2024年下半期市場展望:プライベート投資

プライベート・クレジット投資機会を後押しする4つの動き

2025-12-31
アーカイブ info
アーカイブの記事内の作成者の見解は、過去の作成時点の情報に基づくことをご留意ください。
Mid Year Outlook Designs 4_sd_v2

ミドルマーケット融資に関するニュースが流れる中、数兆米ドル規模1に及ぶプライベート・クレジットは幅広いサブアセットクラスに支えられ、潜在的投資機会を秘めていると考えます。

7,670億米ドル規模のダイレクトレンディング市場に大規模な資本流入が起きていることは事実であり2、その混雑ぶりと競争の激化が融資の質の低下を、ひいてはデフォルトの増加を招くのでないかと危惧する声もあがっています。しかしながら、これはプライベート・クレジットの氷山の一角にすぎません。投資適格私募、成長融資、インフラデット、スペシャルティ・レンディング、資産担保融資を含め、異なるダイナミクスを持つその他多くのアセットクラスがあります。

私たちは、プライベート・クレジットを構成する一つのセグメントに対する昨今のメディアの否定的な報道は近視眼的ではないかと考えています。不変的特性が昨今の傾向と組み合わさって魅力的な投資機会を生み出していないか、一歩離れたところから冷静に見極める必要があります。

プライベートクレジットの4つの主な動き

私たちの見解では、プライベート・クレジットはより幅広い意味で4つの包括的テーマに支えられ、これらが多数のサブアセットクラスにおいて潜在的市場機会を生み出しています。 

  • 融資の銀行離れ — 多くのアセットクラスにおいて、伝統的な融資者が軒並み市場から撤退しています。この銀行離れは、世界金融危機(とその後のバーゼルIII、ドッド・フランク規制の導入)後に加速し、シリコンバレー銀行やその他地方銀行の経営破綻によって再び勢いづいています。これらの昨今の衝撃的出来事は再度の規制強化を招き、銀行側の経営コスト、資本コストを上昇させる可能性があります。その結果として生じた不確実性が市場に見られる資金調達ギャップへとつながり、ノンバンク金融機関がその穴埋めをするケースが増えています。例えば、投資適格私募市場は、これまでならプライベート市場を利用しなかったであろう投資適格借り手企業にとって今や解決策を見つける場です。同様に、商業用不動産プライベートクレジット市場における潜在的機会の掘り起こしが地方銀行の目下の課題と言えるでしょう。最後に、成長融資マネージャーはシリコンバレー銀行破綻後にベンチャー融資市場に生まれた空白地帯に入り込む機会を模索しています。プライベート市場全体として、銀行離れは専門知識を持つ経験豊富な投資家が資金調達ギャップを穴埋めする機会を生むきっかけになります。ミドルマーケットのダイレクトレンディングと比較して、多くの市場において取引に対する競争が概ね少ないことがその主な理由です。

その潜在的機会は驚くべき規模です。スペシャルティ・ファイナンスや商業用不動産などの資産担保融資市場における銀行の事業縮小の結果、プライベート・クレジットの市場規模が今後25兆ドル超に拡大し得る試算も示されています3

  • パブリック市場とプライベート市場の収束 — パブリック市場とプライベート市場の収束—プライベート・クレジット市場の急速な拡大がパブリック市場とプライベート市場の顕著な収束をもたらしました。プライベート市場はその進展とともに、従来、銀行やパブリック市場を利用していた企業に差別化したソリューションを提供できることを示しています。借り手はプライベート市場の方が交渉成立確度が高く、資金調達の選択肢も多く、融資者が限定され、必要に応じてより効率的な融資の再構築が可能と考えるかもしれません。プライベート・クレジットは、オーダーメードの取引条件と継続的な機会という特徴を武器にさまざまな流動性市場と真っ正面から競い合う力をつけています。例えば、レバレッジド・ローン市場では2000年代以降、銀行の撤退が続いていますが4、その後釜についたのがプライベートファンドです。現在では多額の資本をファンド取引に投入することができます。ベンチャー融資については、非公開企業が以前よりも長くプライベートに留まる傾向が見られ、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業のエグジットまでの平均年数は過去20年間で60%上昇しています5。これに対して、成長融資の資本の需要供給比率はこの10年強で最も高い2.2倍となっています6。これを支えているのがハイクオリティ企業に対するプライベートレンダーの資本提供能力であり、その結果、企業側は株価のリセットや大規模な希薄化を迫られる事態を回避できます。
  • 構造的高金利 — 高金利はプライベート・クレジット投資家にとって表裏一体です。一面では、追加的クレジットリスクを負うことなく(確定利付債)、または記録的な収益を達成しなくても(変動利付債)、比較的高い利回りを確保する機会が貸し手にあります。その一方で、高リスクアセットについて、金利の高さは借り手にとって長期的なクレジットストレスの源であり、質が劣化する可能性があります。特定のプライベート・クレジット・セクターにおけるこうしたリスクを考慮すると、投資家が詳細なクレジット分析能力と引受能力を備えていることが極めて重要です。プライベート・エクイティ市場のクロスオーバー・ファンドと同様、デフォルトによってプライベート・クレジットに潜んでいたマネジャーの存在が露呈することは十分想定されます。
  • 頑丈な参入障壁 — 資産がミドルマーケット融資にシフトするにつれ、他の市場分野の参入障壁が高まる可能性があります。投資適格私募市場を例に挙げると、エコシステム内で深い関係性を築いている投資家にとっては有利な取引へのアクセスが良くなると考えられますが、常に変化するこの市場でこうした関係性を構築するには数十年を要するでしょう。700億米ドル超のシンジケートローン市場に幅広くアクセスし、直接融資やクラブ取引からの発行増加を含む投資機会を拡大するためには、こうした関係性の構築が非常に重要と考えられます7。さらに、こうした分野は一般的に構成が複雑で、オーダーメードで交渉が行われ、人間関係が物を言う傾向があり、そのためには確かなクレジット引受実績とネットワークが必要不可欠です。私たちは、参入障壁が高いサブアセットクラスは、プライベート・クレジットの追い風の持続的な恩恵を受ける可能性が高いと考えています。

プライベートクレジットの今後の見通し

プライベート・クレジットは多様でダイナミックな市場です。アセットクラスの一部のセグメントは資本流入に伴い、競争環境が激化していますが、それ以外のサブアセットクラスは不変の特性と昨今の傾向が相まって、目の肥えた投資家にとっては好機が生まれています。

アセットオーナーが機会を探り当て、リスクを掘り下げるためには、業種、アセットタイプ、地域全般について深い知識と経験を持つパートナーを見つけることが極めて重要です。特に、熟練のクレジット分析能力、引受能力はもちろん、長年の関係から築かれた幅広い取引へのアクセスが今後ますます重要になると言えるでしょう。


1”Preqin Global Report: Private Credit 2024” | 2Ibid. | 3Oliver Wyman, “Private Credit’s Next Act,” 2024. | 4S&P Leveraged Commentary & Data, 2022. | 5PitchBook, 31 March 2024. | 6Ibid. | 7Wellington analysis of PPM and Bank of America USPP Market Snapshot data.

bannister-emily-6756

エミリー・バニスター

プライベート・クレジット、ディレクター
perenick elisabeth

エリザベス・ペレニック

ポートフォリオ・マネジメント・ヘッド、プライベート・プレイスメント
Emeka Onukwugha

エメカ・オヌクワガ

プライベート・プレイスメント・ヘッド