ウェビナーの日本語抄訳

短期志向の時代における長期投資の重要性

2025-03-12
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下記コメントは2024年2月のウェビナーに基づく日本語抄訳です。

短期志向の投資家が増える中、長期的な視点に立つことはどのような優位性をもたらすのか。「グローバル・スチュワード運用戦略」の共同ポートフォリオ・マネジャー、ヨランダ・コーティンスに聞きました。

投資哲学および運用プロセスに影響を与えたエピソードや経験はありますか。

コーティンス:私はこれまで3大陸にわたり文化と歴史の異なる5カ国で生活し、常にグローバルな考え方を維持してきました。これら無形の要素がいかに結果に影響を及ぼすかを見てきており、私の投資哲学に確実に影響を与えてきました。幼少期を過ごしたブラジルではハイパーインフレを経験し、物価が年間100%以上上昇する中で、私たち家族はまとめ買いを始め、食器棚は主食や乾物などで溢れかえっていました。一方、夏休みに米国に戻った際、食器棚には缶詰が1、2缶しかなかったことを覚えています。財務の柔軟性や環境への適応に対するアプローチが非常に異なることを子供ながらに実感しました。このような経験から、確固たる資本配分や財務の柔軟性のある強固なバランスシートは、私が投資先企業を選別する際に考慮する要素の一部となっています。

その他に、私が株式アナリストとして働き始めた頃のエピソードをご紹介しましょう。私は新興国の銀行を担当しており、その中で高く評価した銀行がありました。同行は純金利マージン(NIM)が実に大きく、素晴らしい収益が見込まれたことから、保有を検討していたものの、株価が下がり始め、下落が止まりませんでした。企業の収益や経営陣との対話により示された実態と株価の反応との間に関連性が見当たらず、同行を保有することに安心感が得られませんでした。最終的に、同行において深刻な不正会計が発覚しました。これは私のキャリアの初期段階に得た素晴らしい教訓であり、市場で起きたさまざまな結果の一つに過ぎず、優れたガバナンスおよび監督の重要性、そうした投資の側面での安心感が重要であることを学びました。現在も優れたガバナンスは私の投資哲学の中心にあります。

あなたの強みや優位性はどこにあると考えますか。

コーティンス:投資ホライズン(想定投資期間)、つまり長期的な視点が、私たちを差別化する主な優位性の一つだと考えます。私は今後1-2四半期で何が起こるかをあまり気にしておらず、将来に向けた収益の底堅さ、企業の適応力、経営陣の強靭さ、ビジネス・モデルの頑健性を始めとする、資本利益率の高さや資本の投資先により関心があります。つまり、10年後を見据えて長期的な視点に立ち、財務内容に限らず、多くの無形の要素やより定性的な要因を考慮し、あらゆる重要な定量評価を加えて投資判断を下しています。

長期的な成長が期待できる企業はどのような企業ですか。具体的な企業例はありますか。

コーティンス:企業が長期的に成功するためには、経営陣は資本を賢く配分し、自社の利益とすべてのステークホルダー(利害関係者)の利益のバランスを重視する必要があり、それをスチュワードシップと呼びます。高い資本利益率と強力なスチュワードシップの組み合わせによって、企業は長期的に高い資本利益率を持続できると考えています。そしてそれは収益の変動を抑え、企業の資本コストを軽減し、長期的な投資収益の向上につながると考えています。

ステークホルダーへの投資と持続的な収益への転換により、強力なスチュワードシップと高い資本利益率を維持してきた企業の例をご紹介しましょう。

  • ある大手ホームセンターは、コロナ禍で家のリフォーム用品を購入する人が増えたことから予定外の収益を上げ、従業員に再投資しました。賃上げや、より良い福利厚生によって、従業員は困難な時期を乗り切ることができました。同社はさらに超過利益をオンラインとオフラインのサービス向上に再投資し、オムニチャネル化を進めました。これは高い収益をステークホルダーに再投資したことで収益をさらに高めた例です。収益を再投資する適応力が企業への信頼に繋がり、収益を生み出します。
  • ある大手農業機械メーカーは、コロナ禍初期に経営トップが交代し、新しいCEO(最高経営責任者)が機械の技術向上による農家の収穫率向上の支援、殺虫剤や農薬の使用削減を含む環境面の改善、企業価値を高めるソフトウエアへの投資継続など大胆な事業再編を行い、利益率が2倍になりました。
  • ある大手オートメーション&エネルギーメーカーは従来、エネルギーインフラを支援する電気機器の製造・販売が主力事業でした。しかし、エネルギー移行が進むにつれて、インフラのみならず製造プロセスや自動化プロセスを通じたエンドツーエンド(端から端まで)の自動化や効率化を支援することで、企業全体の効率向上に向けた投資を増やしてきました。さらに同社はボルトオン買収(既存事業の補完・強化を目的とする買収)や規律の高い資本配分を行うことにより、収益を押し上げ、企業の利益をより持続可能なものへと転換することができました。

なぜ、企業とのエンゲージメントが重要なのですか。

コーティンス:完璧な企業というものは存在しません。エンゲージメントを通じて、企業が高い基準を設定し、優れた企業がさらに優れた企業になるよう支援することが重要だと考えます。私たちは、ステークホルダーとの関係、取締役会の改善、役員報酬制度の変更などへの積極的なエンゲージメントを奨励しています。これまで経営陣とのエンゲージメントを通じて、ネットゼロへのコミットメントや役員報酬制度の変更などに積極的に関与してきました。

また、エンゲージメントは、適切な売却のタイミングを把握するうえでも役立つと考えています。私たちは、企業の収益が悪化した場合やスチュワードシップに改善や進展が見込めない場合に売却という選択肢を視野に入れます。過去、労働問題や企業の時期経営トップの株主還元に関する明白なビジョンの欠如、後継者育成計画に対する懸念などを背景に、売却を決定しました。こうしたことから、企業に投資するタイミング、保有期間、売却の是非を見極める際に、エンゲージメントは極めて重要だと考えています。

最後に、あなたの投資における信念を教えてください。

コーティンス:投資において最も重要な目標の一つは、最終受益者の利益との一致にあると考えています。一部の市場参加者は短期的な視点に偏っていますが、受益者は長期的に価値を構築する必要があり、そうした目標に合致するよう努めています。これは、私自身やお客様、子供や孫に将来働いて欲しいと考える企業に投資するという発想です。そうした企業が優れた企業であり続け、高い収益を維持することができると見ています。そしてその過程で、魅力的な投資収益を長期的に生み出すことができると考えます。これが私の信念です。その信念の下、優良であり、かつ将来にわたり優良であり続ける企業を保有できるよう、優れたリーダーシップ、優れた意思決定、確固たる資本配分といったスチュワードシップが、投資収益の向上につながると信じています。

yolanda courtines

ヨランダ・コーティンス

株式ポートフォリオ・マネジャー