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ジョン・バトラー
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日銀によるマイナス金利政策の転換が長く待ち望まれていた中、ようやくそれが達成された形となりました。日銀の意図は事前に明確に伝わっており、市場には好意的に受け止められましたが、私はこれで事の終わりだとは考えていません。私の見解では、答えを出すべき重要な質問が4つあり、これらの答えはグローバル市場の軸となる日本の役割を考慮すると世界中の投資家に大きな影響を与える可能性があると見ています。
本稿執筆時点(2024年4月)では、日銀の動きは概ね落ち着いたと市場は捉えているようで、2024年内はあと一回の利上げが織り込まれていると見られます。しかし、私は市場のコンセンサスとなっている利上げサイクルの段階と実際の段階には相違があると見ています。また、インフレ率と名目成長率は維持されていることから、日銀はこれまで困難であった2%上昇という物価安定目標の達成により自信を示していると考えます。これらは中立金利や市場正常化への動きが予想よりも早くなる可能性を示唆しており、この動きは更なる円安圧力が加わることによって加速する可能性があるでしょう。
日銀の金融緩和政策からの脱却成功に立ちはだかる最大のリスクは、既に大幅に遅れている経済回復の足かせとなり得ることや多くの企業がプラスの名目金利への調整に苦労しうることよりも、脱却が及ぼす財政への影響にあると考えます。金利上昇は、日銀が保有する膨大な国債の価値を下げることによって日銀の財務体質を大幅に悪化させる可能性が高いと見ますが、政府財政への影響は、債務返済費用の上昇を考慮すると(特に日本政府が名目成長率の上昇を活かし、支出を削減してこなかったを考慮すると)更に大きいものになると考えられます。また、日銀が最終的に債券買入オペを終了させた後には新たに購入者を集うため、より高い利率を提示する必要があり、それによって更に財政が悪化する可能性があります。
このように金融と財政政策が密接に関連していることが日本の金利正常化への道を大変険しいものにしています。最終的に政策当局は、両立が難しい以下2つの方向性の間で難しい舵取りを迫られるでしょう。
25年間にわたるデフレを経て、日本の当局は意図的に「無謀」な政策を推し進めることによってショック療法を用いることになりました。ここ2年間のコアインフレ率が平均3%に達していることを考慮すれば、政策の効果は出始めていると言えます。しかし、世間一般および市場は、インフレを野放しにする日銀の手法にまだ完全に納得していないように見えます。そのため、以下の点を踏まえれば、小幅な利上げではむしろ景気の刺激となるかもしれません。
最近のデータではコアインフレ率の縮小、貯蓄率の鈍化、賃金や設備投資増額の意向、そして重要な点である不動産融資の上昇が見られますが、これらは全て逆の方向性を示しています。そして、これらの一時的な活動の変化の兆しがより顕著に表れれば意図せぬ結果を生む可能性があることから、日銀にとっては好ましくない状況となっています。銀行貸出の大幅且つ確実な回復を待てばインフレを引き起こし、高齢化している日本社会にとって困難となる可能性があります。一方で、急ピッチな利率の上昇を容認すれば景気回復の腰折れや国債利率の不意な上昇を招くかもしれません。
国債の安定性欠如と更なる円安の可能性は、日本のグローバル市場における軸としての位置づけを損なうと同時に政府の債務持続性に疑いの目が向けられる可能性を意味しています。よって、10年続いた実験的な政策から滞りなく脱却するためには、国内の貯蓄機関を再度国債市場に参入するよう説得するのも一つの代替案となるでしょう。しかし、それは同時に世界市場における利率とリスク・プレミアムの低位安定に貢献していた重要な要素を取り除くことになります。国際決済銀行(BIS)のデータによると、このような資金フローの逆流が発生した場合、豪州やユーロ圏(特に仏)が最も影響を受ける可能性があり、同時に経常黒字が大きい国(特に独)における需要が低下すると考えられます。
日本経済の「初期化」が成功すれば、時間と共にアクティブ投資家にとって資産クラスおよび個々の証券レベルで新たな機会が創出されるでしょう。
当面の間、日銀が、市場全体の予想よりも速く動く可能性を示すような兆候を見逃さないように注視し、それに伴う潜在的な市場の乱れに備えるべきと考えます。
ジョン・バトラー