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ウェンディ・クロムウェル
- サステナブル・インベストメント・ヘッド
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下記コメントは2022年11月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
人道危機とエネルギー危機を引き起こした戦争から、消費者の家計を圧迫する高インフレ、長引くサプライチェーン(供給網)の混乱、気候変動の脅威に至るまで、2022年は試練の年でした。2023年はさらに逆風が予想される中、ウエリントンのサステナブル投資チームでは引き続き、投資収益の獲得につながる投資機会の発掘に注力していきます。
私たちは低炭素社会への移行を経済の大きな転換点と捉え、気候リサーチを進めています。世界有数の独立系科学研究機関「ウッドウェル気候研究センター」(以下、ウッドウェル)との気候変動の物理的リスクに関する共同調査に加えて、2022年初めには米国マサチューセッツ工科大学「地球規模の変化に対する科学と政策のジョイントプログラム」(以下、MITジョイントプログラム)と低炭素社会への移行に伴う経済・財務への影響について共同調査を開始しました。MITジョイントプログラムとの共同調査では、上場株式や社債だけでなくソブリン債も含め、気候変動の移行リスクの影響を評価する予定です。今後、株式や社債の評価に匹敵する精緻なデータや指標、枠組みを構築していく意向です。
世界的に脱炭素化が進んでいること(エネルギー危機により緊急性が再び高まっていること)を受け、私たちは調査およびエンゲージメント活動を強化し、企業が直面している移行リスクの定量的な評価と情報開示を促進すると共に、企業が低炭素経済への移行を乗り切るための対策を支援していきます。2023年は、化石燃料集約型産業との気候変動に関するエンゲージメントが引き続き主な焦点になる見通しです。
ウエリントンの気候リサーチ・チームは、先進国対新興国で、気候変動の物理的リスクと移行リスクが企業の信用力に及ぼす影響を分析していきます。例えば、新興国は気候変動の物理的リスク(猛暑、干ばつ、洪水など)に大きくさらされていますが、先進国では脱炭素政策が加速しており、財政支援も新興国と比べて豊富なことから、より大きな移行リスクに直面しています。
私たちは政策当局とのエンゲージメントも継続しています。気候リスクの情報開示の透明性は、市場参加者がより正確にリスクを分析し評価するのに役立つため、私たちは政策当局の取り組みを全般的に支持しています。2023年には、米国証券取引委員会(SEC)と国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が新たな気候関連開示基準を発表する見通しです。私たちは引き続き、企業が規制の変化に対応していくための一助となることを目指していきます。
気候変動の取り組みと関連して、私たちは生物多様性に関する調査と企業エンゲージメントを拡充しています。特に自然資本の保護と生物多様性の喪失を抑制するために、生物多様性危機の原因と影響、潜在的な解決策に焦点を当てています。これまで人間活動が生物多様性に最も大きな影響を及ぼしてきましたが、今後は気候変動がより重要な要因になると予想されます。異常気象の深刻化は世界の自然資本を脅かし、多くのセクターのバリューチェーンにとって重大かつ予測不可能なリスクになる可能性があります。
当社のサステナブル・インベストメント・チームは、ウッドウェルおよびMITジョイントプログラムと共に、生物多様性とその管理が資本市場に及ぼす影響を調査していきます。ウエリントンでは生物多様性ワーキング・グループを発足し、企業がこのテーマに取り組むための具体的な施策が得られるよう、調査およびエンゲージメント活動を進めています。
広範なデータは依然として限定的ではあるものの、土地利用の変化(主に伐採や農業のための森林破壊)に関する指標は入手可能となっています。今後より多くのデータが利用可能になるのに伴い、私たちは企業が生物多様性への影響をどのように考えているか、あるいは影響を緩和し改善するためにどのような取り組みを行っていくのか、対策を講じていない場合将来価値にどのような影響を及ぼすのかなど、一層理解を深めていくことができると考えます。
生物多様性は、私たちのあらゆるESGエンゲージメントに適したテーマです。歴史的に、環境破壊のコストは外部不経済とみなされてきました。人間は経済活動において、自然や生物多様性の価値=自然資本がもたらす利益を享受してきました。しかし、汚染や廃棄が自然資本に及ぼすリスクはあまり重視されてきませんでした。もはやそうした考えは通用しなくなるかもしれません。特に消費財、公益事業、建設など多くのセクターの企業は、粗付加価値(GVA)に占める自然への依存度が非常に高くなっています。他の多くのセクターでも、サプライチェーン全体に自然への「隠れた依存」があります。生態系サービスの劣化による物理的リスクや、生態系サービスに悪影響を与える企業活動の移行リスクなど、生物多様性の潜在的リスクへの対策について企業とのエンゲージメントを通じて働きかけていきます。
多くの市場参加者や規制当局がESGにおける社会(S)問題への関心を高めています。私たちは今後、現代奴隷制に関して取り組みを一層強化していきます。現代奴隷制の問題を考慮したポートフォリオでは、投資先企業の事業とサプライチェーン全体における現代奴隷制のリスク低減に向けた方針や対策の評価および推進を実施しています。強制労働、児童労働、借金による束縛、人身売買などへの理解を深め、それらを抑制するために現代奴隷制リスク管理プログラムを強化することは、国際労働機関や2011年OECD多国籍企業行動指針などの国際協定や方針で明確に打ち出されています。特に新興国投資において、現代奴隷制のリスクを回避することは、アルファ創出およびリスク管理の観点でも重要と言えます。
インパクト計測管理(IMM)は、インパクト投資における運用プロセスの中核であり、企業の総合的な影響、特に製品やサービスのインパクト目標への貢献度を評価する上で欠かせません。2023年にインパクト投資チームは、成果指標(KPI)と投資先企業によるインパクトの追跡を運用プロセスに組み込んだ運用戦略をサポートするインフラの拡充に注力します。同チームはデータの完全性とインフラに焦点を合て、特に保有銘柄の社会的課題へのインパクトに関する正確性と透明性を確保するための内部IMMプロセスの改善を目指します。
足元の市場環境とマクロ経済の中で、新興国市場は大きな課題に直面していますが、同時に技術革新と長期的な潜在成長を秘めています。2021年、ウエリントンのインパクト投資に「新興国インパクト運用戦略」が新たに加わりました。新興国の企業や同地域でサービスを提供する企業の多くは、革新的なビジネスモデルと現地のニーズを熟知した経営陣を擁しています。私たちは、社会的課題解決につながる事業やサービスを手掛けるインパクト企業がどのような影響をもたらしているかより理解を深めるために、インドや中国を含むアジア諸国、中南米、アフリカなど新興国への現地調査「グラスルーツ(草の根)リサーチ」を実施する予定です。
未上場株式市場でのサステナブル投資も実現に向けて進んでいます。ESGリサーチ・チームは、厳選された投資先の未上場企業と協力し、独自と第三者機関のデータや情報を組み合わせ、上場に向けたESGの取り組みの強化、ベンチマークに関する知見や分析の共有、ESGの取り組みを改善するための詳細なロードマップの共同策定などを手掛けています。気候変動に重点をおいたプライベート・エクイティの運用者は、ウッドウェルやMITの科学者、ウエリントンの気候リサーチ・チームと協働し、投資候補の未上場企業の技術革新などについてより掘り下げた分析を実施しています。
ウェンディ・クロムウェル