2023年市場展望

マクロ経済と金利:イージーマネーの終焉と投資レジームの移行

2023-11-30
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下記コメントは2022年11月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

過去25年にわたり金融市場を支えてきたマクロ経済環境が明らかに変化しており、投資家の資産価格と市場構造に対する考え方に重大な影響を及ぼす可能性があります。事実、このマクロ環境の変化は「投資レジーム(環境)の移行」に他ならず、今日まで長年にわたり有効であった投資の前提に疑問を投げかけ、場合によってはそれを覆すかもしれません。その兆候は、世界的なインフレと金利の動向にどこよりも明確に表れています。何十年にも及ぶ歴史的な低インフレと超金融緩和政策を特徴とする、いわゆる「イージーマネー」の時代は終わりを告げました。

新たな現実1:インフレの構造的上昇と不安定化

投資レジームの移行の根本的要因は世界規模の構造的インフレです。私たちは、インフレの復活について、市場や中央銀行がそれを「一過性」であるとの見方を示していた1年以上前から構造的であるとの確信を抱いていました。2021年に行った調査で、今後はインフレ率が高止まりし、予想以上に大きく変動する可能性があるとの結論に至りました。低位で安定的なインフレ率が長期間維持できた要因のすべてとは言わないまでも、その一部は多かれ少なかれ反転し始めています。すなわち、脱クロ―バル化やリージョナリゼーション(地域化)の流れに加え、脱炭素化などの新たに設定された政治目標により、地殻変動のような動きが起きています。特に、後者は従来よりも積極的な財政政策を必要とし、それは潜在成長率の上昇よりもインフレ率の上昇を招く可能性が高いと予想します。 

大まかに言ってしまえば、このマクロ環境は1995年以後よりも1995年以前のそれを思い起こさせます。過去25年間のマクロ経済の顕著な特徴は、何度か深刻なリセッションに陥ることはあっても、GDP成長率とインフレ率の変動が大幅に低下したことです(図表1)。1960年代半ばから1980年代後半までのようなGDPとインフレ率がより大きく変動する時代に回帰しつつあるとみています。当時の景気サイクルは今よりも頻繁に、かつ激しく振動していました。

図表1
1990年代以降のマクロ経済は何度かリセッションに見舞われたものの、その変動性は大きく低下

マクロ経済ボラティリティ(5年ローリングの標準偏差)

2023 macro and interest rate outlook fig1

出所:リフィニティブ・アイコン・データストリームなどのデータに基づき、ウエリントン・マネージメント作成。2022年6月30日時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

新たな現実2:金融引き締め策と景気変動の拡大

言うまでもなく、過去20年間にも、臨界点に達した市場の不均衡や過剰により金融システムの安定性が損なわれる場面が何度かありました。その際たるものが2008年の世界金融危機です。しかし、そのような危機も、米連邦準備理事会(FRB)を中心とする主要中央銀行が損害を食い止めるべく超金融緩和策を強化したことで一時的なものに終わりました。結果として、実質金利はかつてない水準にまで低下し、景気は回復し、「安定成長と低インフレの並存」の状態を比較的早期に取り戻しました。私たちの分析によれば、過去25年以上、世界の多くの国において、景気サイクルに占める「拡大期でありながらも低インフレ」である局面は平均で31カ月続きました。図表2は、1990年代以降の景気安定期への劇的な移行を可視化するために景気サイクルを局面ごとに色分けしたものです。

図表2
景気サイクルが急激に移行する時代への回帰か

景気サイクルの推移

2023 macro and interest rate outlook fig2

出所:リフィニティブ・アイコン・データストリームなどのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2022年6月30日時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

この景気サイクルの安定化のみで過去20年間の資産の収益性と市場構造の特徴を説明するには無理があるでしょう。ただ、景気の波が緩やかであったことは、テクノロジー株の市場支配を後押ししたことは確かです。景気変動が小さければ、高成長で「高キャッシュバーン(資金余力が乏しい)」のビジネスモデルにとって、資金調達リスクが低くなります。この状況はパッシブ運用戦略の急拡大を支えました。中央銀行がその政策を通じて景気変動を抑制すればするほど、資産クラス間や地域間の格差や投資機会は失われ、アクティブ運用のアウトパフォーマンスを困難にしました。そして、収益率上位の資産、特に米国資産に資金を集中させる動機付けとなりました。景気変動が小さくなったことで、時価総額上位銘柄への確信度が高まりました。

