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ジョン・バトラー
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※下記コメントは2024年12月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
2025年のマクロ環境は、米国の関税の規模とその影響、そして欧州と中国がそれにどう対応するかを中心としたさまざまな不確定要素に左右されると私たちは見ています。予想し得る帰結の幅は極めて広く、関税導入のスピード、規模、範囲、可能性によって大きく変化することから、マクロ経済の道筋が直線的であるとは考えられず、市場は異なるマクロシナリオの間で揺れ動くと予想されます。現時点では、すべての要素が未知数ではあるものの、その中でもより確実性の高い重要な動きやリスクがいくつか見られます。
2025年は、市場が期待していた「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオを諦める年になると見ています。関税はスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)をもたらし得ることから、市場の注目を集めていますが、経済全体がすでにいかに異常な状況であるかに焦点を当てることが重要です。インフレ率は引き続き目標値を上回り(図表1)、世界経済にほとんどスラック(需給の緩み)が見られない現状で、ほぼすべての国が2025年に向けて景気をさらに刺激しようとしています。
図表1
言い換えれば、こうした一連の緩和策は景気対策が目的ではなく、むしろ関税の導入に備えて実施されています。サイクルのこの段階で、これほどプロシクリカル(景気循環増幅的)な政策が実施されることは滅多にありません。世界の失業率が、少なくともここ35年間で最低水準にあるにもかかわらず、利下げ、信用条件の緩和、貨幣乗数の拡大、財政緩和といった政策が実施されようとしているのです。
現段階において、依然としてほとんど見過ごされている重要なポイントが3つあります。
図表2
現在のサイクルが特に異例であるのは、民間セクターが債務を返済し回復を成し遂げたことと、失業率が低下したことが原因です。つまり、家計や企業は利上げにそれほど影響を受けていません。世界経済は過去20年間の平均成長率をわずかに下回る水準にしか減速しませんでしたが、その理由はこの一点にあります。要は、主要先進国の中立金利は一般に想定されているより高い水準にある可能性があります。
図表3
緩和的な金融・財政政策、労働市場の逼迫、そして高水準の中立金利がもたらす影響は明らかです。そうした影響は関税賦課が加わる前のため、2025年の実質成長率、名目成長率、インフレ率は先進国、新興国とも2024年よりも高くなると予想されます。中央銀行の利下げは市場予想を下回ると考えられますが、その理由は名目成長率の上振れリスクと関係しています。通常、名目成長率の上昇見通しはリスク資産にとってプラスであるため、 その価格は上昇し続けます。地域別で見た場合、ユーロ圏と中国のリスク資産はこうした見通しを十分に織り込んでおらず、かかるシナリオ下では最も上昇すると予想されます。
財政赤字が持続的に拡大し、中央銀行が景気後退を断固阻止しようとすれば、名目成長率の上昇で資産価格が上昇するという「正常な」関係が成立する恐れがあります。リスク資産は、政府当局が成長に熱意を注ぎ、インフレを容認しているという事実に市場が気付き、その対価としてより大きなリスクプレミアムを要求するようになるまでは、値を上げると見込まれます。これは株式にとっては最大の脅威であり、こうした力関係から、債券の利回りは成長誘導型ではなく、リスクプレミアム主導型で上昇するようになる可能性があります。関税引き上げや保護主義の脅威が現実のものとなれば、中央銀行が望まないか、実施できない引き締めを市場が代わって実施するリスクがますます高まります。世界的に成長とインフレのトレードオフが悪化すれば、財政赤字の持続可能性は低下し、中央銀行の金融緩和策は一層「無責任」と見られるでしょう。
