日本の株主アクティビズム:

企業価値向上を可能にする

エンゲージメントの秘訣

2024-08-04
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3回にわたる日本の株主アクティビズムのシリーズの第一稿では、日本におけるアクティビズムの歩みと進化について振り返りました。本稿では、そのような背景における、日本株式運用チームのエンゲージメントおよび企業価値向上に対するアプローチを最近の事例を踏まえてご紹介します。

株主アクティビズムから株主価値へ:私たちのアプローチ

図表1は、日本企業を改革への適応度合によって、3つのグループ(グループA:ベストプラクティス、グループB:改善途上、グループC:未覚醒)に分類した概念図です。私たちのエンゲージメントは、株主還元、資本市場とのコミュニーケーション、事業ポートフォリオ管理など、企業価値向上に寄与する項目を包括的に含んでいます。改善点が大きい企業(グループBおよびC)に対しては、全社的な運用リソースの活用による協働エンゲージメントを実施することが多いです。近年では一部のグループC企業に対しては、議決権行使やエンゲージメントレターの送付など、いわゆるエンゲージメントの“エスカレーション“にも努めてきました。私たちの長年の経験から、エンゲージメント指標の改善が顕著な場合はバリュエーションや企業価値の再評価につながる傾向にあると考えます。

図表1:改革への適応度別の日本企業の分類

1該当企業割合は社内リサーチ対象銘柄総数に占める割合 | 記載はあくまでも例示であり、実際の保有銘柄を代表するものではないことがあります。いずれかの顧客口座において、実際に例示(又は例示と同様)の銘柄に投資を行う又は行ったこと、その投資が過去に利益を生じた又は将来に利益となり得ることを示唆するものではありません。実際の保有銘柄は顧客口座ごとに異なり、特定の顧客口座が例示の銘柄を保有することを保証するものではありません。

最近の事例

  • あるエレクトロニクス会社(グループB)は、余剰キャッシュの水準に対して問題意識をもち見直しを進めていましたが、PBR(株価純資産倍率)が恒常的に1倍を下回っており、企業価値向上は改善途上でした。新中期経営計画では、株主還元・事業ポートフォリオ管理を強化することによりPBR1倍以上、ROE8%の達成を目標とすると発表し、東京証券所のPBR向上要請も踏まえ、市場の評価が大きく改善しました。私たちは、定期的に経営陣とエンゲージメントを実施し、PBR向上に向けた進捗状況を議論することで、変化を捉え・促すことに成功したと感じています。
  • ある生命保険会社(グループC)は、低い株価・EV倍率に対して危機意識を持つも、余剰資本の認識・株主還元・M&Aにおける規律など改善策については未実施の項目が多いと感じていました。私たちはグローバル産業アナリスト、ESGアナリスト等グローバルのリソースを同社のファンダメンタルズ分析やエンゲージメントに活用しました。特に、先行している同業他社の改善例を参照に、当社の推奨案をエンゲージメントレターによって明文化しました。同社は株主還元の強化を実施するなど、徐々に変化をしており、市場からの評価も大きく改善しています。
  • ある専門小売会社(グループA)は、日本ではESGにおける先駆者として知られています。私たちはESGアナリストを含めて定期的に同社とエンゲージメントを実施してきました。直近では、低迷する株価に対して、大規模自己株取得枠の設定など株主還元の強化を発表しており、資本市場に対して同社が企業価値向上を望む強いメッセージとなりました。

日本におけるエンゲージメントの成功の秘訣:グローバルおよび地域のバランス

私たちが考えるエンゲージメントの成功の秘訣は、グローバルおよび各地域の視点や専門性のバランスによって支えられています。以下では、エンゲージメントの成功につながる強固な基盤づくりに役立っている、弊社を差別化する3つの重要な要素をまとめました(図表2)。

図表2:3つの差別化要素

出所:ウエリントン・マネージメント(2023年時点)。

まとめ

私たちは、日本の株主アクティビズムの高まりを背景とした、エンゲージメントによる企業価値の向上には引き続き大きな投資機会があると考えます。政策の後押しも続いていることから、持続的な投資テーマとして引き続き日本株式市場の成長を支えていくことが期待されます。

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岩井 克浩

株式ポートフォリオ・マネジャー