-
ジョン・バトラー
- マクロ・ストラテジスト
Skip to main content
- 会社情報
- INSIGHTS コンテンツ
- 運用ソリューション
下記コメントは2021年11月末(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。
世界のインフレ率の急上昇と経済成長の鈍化を受けて、今後数カ月の間にスタグフレーション(景気停滞とインフレの同時進行)の懸念が高まるとみられます。世界経済は当初、高インフレと成長停滞のシナリオに向かっているように感じられるかもしれませんが、インフレが継続する中で2022年を通じて景気回復のペースは鈍化しながらも続くと予想されます。
2022年に向けて私たちは、1970年代の大半を通じて世界経済を苦しめた高インフレと低成長の組み合わせであるスタグフレーションの再来を危惧すべきでしょうか、それとも物価の急騰や景気回復の鈍化は一時的なものなのでしょうか。エネルギー価格の高騰、供給のボトルネック、労働力不足の影響が顕在化するにつれ、この議論は今後5~6カ月の間に激化すると考えられます。ウエリントン・グローバル・サイクル・インデックス1 の推移(図表1)から明らかなように、世界の景気回復はすでに鈍化していることは間違いありません。このインデックスは下降し始めており、今後3~6カ月でさらに低下し、青い点で示した水準に達すると予想されます。一方、エネルギー価格の上昇(北半球が厳冬になれば加速する可能性)や持続的な供給制約を背景に、MSCIワールド・プライス・インデックスで測定した世界のインフレ率は高止まりする見通しです。エネルギー価格の高騰は、信頼感を損ない、実質所得を圧迫するため、経済成長にとってもマイナス要因となります。
1 ウエリントン・グローバル・サイクル・インデックス:世界の経済活動のトレンドを定量化したウエリントン独自のインデックス。構成要素:鉱工業信頼感指数、消費者信頼感指数、設備稼働率、失業率、グローバル・イールド・カーブ、政治リスク、企業の合併・買収活動。これら7つのマクロ指標の将来予測と世界景気の方向性についての仮定を組み合わせています。仮定は過去の実績と将来結果の予測に基づき、従って、この分析には多くの限界があります。実際の結果は、仮定に反映された将来予測と大きく異なる場合があります。
図表1
ウエリントン・グローバル・サイクル・インデックスは今後3~6カ月で下降する見込み
出所:Datastreamのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2021年9月時点。期間:1988年~2022年(予測)。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。
重要なのは、変動の大きい食品とエネルギーを除いたインフレ指標であるコア・インフレ率が先進国と新興国の両方で大幅に上昇していることです。図表2は、先進国のコア・インフレ率が過去10~20年の低レンジを抜けたことを示しています。また、現在のインフレ率は過去10年と比べて変動が大きいように見えます。世界金融危機後、先進国全体のコア・インフレ率の平均は、国内総生産(GDP)が低調だったにもかかわらず2007年以前の10年間よりもわずかに0.15%低下しただけでしたが、世界金融危機後の景気回復が長続きしたことを反映して変動幅ははるかに小さくなりました。現在の世界の消費者物価指数の急上昇は、主にサプライチェーンの混乱に関連しているため、一時的なものである可能性が高いと言えます。しかし、グローバル化、人口動態、賃金やエネルギーコストに対する価格感応度の低下など、過去30年にわたってインフレ率を抑制してきたいくつかの主な要因が反転していることから、構造的により高いインフレ率への移行も起こりつつあると考えています。つまり、インフレ率は再び景気循環要因に敏感に反応するようになり、ひいては変動が大きくなる可能性があります。
図表2
先進国のコア消費者物価指数(CPI)は変動が大きく上昇傾向
出所:Datastreamのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2021年9月15日時点。期間:2001年~2021年。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません
しかし、これらのネガティブなニュースの先を見据えると、先進国全体で失業率が着実に低下しており、失業率は経済成長の回復に伴い2022年も引き続き低下する可能性が高いでしょう。
実際、私たちの推測では、2022年にはほとんどの先進国がGDP成長率と雇用の両面で新型コロナウイルス禍以前のトレンド水準に戻り、コア・インフレ率は目標と同じかそれを上回る見通しです。供給は逼迫しているものの、需要、特に労働需要は堅調を維持すると予想されます。また現在、投資家は利上げに注目していますが、現実的には、中央銀行はマイナスの供給ショックの中でなおバランスシートを拡大しており、政府は財政政策をさらに拡大する方法を議論しています。それでも、前述した理由から、高水準で変動の大きいインフレ率はより恒久化する可能性があり、継続的な労働需要が賃金伸び率の上昇につながればなおさらその可能性が高まると考えます。
このようにインフレ率が高水準で変動の大きい状態が続けば、中央銀行は新たな景気後退の脅威に対抗するために異例の政策手段を講じることが難しくなるでしょう。世界金融危機以降続いてきたパラダイム、つまり、経済成長の鈍化は中央銀行に流動性供給を迫り、それが資本市場を落ち着かせるという意味で、逆に市場にとって好材料であったという状況が実質的に終わりを迎える可能性があります。実際、今後6カ月の間に経済成長が鈍化すると考えられる一方、米連邦準備理事会(FRB)や他の中央銀行によるテーパリング(量的金融緩和縮小)に伴い、流動性注入は終了する可能性が高いと考えられます。市場はこうしたより景気サイクルに敏感な環境に適応しなければなりませんが、多くは中央銀行が継続するインフレにどのように対応するかに左右されるでしょう。中央銀行が時期尚早かつ過大な引き締めを実施すれば、消費者の購買力が圧迫され、景気サイクルが反転する可能性があります。そうなれば、中央銀行は再び介入を余儀なくされ、マイナス金利の可能性が高まるものの、これは私たちの基本シナリオではありません。
今後6カ月間は不安定な成長局面が予想されますが、継続的な金融・財政支援を支えに、世界経済はパンデミックのショックからの世界経済の回復は続くと予想します。時には、世界経済がスタグフレーションに向かっているように感じられるかもしれませんが、私たちの経済見通しに対する主なリスクはスタグフレーションではなく、中央銀行の時期尚早の引き締め、持続的な供給制約、中国の景気減速の深刻化などによって引き起こされる景気後退の可能性です。これらのリスクは高まっているものの、家計がパンデミック時に蓄えた貯蓄を消費に振り向け、企業が投資を実行し、政府の政策、特に財政政策が引き続き景気支援的である中、私たちは2022年も経済成長の回復は続くという基本的な見方を維持しています。
ジョン・バトラー