社会的配慮がポートフォリオを強化する3つの方法

2025-05-29
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過去10年間にわたり、しばしばESGという頭文字で分類されるサステナビリティ(持続可能性)への配慮は、投資課題の中で着実にその重要性を増してきています。歴史的に、投資家の関心は主に環境(E)とガバナンス(G)に向けられてきました。しかし、脱グローバル化、労使関係やサプライチェーン・マネジメントへの関心の高まり、人工知能(AI)、そして公正なネット・ゼロへの移行の必要性など、主要な動向はすべて、社会的(S)側面の財務的重要性が増していることを示しています。このような視点で企業を精査することにより、私たちは、企業文化やサプライチェーン・マネジメントなど、企業にとって長期的な成功にますます不可欠となっている要素を評価することができます。また、特定の状況下では、社会的テーマが追加の分散要因として機能することも確認できており、教育などの分野の企業とその歴史的なディフェンシブ性が一例として挙げられます。

私たちは2023年、5,500を超える上場企業・発行体と17,500回以上のミーティングを実施し、社会的なテーマを含む様々な議題について話し合いました。1そして、議論の成果は、運用チームが活用するリサーチの情報をより豊かなものにしています。また、私たち独自のESGスコアの採点や公正なネットゼロ・エネルギー転換、反現代奴隷制に関するリスクと機会の調査にも役立っています。さらに、2023年に追跡調査したエンゲージメントも、社会的なテーマの重要性の高まりを反映しています(図表1)。

図表1.ウエリントンのESGカテゴリー別エンゲージメント活動
カテゴリー別エンゲージメント

出所:ウエリントン・マネージメント。2023年12月31日時点。上記データはESGトピックが取り上げられた3,411件のミーティングを対象としています。多くのエンゲージメントにて複数のE、S、Gトピックを取り上げているため、カテゴリー別のエンゲージメントはあくまでも目安となります。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。上記はあくまで例示目的で示しています。

私たちはこのような背景から、社会的リスクと機会を、より大きなそして持続可能なリターンに結び付けるため、インパクト投資、スチュワードシップ投資、テーマ投資の3つのアプローチを策定しています。それぞれの観点は方向性が異なるものの、いずれもアクティブ運用とエンゲージメントに重点を置いています。

インパクト投資

インパクト投資のアプローチは、より高いリターンと測定可能なプラスの影響(インパクト)の両方を明確な目的とします。世界で最も差し迫った問題の多くは社会的側面と関係性が強く、私たちはそれらの解消に取り組むソリューションに投資することで、以下のような付加価値を提供できると考えています:

  • 先進国、新興国どちらにおいても、従来の投資方法では捕捉できないようなセクターや企業・発行体へのエクスポージャー
  • 分散投資によるポートフォリオ全体のより高い安定性
  • 教育、住居の確保、清潔な水の提供、金融サービスのアクセス、健康促進などの分野において測定可能なプラスの影響

インパクト関連の債券投資は、地方債から社債、政府機関債から社会政府債に至るまで、債券全域にわたって株式市場ではほとんど捉えられていない有望な分野をターゲットとすることができるため、分散投資を更に促進することができます。さらに債券投資は、目の前の環境や社会問題の大きさに比例した資本を投下できるという利点もあります。

事例:教育

教育と職業訓練は、社会的なインパクトをもたらす重要な分野です。対面授業を改善し、遠隔地からの教育を拡大するためのソリューションは、特に低所得層の人々にとって、広範囲かつ長期にわたるプラスの波及効果をもたらす可能性があります。教育の特定の分野は、歴史的にディフェンシブな性質を示してきたため、教育というテーマは重要な分散要因であると考えています。中でも私たちは以下のような魅力的な機会があると見ています:

  • 営利医療教育機関:同機関は、困難な状況に置かれている人々や十分な教育を受けられない学生のために、質の高い医療トレーニングや教育の提供を促進しています。医療セクターは労働力不足が続いているため、同機関は良好な立場を築いていると見ています。また、学生にとって何が最も重要か、雇用市場でどのようなスキルが求められているかを正しく把握するために、世界各地の大学とパートナーシップを結んでいることも私たちは高く評価しています。ポートフォリオ構築の観点からは、営利目的の教育機関は歴史的に不況環境においてディフェンシブな特性を示しているため、同機関は反循環的な利益を生む可能性があります。
  • 失業保険機関:同機関は、経済的支援や職業訓練プログラムを提供することによって、失業者の社会復帰を支援しています。この欧州機関の社会債券は、同機関が社会的セーフティネット(安全網)としての役割を果たし、求職者のための社会復帰プログラムを提供できるようにすることで、魅力的なリターンと測定可能な社会的インパクトの両方を生み出せると考えています。

