2024年下半期市場展望:プライベート投資

ベンチャーキャピタルの8つの新たなトレンド

2025-05-29
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ベンチャーキャピタル市場は2024年下半期に向けて勢いを増しているように見受けられます。2023年はバリュエーション、資本投下、資金調達、エグジット(投資回収)がすべて歴史的な水準に戻り、全般的に「緩慢」であったという表現が最適であると私たちは考えます。

一方で、2024年上半期は回復の兆しが見られました。現在目にしている変化は緩やかなものであり、さまざまな課題があるものの、ベンチャーキャピタル全体にとってより健全な環境、つまり革新的な企業が長期的かつ慎重な意思決定を行うことで報われる環境に向かっていると考えます。

正確な予測は難しいですが、2024年下半期は以下8つの新たなトレンドが継続すると見ています。

  • 資本効率の改善: 10年にわたる歴史的な低金利時代(ここ数年で金利は底打ち)を経て、資本効率への関心がますます高まっています。このシフトは、特に2021年に多額の資金を確保した「ユニコーン企業」と呼ばれる企業価値10億ドル以上の未上場企業の多くが過去のバリュエーションの正当化に苦戦する状況につながる可能性が高いでしょう。投資家は資金調達においてより慎重になっているため、これらの企業の多くは大幅なダウンラウンド(新規株式公開(IPO)時にバリュエーションが前回の資金調達時を下回ること)を受け入れざるを得なくなる可能性もあります。今後は現在よりはるかに多くの企業が、より優れた資本効率の基盤に基づきビジネスを適応させ、構築していくと考えます。
  • LPはDPIを優先する可能性が高い:ベンチャーキャピタル業界では一部のファンド・マネージャーが流動性の問題に直面しており、アロケーター(リミテッド・パートナー)が投資先をより注意深く選定するようになっています。2020年と2021年の流動性環境は非常に良好であったことも含め、10年にわたり活動は活発であったにもかかわらず、多くのベンチャー・ファンド・マネジャーは投資家にほぼ資本を還元していないことがその理由です(図表1)。過去1年間で、投下資本利益率(TVPI)から実現倍率(DPI)への関心の移行が見られ、アロケーターは資本を還元したマネジャーを選好するため、この傾向は今後も続くと予想されます。
図表1 
カテゴリー別エンゲージメント
  • AIバリュエーションと影響:人工知能(AI)セクターの多くの企業には、収益創出の先を行く高いバリュエーションが見られますが、今後の進展により価格が正当化される可能性はあります。私たちは、一部のセグメントではバリュエーションがファンダメンタルズを上回っており、どのビジネスモデルが大きく収益化できるのかが不明確になっていると考えます。しかし、AIが広範に及ぼす影響は、専門的な特定分野のみだけでなく、変革をもたらす技術としてさまざまなセクターに広がっていくでしょう。現時点では、企業の既存のビジネスモデルの成長においてAIが不可欠な基盤の一部として機能する企業を選好します。
  • 新興セクターの投資機会:サービスとしてのソフトウエア(SaaS)などの一部のセクターでは2020年と2021年に多額の手元資金が蓄積されたため、新しいバリュエーション環境の影響をあまり受けていません。2024年上半期にはバリュエーションの適正化が進みました。企業は手元資金の枯渇を感じており、ベンチャー投資家にとって新たな投資機会が生み出されているため、私たちはバリュエーションの適正化は今後も続くと見ています。注目すべきは、公開市場において、SaaS企業のマルチプルが今も修正が続いているように見受けられることです。これは、非公開企業が資金調達の交渉の場に戻る際に受けるバリュエーションにも影響を及ぼす可能性が高いでしょう。

図表2

カテゴリー別エンゲージメント
  • 成長率と収益性のリバランス:急速な成長と収益性の繊細なバランスを見直す必要があるというコンセンサスが高まっています。有名な「40%ルール」は企業の成長性を測る指標の一つで、年間の収益成長率と利益率の合計が40%を超えると将来の成長を見込めると見なします。例えば、100%の成長率とマイナス60%の利益率では持続可能ではないため、成長率と利益率のバランスが非常に重要な要素であるということが明確になりました。新規株式公開(IPO)で考えてみると、現在の環境は収益性を実証することがますます重要になっていることを示唆しており、これまでの「あらゆるコストをかけて成長する」という考え方からシフトしています。
  • IPO市場の復活:低迷が続いていたIPO市場は、緩やかな回復の兆しを見せています。この回復は米大統領選挙の前後は一時的に停滞する可能性はありますが、2024年下半期はより本格的になると見ています。2021年にIPOを行った企業が直面した厳しい状況を受け、多くの企業は上場を躊躇していますが、最近のIPOの成功はこのセンチメントを逆転させる大きな一助になるかもしれません。一般的に、IPO市場は公開市場に追随する傾向があるため、2024年下半期には、良いポジションにある企業が公開市場にアクセスし、新規株式公開に対する投資家の意欲を活用する好機となると予想します。
  • スタートアップのエグジット率:アーリーステージからミドルステージ、そこからレイターステージへの成長の移行率は低下することが見込まれます。企業はこれらのステージの進展に向け、より大きな事業規模と、より強力なプロダクトマーケットフィット(商品・サービスが特定の市場ニーズに合致し、顧客から高い評価を受けている状態)を示す必要があるでしょう。このような強まる監視は、最も堅牢で拡張性の高いビジネスのみが、レイターステージと潜在的なエグジットの機会に向けて確実に前進する一助となるはずです。
  • 成長が見込めるベンチャーセカンダリー:ベンチャーセカンダリー市場はバイアウト市場のごく一部であり、取引量の減少は割引幅の拡大につながっています(2023年はバイアウトでは基準価格(NAV)の91%であったのに対し、ベンチャーはNAVの68%)1。アロケーターがポートフォリオのリバランスや流動性を必要とすることは、これまで比較的ニッチな市場であったベンチャーセカンダリー市場に投資するインセンティブを高めると考えられます。この結果、今後数年間で取引量の増加および効率性の改善が見られると予想します。

図表3

カテゴリー別エンゲージメント

まとめ

私たちは、ベンチャーキャピタルの環境は引き続き改善していくと考えます。資本効率の向上からIPO市場の回復、またその他にもさまざまなトレンドが今後の投資機会を促進させており、私たちはこうしたトレンドに期待しています。

1Jefferies, Global Secondary Market Review, January 2024.

Michael Carmen

マイケル・カーメン

プライベート・インベストメント 共同ヘッド
craig william

ウィリアム・クレイグ

インベストメント・ディレクター
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マーク・ワトソン

インベストメント・スペシャリスト