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ジョン・バトラー
- マクロ・ストラテジスト
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これまで、日本は世界の金利市場の最後のアンカー(低金利の下支え役)となってきました。日本銀行(BOJ)は、特に2016年に短期金利のマイナス金利政策に加え、10年物国債の金利のレンジを設定し、それを守る「イールドカーブ・コントロール」(YCC)の導入を含め、数十年にわたり世界の流動性を下支えし、日銀は一貫して超緩和的な政策スタンスを強化してきました。国内のインフレ率が上昇し、政治的圧力が高まる中、黒田総裁率いる日銀は、金利上昇圧力を食い止めることが困難であると判断し、昨年末に長期金利の許容変動幅を微調整しました。
日本銀行は2022年12月、債券市場の機能回復の必要性を理由に10年物国債利回りの目標レンジを±0.25%から±0.5%に拡大することを決定し、市場を驚かせました。10年物国債利回りは急上昇したものの、その後、日銀がYCC調整の余波を受けて臨時の国債購入を実施したため、一部戻しました。1月18日、日銀はさらなる政策正常化に対する市場の期待に反し、現状維持を決めました。17-18日の金融政策決定会合で政策を据え置いたことで、市場で大きく混雑したトレード(JGB金利上昇、円高を想定したポジション)に巻き戻しが入りました。
日銀は3月9-10日、4月27-28日に次の金融政策決定会合を開催する予定であり、黒田総裁は4月8日に任期が切れる予定です。新総裁の指名は2月上旬に発表される予定です。日銀新総裁のもとで、3月・4月以降、さらなるYCCの調整とマイナス金利解除を含む政策正常化期待が高まることが予想されます。YCC再修正観測がくすぶり続ける中、市場参加者は、今後の日銀決定会合を重要な市場イベントとして扱うでしょう。
国内のマクロ経済情勢は市場の思惑通りであり、日本のインフレ率は他の先進国と同様に上向きになりました。2023年の日本の名目成長率は4-4.5%になると予想されています。これは1991年以来、2番目に高い成長率を記録することになります。もしそのようなマクロ環境となった場合、10年物日本国債の利回りが0.5%未満というのは不適切です。日本ではコア・インフレ率が40年ぶりの高水準で推移しており、日銀は景気見通しに対して不適切な金利水準を擁護していると考えます。日銀は、2022年12月上旬に国債金利が1%平行に上昇した場合、28兆円の含み損が発生する可能性があると国会答弁で言及しました。一方で、長期金利の許容変動幅の上限である0.5%を守ろうとした結果、2023年1月にはわずか17日間で日銀による国債の買い入れ額はすでに17兆円を超えています(図表)。日本銀行は現在、国債発行残高の50%を保有していますが、現在の買い入れペースでは年央に60%に達する可能性があり、恒常的に継続することは困難な状況です。
日銀の政策により、世界の中央銀行による資金供給量は反転しています。日銀の買い入れは、FRBのQT(量的引き締め)を凌駕しています。日銀は、長期金利の許容変動幅を守るために積極的に国債買い入れを余儀なくされたため、バランスシートは急速なペースで拡大しています。世界の中央銀行のバランスシートは再び拡大しており(図表)、今年に入ってからのグローバルの金利低下とリスク資産の反発に一部寄与していると考えます。
日銀の買い入れは、FRBのQT(量的縮小)を凌駕
主要中央銀行の資産購入(月間購入額)
出所:データストリームのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。時点:2023年1月。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
日銀は今後レンジ幅を再び拡大(75bpsまたは100bps)、YCC年限短期化もしくは解除する可能性が高く、それと同時に円滑な移行を確保するために継続的な国債買い入れをせざるを得ません。日銀の正常化が実現し、YCCが終了した場合、10年物国債利回りが1%程度まで上昇する可能性があり、イールド・カーブの歪みが解消し、利回りを求め海外に出ていた日本の資本が一部日本に回帰し、世界の金利上昇を誘発する可能性があります。日銀(およびECB)が政策を正常化し始めると、国内市場に魅力的な利回りを有する投資対象が増えるため、日本やユーロ圏の投資家が海外資産を購入するインセンティブが低下するでしょう。世界の流動性はFRBとECBのQTのペースに支配されて再び縮小し、リスク資産にとって流動性の逆風が再び吹くと考えます。
日銀は当面、±0.5%のレンジを死守するために市場の売り圧力と戦い続ける可能性が高いとみています。なぜなら日銀は、金融政策を正常化する前提として、世界的なインフレ圧力の後退や、持続的な賃金上昇などの要因を挙げています。日銀が政策を維持した場合、世界の金利低下圧力と、リスク資産の上昇が長引くことに寄与する可能性があります。しかし、マクロ環境が好転し、政策正常化の道筋がより明確になってきた場合、その後の日銀決定会合が重要な市場イベントとなることは間違いないでしょう。
上記の基本的な考え方に沿って、弊社マクロチームは、中長期的にに日銀が政策を正常化する可能性が高いとみています。日銀は現状の政策から徐々に移行するか、金融システム不安が発生するリスクを負い、より速いペースでの政策変更を行うかの難しい判断に迫られています。日本の景気が上向きになり、インフレ率が高まれば高まるほど、現状の不適切な金利水準を死守するためにバランスシートの拡大を余儀なくされることになります。これまで続いていた日本国債、ドル円の一方向の動きはなくなり、今後はさらなるボラティリティ高まり(日本国債、ドル円の振幅の拡大)が想定されます。
ジョン・バトラー
駱 正彦(ろう まさひこ)
長丸 伸太朗