スチュワードシップ投資

私たちは、長期的な価値を創造するためには、責任を持って自然資源、人的資源、財務資源を戦略的に管理することが不可欠な条件であると考えているため、スチュワードシップには常に強い社会的要素が含まれると見ています。全てのステークホルダー(利害関係者)のニーズを常に考え、人、地球、そして利益のためにそのバランスを図っている企業は、長期的に市場のリーダーシップを維持し、優れた収益性を実現できると考えます。スチュワードシップ投資は、長期的に銘柄を保有するという性質上、積極的なエンゲージメントが重要であり、社会的なテーマはこのようなエンゲージメントにおける議論の重要な議題となっています。

事例:サプライチェーンと責任ある調達

グローバル・サプライチェーンは、企業や投資家にとって盲点となることが多いものの、近年の途絶・混乱がきっかけとなった調達・在庫管理を最大限効率化しようとする動きは、意図しない脆弱性や風評リスクを生み出しています。そのため、私たちは、投資先企業がこれらのリスクに積極的に取り組み、より強靭で持続可能なサプライチェーンを構築していることを示す裏付けが重要であると考えています。事例として、以下の2社に対するアプローチをご紹介します:

  • 大手タイヤメーカー:同社とは、天然ゴムの調達リスクについて議論しました。同社は、複雑なゴムのバリューチェーンを辿るため、独自のモバイルアプリを開発しました。このアプリはステークホルダーの農法に関する情報を集約し、すでに42,000人以上のゴムノキ農家から、労働条件や児童労働などの問題に関する情報を収集しています。同社は、このアプリとデータを広く共有し、業界全体の改善を促進しています。
  • ファストファッションの小売業者:同社とは、現代奴隷制の懸念について議論しました。私たちは、同社が必要なリスク管理と監督を行っていることを確認しましたが、経営陣にはサプライチェーンの透明性を高め、より強く説明責任を求めるよう促しました。

テーマ投資

長期的な次世代のテーマも多くは社会的な色合いが濃いため、それらに焦点を当てることによっても社会的リスクと機会を捉えることができます。イノベーション(革新)、サステナビリティ(持続可能性)、インクルージョン(包摂)を中核のテーマとし、さまざまなチームの幅広いリサーチの視点を活用することで、構造的な社会の変化の中で勝者となり得る企業を見極め、魅力的なリスク・リターンが期待できる分散型ポートフォリオを構築することができると考えています。

事例:ヘルスケア分野におけるイノベーション

近年の科学、器具、技術の進歩は、より効果的且つ正確で、副作用の少ない治療法への道を開いています。私たちは、医療技術(メドテック)とバイオテクノロジー(バイオテック)の分野で特に有望な発展があると見ています。これらの分野での技術革新は、より質の高い診断や治療などを通じて医療や社会に大きな利益をもたらす可能性があります。しかし、その一方で、新たな倫理的、社会的な問題も生まれています。これらの問題に対する懸念が解消されれば、革新的な技術や治療法の市場は、テーマ投資家にとって大きな機会を創出するでしょう。私たちが特定している例には以下が含まれます:

  • 医療技術分野のメーカー:世界有数の医療技術プロバイダーである同社は、整形外科、神経技術、医療・手術機器など、さまざまな分野の製品を手掛けており、診断の正確性や手術の成功率を高め、高度な治療をより身近なものにすることによって、医療だけでなく社会全体に大きな利益をもたらしています。同社は、数々の革新的な技術と患者処置に対する旺盛な需要により、力強い成長を遂げています。
  • 自己免疫に特化したバイオテクノロジー・スペシャリスト:自己免疫疾患は、体内の健康な組織を攻撃する免疫システムの機能不全によって引き起こされ、現在、課題が増加している分野です。例えば、最近の研究によると、英国ではおよそ10人に1人が自己免疫疾患を患っていると推定されています。2また、自己免疫疾患は苦痛となるだけでなく、社会参加の能力を弱め、妨げになります。したがって、より効果的な治療法は、医療と社会両方にとって利益となる可能性があります。同社が現在開発しているソリューションは、まさにその一例で、抗体工学の専門性を活かし、大腸を侵す自己免疫疾患である潰瘍性大腸炎患者のための新たな治療法を探っています。

まとめ

私たちは、社会的リスクと機会に積極的に焦点を当てることにより、最も革新的な企業や発行体へのエクスポージャーから利益を獲得し、より強固で多様なポートフォリオを構築できると考えます。社会的投資の魅力的なリターンとその潜在的な持続性から利益を得るための3つのアプローチを紹介しましたが、これらは社会的配慮を取り入れることによって、中核となるポートフォリオを大幅に強化できることを示す具体的な事例だと考えます。

1Source: Wellington. For illustrative purposes only. For illustrative purposes only. Data represents meetings with public-market issuers as of 31 December 2023. “Issuers” refers to companies and sovereigns. For the Wellington Management group of companies. While all meetings inform our investment processes, ESG topics are not covered at every meeting. | 2Nathalie Conrad PhD et al, “Incidence, prevalence, and co-occurrence of autoimmune disorders over time and by age, sex, and socioeconomic status: a population-based cohort study of 22 million individuals in the UK”, The Lancet, 3 June 2023.

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ヨランダ・コーティンス

株式ポートフォリオ・マネジャー
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