しかし今、世界的なインフレ率の高止まりと金融引き締め策がこの状況に激しい揺さぶりをかけています。私たちは最近、インフレ環境下での金融政策と景気サイクルについて、以下のように指摘しました。

「インフレが上昇する世界では、中央銀行が景気減速を示すシグナルすべてに機先を制して対策を打とうとすれば、たちまち『コスト』が発生します。より高いインフレ期待を金融システムに浸透させるリスクを冒すことになります。このリスクを回避しようとすれば、中央銀行にはもはや景気の下支え役としての安定性も信頼性もなくなります。この環境では、金融政策は変わりやすく、過剰な引き締めによる景気後退や景気回復のための過剰な緩和の可能性が高まります。中央銀行はボラティリティの源泉となるでしょう。そして、これはマクロ経済の安定性が低下することを意味します。景気サイクルにおいて、ある特定の局面がほとんどの期間を占めるということはもはやなくなるでしょう。むしろ、景気サイクルは小刻みに振動する可能性が高いとみています」

資産配分への影響:柱となる考え方

ここまで論じてきたレジームの移行は資産配分においてどのような意味を持つのでしょうか。マクロ環境の変化は初期段階にあるため、正解を得ようとするのは現実的ではありません。さらに、景気変動が大きくなるということは、資産配分の決定に際して戦略的な柔軟性がこれまでにも増して必要になることを意味します。つまり、各景気サイクルの各局面で答えが異なる可能性があるということです。従って、新たなレジーム下での資産配分について、本稿執筆時点(2022年11月)での私たちの基本的な考え方をご紹介いたします。柱となるのは以下の5つです。

  • ディスカウントレートの上昇と変動性の高まりは資産価値バリュエーションを変化させる:私たちが移行しつつある新たな世界では、ディスカウントレートは今よりも高くなり、かつ、大きく変動することになるでしょう。資本コストは高止まりするとみています。その結果、イールドカーブはこれまでよりもスティープ化し、クレジット・スプレッドが拡大し、株式バリュエーション、特に、将来の業績に適用されるディスカウントレートに対する感応度が最も高いグロース銘柄のバリュエーションは低下することになるでしょう。
  • 「クラスタリング(群れ)」は減少し、各資産クラス内でのばらつきが拡大する:潤沢な市場の流動性が、「すべての船を浮き上がらせる」ことはもはやなくなるでしょう。そして、脱グローバル化により企業のコストは構造的に上昇するとみています。そのため、勝者と敗者がより明確になるでしょう。素早く変化を見極め、それに順応し、コストを管理し、価格決定力を保持できるか否かによって、格差が拡大すると予想します。
  • 国別格差やデカップリング(分断)が拡大する:一部の国は自らが直面する経済その他の課題に対処するために、金融政策よりは財政政策への依存度を高めるでしょう。しかし、それは多分に政治主導の選択になるはずです。各国はそれぞれに、単に選挙サイクルのどの局面にあるのかだけでなく、様々な要因に応じて、異なる決定を下すでしょう。国ごとの微妙な違いが非常に重要になると考えます。
  • 債券と株式との負の相関はあてにできない:1960年代、70年代そして80年代がそうであったように、成長率とインフレ率が異なる方向に動く期間が長くなるでしょう。成長率とインフレ率のトレードオフ関係がより鮮明になることで、景気サイクルの長い期間を占める低成長もしくは高成長に対処する中央銀行の能力が制約されることになるとみています。そして、これは債券と株式の相関関係が不安定化することを意味し、債券のリターンはもはや株式投資の有効なヘッジとはならない可能性があります。
  • 機敏かつ柔軟である重要性が高まる:市場の流動性の低下とマクロ経済の変動性の上昇は、投資家にとって、より複雑で不安定な環境、言い換えれば、舵取りが難しい環境を生み出す可能性があります。それによって、投資ポジションの保有期間を短期化する必要性が生じ、機敏かつ柔軟であることの重要性(と恐らくはメリット)が高まるでしょう。

結論:世界的な地殻変動に備えるべき

過去20年間以上有効であったマクロ経済の力学を覆すであろう世界的な地殻変動が進行していることを示す証拠が増えています。資産配分の決定においては、適切な措置を講じて、ポートフォリオを新たな環境に適合させる必要があると考えます。

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ジョン・バトラー

マクロ・ストラテジスト
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アマー・レガンティ

債券ストラテジスト