2025年市場展望:プライベート・クレジット

2025年のプライベート・クレジット市場予測:5つの注目トレンド

2025-12-31
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※下記コメントは2024年12月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

私たちは、プライベート・クレジットの成長は2025年も続き、10年以上にわたるトレンドが継続すると予測しています。プライベート・クレジットの着実な拡大は、伝統的なクレジット投資を補完し、分散化を図る手段になり得るという認識が広がっていることを示唆しています。これまでの成長は主に、レバレッジド・クレジット市場など、与信基準の厳格化によって銀行が撤退した分野に集中してきました。しかし、今後は公開市場とプライベート(非公開)市場の接点にあるセクターにますます広がる可能性があり、オリジネーター銀行とのパートナーシップも増加すると考えられます。

現在、プライベート・クレジットの潜在市場は多様な資産クラスにわたり30兆米ドルを超えています(図表1)。特に注目すべきは、この市場の大部分が、多くのプライベート・クレジット・ポートフォリオに組み込まれている伝統的なレバレッジド・ローン以外の分野にあることです。これにより、プライベート・クレジットに関する視野が広がり、市場の短長期のトレンドを活用してお客様に一貫した価値を提供できる運用担当者にとって大きなチャンスとなるでしょう。

本稿では、2025年の5つの注目テーマを紹介します。

Private credit's addressable market

プライベート・クレジットの長期トレン

1. 公開市場とプライベート市場の接点

公開市場とプライベート市場の境界線が曖昧になりつつあり、このトレンドはより大きな投資機会を生み出す可能性があります。この収斂は、より統合されたソリューションを求める企業・発行体とアセット・アロケーターの両方から起こっています。

プライベート・クレジットの魅力は、その柔軟な構造にあります。プライベート・クレジットは、公開市場のボラティリティに左右されず、長期的な資金調達構造を調整する機会を借り手に提供します。この動向が続いている分野の一つは、ベンチャーキャピタルが支援する高成長企業の資金調達です。VC支援企業は、より長期間非公開にとどまることを選択しており、その資金調達ニーズに対応するための資本構造全体にまたがるソリューションを模索しています。実際、VC支援企業が上場するまでの平均期間は、1990年代の約3.5年から現在では5年以上に延びています1。こうした企業は、四半期ごとの決算に縛られず、長期目標に集中できる非公開企業としての超成長(ハイパーグロース)段階を好むようになっています。私たちは引き続き、VC支援企業が資金調達手段を拡大し、ベンチャー・デットなど、さほどストラクチャー化されていないソリューションを取り入れるとみています。

パブリック・クレジットとプライベート・クレジットの収斂が依然として顕著なもう一つの分野は、ブロードリー・シンジケート・ローン(BSL)とミドルマーケット・ダイレクトレンディング(MMDL)です。これらの市場は大きく重複しており、資本市場において重要な役割を果たしています。この2つの市場間でローン需要を巡る競争が起こっており、最も有利な条件を求めてディールフローが行き来しています。その結果、ローン担保証券(CLO)エクイティはプライベート・クレジットの成長から大きな恩恵を受ける可能性があります。例えば、CLOエクイティ投資家にとって、MMDLへの需要が続いていることはプラスでしょう。なぜなら、多くのCLO銘柄が額面でプライベート・クレジットに借り換えられていることで、市場に出回るディストレストクレジットの数が減少しているためです。

Expanding private company opportunity set

アロケーターの観点から見ると、投資家は公開市場へのエクスポージャーを分散させ、プライベート・クレジット市場の非流動性プレミアムや複雑性プレミアムを獲得しようとしています。これには、個人富裕層や個人投資家からの需要増大が含まれます。例えば、インターバル・ファンド(プライベート市場の非流動性に適合し、投資家に限定的な流動性を提供するクローズドエンド型投資信託)の資産は、過去10年間で年平均約40%のペースで増加しています2。こうした需要の高まりを受けて、運用会社はパブリック・クレジット市場とプライベート・クレジット市場の両方に幅広く資産配分するソリューションを設計しています。

