を享受できるでしょう。しかし、私たちはクレジット・スプレッドの急変動の可能性も認識しています。そのため、回復力を重視し、より景気連動性の高いセクターへの配分が適度なリターンを提供し続けるとみています。クレジット・スプレッドのボラティリティは、2025年にポートフォリオのポジションを入れ替え、魅力的なバリュエーションでリスクを積み増すさらなる機会となるかもしれません。こうした背景を踏まえると、機動的で、リサーチ主導のクレジット運用が依然としてカギを握るでしょう。

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アマー・レガンティ

債券ストラテジスト
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マルコ・ジョルダーノ

インベストメント・ディレクター
will prentis

ウィル・プレンティス

インベストメント・スペシャリスト