米大統領選挙の結果は、市場にこうした結論への対応を早めさせる可能性があり、同時にメリットを減少させる可能性もあるため、この構図はさらに複雑化します。新政権の形態や政策決定の速度といった重要な要素によって大きく左右されることは明らかですが、結論として米国は財政政策を通じて需要を拡大させる可能性が高まっています。しかし、米国は、関税や移民に起因する顕著な供給ショックの可能性に直面することになり、その結果、既存労働者の交渉力が増します。こうした状況は、サイクルの不安定性拡大、インフレ主導の名目成長、構造的な長期金利の上昇に繋がります。また、これは地域的なマクロ格差を拡大させる恐れもあります。市場は、特に欧州や中国などの輸出国が相対的な敗者になると見ています。しかし、国や政策当局が対応に乗り出さないことは稀であるため、さらなる不確実性が生まれています。
2025年以降でもう1つ注目される重要なテーマは、市場間の相関性が低下し、政策面での乖離が大きくなることで、各国間の差異拡大が進むことです。グローバリゼーションがこれまでとは異なり、より後退する中、各国の国内市場を理解することの価値が高まり、それに伴って、アクティブな投資家にとっての機会も拡大することになります。
中国は大きな不確定要素です。米国による大幅な関税賦課が成長に大きな打撃を与えることは明らかですが、中国がどのように対応するかも同様に重要です。中国は、過剰な生産能力を諸外国に輸出するのでしょうか。このシナリオでは、米国ではインフレ率が上昇しますが、他の国ではインフレ率は低下します。中国は恐らく、大幅な緩和的財政・金融・通貨政策で対応し、下振れリスクを回避しようとすると予想されます。そうした対策が取られなければ、金融危機は現実のものとなるでしょう。
ユーロ圏は特に脆弱です。ユーロ圏最大の経済国ドイツのビジネスモデルは、安価な輸入エネルギーで生産した輸出品に依存することができなくなったため、崩壊状態にあります。米国の関税賦課により、ドイツのビジネスモデルはさらに崩壊の度を高め、欧州中央銀行が取ると予想される対策(米連邦準備制度理事会(FRB)を上回る回数とスピードの利下げ)も、持続可能な長期的解決策にはなりません。2025年2月に実施されるドイツの総選挙は極めて重要です。これまでドイツが欧州の成長を鈍化させてきた局面では、中道左派政権が改革プログラムを主導していました。今回は中道右派政権が財政政策を主導する可能性が高まっています。以前と同様、今回も構造的なショックに対する対応策として、財政政策による需要喚起の可能性が高まっています。このため、インフレは再び粘着性を持つ可能性が高まります。
英国は、インフレ率の上昇を容認する道を突き進んでいるように見えることから、私たちのマクロテーマの代弁者とも言えます。新政権はすでに財政緩和に踏み込んでいます。財政政策の緩和は、長期的な成長を図るという純粋な目的を持っているにもかかわらず、中央銀行の利下げと信用条件の緩和が伴うことから、需要の拡大に結びつきます。そのため、名目成長率はさらに上昇する可能性があり、市場はすでにイングランド銀行の利下げ回数が、特に他の国と比べて減少すると予想しています。実現性は極めて低いと考えられるものの、2025年後半には、英国は利上げを再開することさえ予想されます。
日本のリフレ経済は健在ですが、債券市場は依然、世界的な景気後退をほぼ完全に織り込んでいます。市場は、日本の金利が永遠に中立金利を大きく下回る水準で推移すると見込んでいます。2025年には、日本銀行は市場が想定する以上の利上げを断行する可能性がありますが、政策金利は依然、成長を後押しし続けると予想されます。人口減少は、貯蓄主導のデフレ経済を賃金主導のインフレ経済に転換させる潜在力を持っていますが、日本はそうした姿を映し出しています。日本の興味深い課題は政治です。最近の選挙では、一般的な有権者はインフレを懸念していることが明らかになりました。しかし、新たな自公政権は、インフレを抑制するための政策を推し進めるのではなく、財政の緩和を通じて、インフレによる家計負担の上昇を補填する方向にあるようです。
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ジョン・バトラー
イーオン・オカラガン