トランプ氏勝利 ― マクロトレンドの加速は進むのか?

2027-11-06
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※下記は2024年11月6日(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

要旨

  • 二極化した米大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏が勝利を収めました。本稿執筆時点において、共和党が上院の過半数議席を獲得した一方、下院の勝敗はまだ確定していません。 
  • トランプ氏の勝利は、労働供給の低迷、貿易財の供給減少、財政状況の悪化など、すでに進行中のマクロ経済のトレンドを加速させる可能性があります。また、こうしたトレンドは近い将来のインフレとインフレのボラティリティ上昇につながるとみています。 
  • 債券利回りはすでに上昇し、インフレ圧力の上昇を見越して価格が下落しています。財政緩和とともに供給サイドの削減は、利回りとタームプレミアムを構造的に上昇させる要因となるでしょう。 
  • 現在のインフレ環境への米連邦準備理事会(FRB)の安心感は、直近の利下げとさらなる利下げの可能性を示唆していました。財政状況の悪化やインフレ圧力の高まりを受け、こうした自信が揺らぐ場合、FRBは再び方針を変更する必要があるかもしれません。 
  • 二極化は依然として進行中です。所得格差は二極化の主な原動力であると同時に、両党の構造的な政策決定の重要な要因となっています。格差の解消には何年もかかり、新政権が取り組まなければならない大きな課題となっています。

トランプ氏が非常に二極化した米国大統領選挙の勝者となりました。共和党は上院の過半数議席を獲得した一方、下院の結果は本稿執筆時点では拮抗しています。極めて接戦の中、トランプ氏が二度目の大統領に返り咲いたことは驚くべき結果です。今後、すべての開票結果が集計され、トランプ氏が政権を発足させ、優先事項を定めていく過程で、より多くのことが明確になるでしょう。目先の市場反応に留まらず、長期的に投資家の皆さまに大きな影響を与え得る、私が注目しているいくつかのテーマをご紹介します。

マクロトレンドとその影響の分析

トランプ氏の勝利により、労働供給の低迷、貿易財の供給減少、財政状況の悪化といった基本的なマクロトレンドが加速する可能性が高いと考えられます。それに伴い、近い将来のインフレ上昇と同時に、短期および中期的なインフレのボラティリティも上昇することが予想されます。これは、利回りとタームプレミアムの水準にとって極めて重要です。米国債利回りは米大統領選前からすでに大幅に上昇しており、過去数時間でさらに上昇を続け、今後もさらなる上昇の可能性があります。これは、10年物米国債の利回りが時間とともに5.5%〜6.0%の範囲に落ち着くとする私の中期的な構造分析と一致します。財政緩和に伴う供給サイドの削減は、利回りとタームプレミアムを構造的に上昇させる条件となります。共和党が下院の過半数議席を維持できなかった場合、民主党が減税と引き換えに歳出増加を認める可能性があることから、2025年から2026年にかけて財政緩和の可能性は依然として高いと考えています。 

これらのマクロ経済のトレンドに関して、さらに詳しくご説明します:

  • 労働供給 ― 米国は世界の多くの国と同様、人口動態の逆風に直面しており、将来の労働人口の成長のほとんどは移民に依存しています。 他の条件が同じであると仮定すると、人口動態の逆風はより持続的な労働力不足、より高いNAIRU(インフレ率上昇につながらない雇用率の水準)、インフレ率と成長率のトレードオフの悪化につながるとみています。 過去12カ月間、移民の急増は大幅な労働供給の増加をもたらしましたが、これはすでにピークを迎えた可能性が高く、今後12〜24カ月の間に労働力の問題は再び顕在化する可能性があります。両候補とも、より厳しい移民政策を提唱していましたが、特に強制送還計画を追求する場合、トランプ氏の提案はより制限的なものとなっています。
  • 貿易財の供給 ― 米国の総貿易量は2009年以降、構造的な減少傾向にあります。 トランプ氏の最初の任期は、関税政策を通じて貿易減少の動きを強めましたが、貿易制限はそれ以前からすでに拡大していました。現在、トランプ氏が提唱する貿易政策はさらに制限的なものです。私の調査では、全面的な関税措置は米国の総貿易量の成長率を2025年に0.5%~1.0%押し下げる可能性がある一方、インフレ率を1%~2%押し上げる可能性があります。 他の条件がすべて同じであると仮定すると、貿易財の供給が縮小すれば、価格は需要に対してより敏感になり、インフレのボラティリティ上昇の可能性が高まるとみています。
  • 財政政策 ― 私は両候補の下で米国の財政状況は悪化すると予測していましたが、現在の法律の下では今後10年間で債務水準が大幅に上昇する可能性が高く、140%まで上昇する可能性もあります。 米連邦政府の利払費が史上初めて国防費を上回ったにもかかわらず、政策当局がこうした債務水準について懸念を示している証拠は限定的です。
  • FRBの反応 ― FRBが最近利下げに踏み切ったのは、インフレ環境に安心感が増したからであり、足元のインフレ率をみる限り、現時点でこの確信は正当化されています。 しかし、この確信が揺らぐ場合、FRBは再び方針を転換する可能性が高く、まず利下げサイクルを中断し、必要であれば2025年後半にも利上げを実施する可能性があります。 ただし、こうした決定は、ホワイトハウスが金融政策の決定においてより大きな役割を果たすことを望む新政権の下で行われることになるでしょう。
  • 二極化 ― これは過去10年間、私がますます懸念を強めてきたリスクであり、依然として進行中です。 ある指標によれば、米国は南北戦争を含む歴史上のどの時点よりも二極化が進んでいます。 そして、所得格差は二極化の主な原動力であると同時に、両党の構造的な政策決定の重要な要因となっています。 格差の解消には何年もかかり、新政権が取り組まなければならない大きな課題となるでしょう。

全体として、こうした傾向は今後も継続すると考えていますが、トランプ氏の勝利によってそのペースが大幅に加速することになると考えられます。この選挙サイクルで注目すべき次の節目は、トランプ氏が誰を主要ポストに指名するか、そして政策の優先順位付けであると考えます。

以下動画(英語のみ)では、米国大統領選挙の結果を踏まえ、ストラテジストらがマクロ経済やマルチアセット投資、地政学への影響を議論し、考察します。選挙結果は市場や運用戦略にどのような影響を与えるのか?是非ご覧ください。

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グローバル・インベストメント兼マルチアセット・ストラテジスト
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