2022年市場展望:サステナビリティ

気候変動に対する企業のレジリエンス強化

2022-12-31
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下記コメントは2021年11月末(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。 


英国グラスゴーでの第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に先立ち開催された講演で、イエレン米財務長官は主要国の財務大臣、政策当局、投資家に向けて「脱炭素に向けたエネルギー転換は、人類史上最も劇的、かつ予測可能な経済の構造変化」と述べました。私たちは投資家として、また受託者責任として第一の使命である卓越した運用成果の実現を果たしていくために、この変革を理解しなければならないと考えています。

ウエリントンは気候科学と資本市場の架け橋となることをめざし、2018年に世界有数の気候科学機関「ウッドウェル気候研究センター」(以下、ウッドウェル)と提携しました。提携当時も現在も私たちの目的は気候のデータと知見を運用プロセスに組み込み、運用成果の向上につなげることです。それは気候関連への幅広い投資機会と投資ソリューションを提供するだけでなく、気候変動に関する知識を運用プラットフォーム全体に取り込んでいくということです。

主な知見

ウッドウェルとの継続的な共同調査から得た主な知見は以下の通りです。

  • 猛暑、干ばつ、洪水、森林火災、ハリケーン、水不足、海面上昇などの気候変動による物理的リスクの影響が、低炭素に向けた歴史的な経済転換を促進している。
  • 資本市場は気候変動リスクを十分に織り込んでいないため、市場の非効率性と幅広い潜在的リスクにつながっている。
  • 気候変動の物理的リスクに対する社会の認識と企業のレジリエンス(耐性・回復力)は低い。
  • 持続可能な経済を実現するためには社会が気候変動に適応し、その影響を緩和するためのソリューションが不可欠である。

これらの知見は、気候変動に対する私たちの運用アプローチに影響を与えています。ウエリントンは2020年に企業が気候変動の物理的リスクを特定、分析、情報開示する際の指針となる枠組み「気候変動の物理的リスク(P-ROCC)」を発表しました。また、2021年に改訂版「P-ROCC2.0」を発表し、経営陣が企業の位置データを開示すべき理由と開示方法について説明。これらは私たちが企業の物理的リスクをより適切に評価し、事業のレジリエンス強化に向けた議論をする上で役立っています。

さらに 、米国証券取引委員会(SEC)による米国上場企業の気候変動対策の情報開示に関する意見(パブリックコメント)募集を受け、私たちは企業の透明性の欠如が市場の非効率性につながっている点を強調し、温室効果ガス(GHG)排出量を算定・報告するための国際基準「スコープ1、2、3」と、企業の施設などの位置データの報告を義務付け、標準化する必要性を表明しました。 SECは2022年の早い時期に規則案を発表すると予想されます。

こうした活動を通じ、社会が気候変動の物理的リスクについて理解を促進し、資本市場が適切にリスクを織り込んでいくことを、私たちはめざしています。

気候変動の影響への緩和策と適応策

世界では地球温暖化を食い止めるために温暖化ガス排出量削減に向けた取り組みを支援する政策の策定が進んでいます。気候変動の影響への緩和策は、長期的な悪影響を抑えるのに役立つでしょう。ただし、温暖化ガスの大半は排出された後も長い年月、大気中に蓄積され、それらの温暖化効果は数十年以上にわたって続くため、温暖化のリスクは逃れられない事実です。そのため、気候変動を前提にした環境への適応策も重要です。物理的リスクを理解し、その対応策をとっている企業は、資本コストを抑え、バリュエーションを押し上げることが期待できます。気候変動の影響への緩和や適応のソリューションを手掛ける企業や発行体は、需要増加と市場規模の拡大も見込めます。一方、レジリエンスが低い企業は今後、苦しい状況に追い込まれる可能性があります。

私たちは、社会がより一層企業や政策当局に行動を求めていくことが、低炭素経済への移行を加速させると考えます。 ウエリントンは「ネットゼロ・アセットマネジャーズ・イニシアチブ(NZAMI)」の設立メンバーとして、投資家のお客様の温暖化ガス排出量実質ゼロの実現に向けた取り組みを支援していきます。 また、同イニシアチブへの参加を通じ、実質ゼロの実現に向けた目標設定や計測に関する業界のベストプラクティスを推進していきます。

排出量に基づく有価証券の売買は、報告書上ではポートフォリオのカーボンフットプリントを削減できても、必ずしも投資家のお客様の気候変動リスクを抑制することにはつながらないと、私たちは考えます。投資先企業に信頼性が高い達成可能な温暖化ガス排出量削減計画の策定を働きかけることこそ、実際の排出量削減に影響をもたらすことができると言えます。さらに、投資先企業に科学的根拠に基づく温暖化ガス排出量削減目標の設定を促すことは、ボトムアップによるポートフォリオの脱炭素の推進につながると共に、長期的に気候変動リスクから資産を効果的に守ることが期待できると考えます。

2022年の取り組み

私たちが考える気候変動の影響を考慮した資産運用のポイントは次のとおりです。

気候変動への投資について知る

  • 運用の外部委託先が気候変動による物理的リスクをどのように考慮し投資先企業とのエンゲージメントを行っているのか、どのようなデータを使用しているのか確認する
  • 自社で運用している場合は、投資先企業とのエンゲージメントで情報開示する際の指針となる枠組み「気候変動の物理的リスク(P-ROCC)」、または独自の気候変動フレームワークの利用を検討する

当局との意見交換を行う

  • 規制当局に対して、企業の温暖化ガス排出量や施設の位置データの開示を要請する
  • 各国の気候変動対策との整合性を図るよう、規制当局に働きかける

気候変動を考慮したポートフォリオを構築する

  • 株式、債券、不動産、オルタナティブ投資など、幅広い資産クラスを対象に検討する
  • 気候変動対策に関連する企業や活動に投資資金を振り分けることを検討する
  • 温暖化ガス排出量実質ゼロの目標を設定し、運用委託機関と協力して達成をめざす

私たちは2022年に、気候変動対策への投資および気候変動を巡る投資先との企業エンゲージメントを一層強化していきます。また、ウッドウェルとの共同調査を拡充すると共に、アクティブ運用会社として市場機能の強化をめざしつつ、気候変動リスクを低減するための様々な方法について投資先企業、投資家のお客様、規制当局、業界団体との対話を図っていきます。「早く行きたければ一人で行け。遠くまで行きたければみんなで行け」ということわざの通り、多くの知見を共有することは、持続可能な低炭素社会の実現に向けて気候変動に対する行動を起こすきっかけになると考えます。

ウエリントンの温暖化ガス排出量実質ゼロに向けた取り組みの詳細については、こちらのページをご覧ください。

 

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ウェンディ・クロムウェル

サステナブル・インベストメント・ヘッド