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デビッド・チャン
- コモディティ・ポートフォリオ・マネジャー
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下記コメントは2022年11月(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
コモディティ市場では、マクロ経済およびミクロの要因、循環的および構造的な動向とのせめぎ合いが続いています。コモディティ市場では、マクロ経済が引き続き短期的な逆風となる一方、中長期的には構造的背景と主な循環的要因が過去20年間で特に良好な環境をもたらしています。在庫量の減少が先物カーブのバックワーデーション(逆ざや)の進行や年率ベースで魅力的なロールイールドを支えています。こうした状況は、過去に、景気後退期の下振れリスクを和らげるクッションのような役割を果たしてきました。中期で見ると、エネルギーと金属への過去10年間の構造的な過小投資が引き続き新規生産の足かせとなり、生産能力の余剰が限定的であることを浮き彫りにしています。コモディティは2010年代の豊富な状態から構造的に不足状態に移行しています。今後世界の経済成長を圧迫し、インフレ率を一層上昇させ、食品とエネルギーの安全保障の懸念につながる可能性があります。
2023年の原油価格の先行き見通しについては様々な可能性が考えられ、エネルギー市場の弱気と強気両シナリオを示しています。弱気シナリオでは、主に世界的な経済成長の鈍化(景気後退の可能性)に加えて、金利の持続的な上昇が懸念されます。強気シナリオでは、引き続き供給面において石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の主要産油国で構成するOPECプラスによる減産発表、米国のシェール生産企業の財務規律の維持(投資の抑制)、米国の戦略備蓄からの原油とガスの放出終了などが含まれます。
私たちはこの2つのシナリオを十分に検討した結果、原油価格は次の要因から上昇する可能性が高いと考えます。OPECプラスが大幅減産に転じれば、少なくとも今後数四半期にわたって供給不足が発生するでしょう。OPEC加盟国政府は2022年5月以降、戦略備蓄を放出し、価格を押し下げてきました。しかし、こうした放出は終わりつつあります。ロシア産原油・ガス輸出に対する制裁とウクライナ紛争長期化の可能性はエネルギー価格の上振れリスクであるにも関わらず、市場はこれを十分に織り込んでいないとみられます。また、中国がゼロコロナ政策を緩和するのに伴い、同国の経済成長は2023年にある程度正常化すると予想されます。つまり、供給が極めて逼迫している環境下で、世界第2位の石油消費国である中国の需要が再開するということになります。
米国のシェール生産企業は財務規律を維持し、原油価格の上昇が続いている状況下でも増産を抑えています。重要なのは、米国の探鉱・開発・生産(E&P)の上場企業がシェール採掘の拡大を望んだとしても、労働市場の逼迫、高品質圧力ポンプの入手困難、米国西部の水不足などに起因したサプライチェーンやバリューチェーンの問題が、短期的な増産の加速を妨げになっていることです。加えて、環境・社会・ガバナンス(ESG)への関心の高まりがE&Pを含む多くの企業に対する圧力となり、供給拡大よりも株主還元を求めています。
欧州では、特にノルドストリーム経由での供給減少により、ロシアからの天然ガス輸入が大幅に減少し、エネルギー不安が続いています。今冬、寒さが厳しくなければ欧州の足元の状況は対処可能と考えられますが、供給問題を鑑みると、天然ガス在庫の補充は難しく、来冬の見通しは不透明です。
米国では短期的な増産と主要な液化天然ガス(LNG)輸出拠点における障害から在庫が増加し、天然ガス価格は下押し圧力にさらされています。こうした状況は供給の逼迫を緩和し、ファンダメンタルズと価格の短期的な見通しをよりバランスの取れたものにしています。LNG輸出能力が拡大しない限り、米国の天然ガス価格の2024年の見通しはある程度抑制された水準にとどまると考えます。
さらに、比較的新しい動向として、世界の脱炭素政策にも注視しています。各国のネットゼロ公約や化石燃料から再生可能エネルギーにシフトするための取り組みは、従来型エネルギー生産の資本コストを高め、暗黙の炭素価格導入により原油など多くのコモディティの生産意欲を低下させています。これは供給の方が需要よりも早く影響を受けているため、中期的にエネルギー不足に陥るリスクになるとみられます。
全般的に従来型エネルギーは少なくとも2023年を通じて、場合によっては2020年代後半に入っても魅力的な投資収益を獲得する機会を提供していくと予想されます。
産業用金属の価格は引き続き、利上げによる世界的な経済成長の鈍化を巡る市場の懸念を反映しています。また、中国の金属需要の軟化も懸念材料です。中国ではゼロコロナ政策が消費者信頼感を冷え込ませ、同時に不動産市場の課題も抱えています。しかし、景気後退懸念が金属の足元のスポット価格の重荷となる中、ファンダメンタルズの観点から見ると在庫の減少、新規生産への限定的な投資、欧州における供給混乱のリスクは魅力的な材料と考えます。また、脱炭素化はエネルギー市場にとって長期的な逆風となりますが、金属市場にとっては追い風となるでしょう。金属の中長期的な見通しは特に魅力的であると、私たちは考えます。エネルギー転換は銅、ニッケル、リチウムなどの金属に対する追加的な需要の原動力になります。足元の過小投資を勘案すると、これらのコモディティでは長期的に堅調な投資環境が続くと予想されます。
足元の景気後退懸念は、銀とプラチナの価格の重荷になっています。銀とプラチナはいずれも工業・製造業用に使用されるため、金に比べてマクロ要因を背景とした景気低迷の影響を受けやすい傾向にあります。インフレや米ドル安に対するヘッジ機能や安全な投資避難先(セーフ・ヘイブン)としての金は、2022年に地政学的リスクが高まった中、実質金利と米ドルの上昇に打ち勝つことができませんでした。米連邦準備理事会(FRB)による利上げのペースは緩やかなものになると予想されますが、利上げに踏み切ることを考慮すると、金は逆風に直面する可能性が高いとみられます。
農産物の価格は、不安定な地政学的環境と気候変動の深刻化の影響を受けて上昇しています。トウモロコシの主要産地であるウクライナ産の穀物輸出の合意の履行と停止が繰り返される中、2022年の栽培期間の終盤にかけて北米では猛暑に見舞われました。さらに、欧州各地では干ばつが相次いだことで、トウモロコシと小麦の価格を押し上げました。こうした状況は2023年に入っても継続するとみられます。2022年初めの時点で穀物の供給量は10年ぶりの低水準に落ち込み、ロールイールドは過去数年間と比較して高水準にあります。主にウクライナの主要な輸出ルートである黒海で供給が混乱する恐れがあったために、穀物在庫の落ち込みが続いています。2023年に関しても、さらなる価格上昇の可能性や高水準のロールイールドが農産物の価格を押し上げていくと予想されます。
2023年はコモディティの供給が極めて逼迫する中、マクロ経済、地政学的環境、気候変動の影響が継続、あるいは一層高まるとみられます。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、金利とインフレ率が上昇する中での景気後退懸念の高まり、中国の景気減速を含む、コモディティの需給のファンダメンタルズに影響を及ぼし得るマクロ経済リスクを注視する必要があるでしょう。2023年はコモディティ市場にとって課題がない年になるとは言い難いですが、私たちはこれらのリスクが主に循環的なものであり、コモディティは依然として構造的に魅力的な投資先であると考えます。
デビッド・チャン
ジョイ・ペリー