2. 人工知能(AI)とプライベート・クレジット:データストレージ、不動産、インフラ

AIの普及に伴い、コンピューティング需要が増大し、データストレージの必要性が高まるとみられます。これは、エクイティと貸し手の両方の観点から、市場に直接的な影響を与える可能性があります。現在進行中のAIの進展を支えるため、さまざまな資本ソリューションへの需要が増加する見通しです。プライベート・デットは、新たなAI技術を開拓する革新的な成長企業への資金提供だけでなく、データセンターのインフラ整備、電力網の拡大、新たなエネルギー供給能力の構築など、多くのユースケースに資金を提供する重要な手段になると考えられます。この資本集約的な移行には、質の高い公益事業やテナントに加え、資産担保ローン、プロジェクト、不動産を引き受ける能力が求められます。そのため、AIテーマは、インフラ、不動産、ベンチャー融資/成長融資、投資適格債など、プライベート・クレジットの多様な分野の成長を加速させる可能性があります。

プライベート市場におけるAIの影響の詳細については、「2025年のベンチャーキャピタル市場予測」をご覧ください。

3. 貸出市場における銀行の役割の変化

規制強化により、銀行がバランスシートの再構築を余儀なくされ、クレジット市場ではディスインターミディエーション(銀行の金融仲介機能の低下)が進んでいます。しかし、クレジット市場における銀行の役割は依然として重要であり、その役割はここ数年で変化しており、今後も変化が予想されます。銀行は市場ベースの貸し手の主要なパートナーとして、プライベート・クレジットの成長に大きく貢献してきました。こうしたパートナーシップは、市場ベースの貸し手への融資、プライベート・クレジット商品の販売、特定の資産クラスにおけるオリジネーションやリスク管理の専門知識の提供などが含まれます。

私たちは、銀行が引き続きクレジット市場の中核を担い、プライベート・クレジットの継続的な成功と成長に重要な役割を果たすと考えています。

プライベート・クレジットの短期の循環的なトレンド

4. 高金利の長期化

現在の高金利環境は、フリーキャッシュフローを一段と制限することで、質の低いクレジットをさらに圧迫するでしょう。しかし、質の高い固定金利資産や、金利動向との相関が低いセクターに投資することで、高金利環境でも高い成果を上げる可能性があります。例えば、私募債のような投資適格セクターは、金利上昇の影響を受けにくい傾向にあり、主に固定金利証券で構成されているため、貸し手はクレジット・リスクを高めることなく融資期間にわたってより高い利回りを確保できます。さらに、ベンチャー融資や成長融資のように、スプレッドが歴史的に金利動向と連動していないプライベート・クレジット・セクターも、高金利環境で基準金利の上昇から恩恵を受ける可能性があります。

重要なのは、金利環境に関わらず、銘柄選択が依然としてカギを握ることです。綿密なクレジット・アンダーライティング(信用リスクを評価し、融資の可否を判断するプロセス)やストラクチャリングの強化によって、質の低いクレジットを回避し、この新たな環境で有利な立場に立つことができるでしょう。

5. 財務制限条項の重要性

プライベート・クレジット市場、特にミドルマーケット・ダイレクトレンディング分野の著しい成長を受けて、一部の市場参加者は現在の環境における強力な財務制限条項の重要性を指摘しています。投資適格未満のプライベート・クレジット市場でデフォルトが増加する初期兆候はあるものの、デフォルト率はまだ2.71%に過ぎず、プライベート・クレジット市場の他の部分でデフォルトが増加している証左はまだありません3

特にプライベート・クレジット市場の特定のセクターに関して適切な財務制限条項を設けることは、不安定な市場でも価値を高めることができます。例えば、固定金利債務では、借り手が将来借り換えを選択した場合でも、貸し手が現在の高い金利で融資するメリットを確保するのに役立つ「メークホール条項」のような、繰り上げ返済に対する保護条項を盛り込むことができます。変動金利債務を供与するプライベート・クレジット市場の一部では、デフォルト前に貸し手と借り手が融資条件を再交渉することで、貸し手のクレジット・ポジションを改善できるような財務制限条項を盛り込むことがより重要かもしれません。

プライベート・クレジットの2025年の展望

2025年に向けて、プライベート・クレジットは2024年の勢いがさらに加速すると考えられます。この資産クラスの成長に伴い、構造的および短期的なトレンドを背景に新たな成長分野が出現しています。こうした状況で、プライベート・クレジット市場がもたらす機会とリスクに対応するためには、投資機会、綿密なクレジット・アンダーライティング、強固なリソース、長期的な関係について包括的な視点を持つことが重要でしょう。

1PitchBook, data as of 31 December 2022. | 2Morningstar Direct, fund company filings. Data as of 31 May 2024. | 3Proskauer, Private Credit Default Index, 30 June 2024.

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エミリー・バニスター

プライベート・クレジット、ディレクター
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ソナリ・ウィルソン

米州オルタナティブ・ディレクター