2022年市場展望:インフラ

電力会社に注目する3つの理由

2022-12-31
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下記コメントは2021年11月末(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

2022年が近づくにつれて、電力インフラがエネルギー移行の促進に不可欠であり、インフラ株ユニバース内で最も魅力的なセクターの一つであるとの見方を強めています。本稿では、電力事業が今後数年間有望であると考える3つの理由と市場が見誤っていることをご説明いたします。また、サステナビリティ、規制、インフレ、金利上昇など、2022年の注目点についても見解を述べさせていただきます。

電力網と再生可能エネルギーへの投資が加速

インフラ事業は本質的に資本集約型事業です。従って、他の条件がすべて同じであれば、将来に向けた設備投資を拡大すればするほど、成長可能性もそれだけ高まることになります。国際エネルギー機関(IEA)は今後20年間に電力網と再生可能エネルギーに必要な投資をそれぞれ5,170億米ドルと5,850億米ドルと見積もっています(図表1)。この投資拡大傾向は循環的ではなく長期的なもので、結果として、今後数十年間は電力会社の増益率が高まると予想しています。

図表1
大幅増が予想される電力網と再生可能エネルギーへの投資

世界の年間投資額(億米ドル)

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出所:World Energy Outlook 2021、IEA Announced Pledges Scenarioのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。上記はあくまで例示目的で示しています。

市場の誤解:直観に反して、電力源の脱炭素化の過程にある公益企業は既に脱炭素化を終えた企業よりも収益成長の可能性が高いと考えられます。グリーン化率100%を達成した企業がその比率をそれ以上引き上げることはできないのに対し、グリーン化率がわずか50%の企業は事業構成の一層の脱炭素化により成長の可能性を高められるからです。従って、企業の現時点のクリーン・エネルギー事業のみならず、クリーン・エネルギーへの資本配分にも目を向けるべきだと考えます。

政策・規制上の支援はかつてないほど強力

近年、政策・規制当局が電力インフラ拡充とエネルギー移行を後押しする動きが世界中で認められます。

  • 米国:2020年12月に太陽光や風力発電の税控除措置の延長が決定されたほか、バイデン大統領が推進する1兆2,000億米ドル規模のインフラ投資法案に基づき、低炭素社会の実現のために多額の資金が投入される計画です。さらに、現在法案成立をめざす「ビルド・バック・ベター(より良き復興)」と名づけられた政策の枠組みでは、クリーン・エネルギーへの支援が更に強化されます。電力会社の電源クリーン化に対する助成金交付はないと予想されるものの、電気自動車(EV)購入者への補助金やエネルギー移行を進める企業への減税などの措置により、消費者はこの政策から直接的・間接的恩恵を受けるものとみられます。
  • 欧州:欧州連合(EU)の欧州グリーンディール(EUの執行機関である欧州委員会が2019年12月に発表した気候変動対策)は2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量と吸収量が同じになるカーボンニュートラル(温暖化ガス排出量実質ゼロ)の実現を目標としています。2019年終盤には、EU各国が個別に脱炭素化を主眼とするエネルギーおよび気候計画を提出しました。
  • 中国:2020年9月に、習近平国家主席は2060年までのカーボンニュートラルの実現を表明しました。これは、中国が世界最大の二酸化炭素排出国であることを考えると歴史的なことです。
  • インド:2021年11月に開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)において、インドのモディ首相は2030年までにインドの電力需要の50%を再生可能エネルギーで賄い、2070年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする目標を表明しました。
  • 日本:2020年10月に、菅義偉前首相は2050年までのカーボンニュートラル実現をめざすと宣言しました。

市場の誤解:規制当局からの強力な支援は有益ですが、エネルギー移行は一部で意図せざる結果をもたらす可能性もあります。具体的に言うと、「環境(E)」を重視するあまり、「社会(S)」にマイナスの影響をもたらすかもしれないということです。実際、欧州では現在、天然ガスや炭素価格の急騰により、家計の電力料金負担が過去最高に達しています。

  • 天然ガス価格の急騰の主因は供給面の制約です。そして、その一因は化石燃料生産を削減に向かわせる市場の動きです。気候変動リスクを要因に、炭素強度の高い公益企業や伝統的な化石燃料企業への投資が手控えられる傾向がみられます。結果として、こうした企業の資本コストは上昇し、化石燃料エネルギー設備への投資や開発プロジェクトが減少しています。
  • 炭素価格の大幅な上昇はEUが脱炭素化の取り組みを後押しする措置として企業に許可される二酸化炭素排出枠を徐々に削減しているためです。  

これは「環境(E)」を支援する措置が機能している証拠ですが、過去最高の電力料金は、特に、その逆進性(電力料金が上昇すると所得の少ない人ほど負担が大きくなること)を考慮すると、「社会(S)」という観点では大きな問題です。この例は、規制当局による介入は家計の電力料金負担の増加という負の影響をもたらし得るため、「社会(S)」の要因にも注意を払うべきであることを示しています。このリスクを低減するため、「環境(E)」の特性は、相対コストが低い状況、つまり、「社会(S)」へのマイナスの影響を最小限に留めながら達成できるのかを見極める必要があります。

電力会社の相対バリュエーションはここ15年で最低水準

世界の電力会社の株式は、2021年10月末時点では、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに対する相対PER(株価収益率)が0.92倍と、15年ぶりの低い水準で取引されています(図表2)。設備投資の拡大が見込まれること、政府の支援的政策、長期的に安定的なリターン創出の可能性を考慮すると、このバリュエーションは極めて魅力的です。

図表2
歴史的な割安水準にある電力会社の株価
MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックスに対するMSCI オール・カントリー・ワールド電力株インデックスの相対PER

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2年先予想株価収益率(PER)を示しています。出所:ファクトセットのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2021年10月31日時点。※上記は過去の実績および将来の予測であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。上記はあくまで例示目的で示しています。

市場の誤解:電力セクターの相対バリュエーションが低いことの理由として最もよく挙げられるのは、インフレリスク、金利上昇リスク、そして、景気敏感度の低さです。これらリスクを軽視すべきではありませんが、市場が見落としている以下の事実にも目を向けるべきです。すなわち、1. 一部の公益事業はインフレ上昇時に料金引き上げが容認されるインフレ連動型の規制事業であること、2. 多くの公益事業者は金利上昇コストの多くを消費者に転嫁できること、3. 何十年にも亘ると見込まれる持続的な成長は足元の景気回復を受けた好業績よりも強力かつ耐久性の高いものであることです。

これらの理由から、2022年に向けて、電力セクターはインフラ株ユニバースの中で最も魅力的な分野であるとの見方を維持しています。

インフラ株投資におけるESG要因の検討

2022年を目前に控えた今、私たちは、安定性、成長性、価値創造というインフラ事業の良質のファンダメンタルズがプラスのESG要因との相関性が高いことを再認識しています。

  • インフラは安定的で予測可能な事業:私たちは、コモディティとの連動性や景気敏感度の高い企業、将来的に規制面での支援が得られにくいであろう企業、今後20年間で必要とされるか否かが不明の企業への投資を手控えています。エネルギー移行関連のインフラ企業(電力会社や再生可能エネルギー開発業者など)は古い時代のインフラ(石油・ガス業界のミッドストリーム企業など)よりも予測可能性がはるかに高いと考えます。
  • 成長を続けるインフラ:インフラ事業の将来の成長は国の政策に大きく依存します。世界のインフラ政策を考慮すると、脱炭素化という長期トレンドに投資を行う企業は古い時代のインフラに投資を行う企業に比べてはるかに高い成長を遂げると予想されます。
  • 資本コストを超える累積リターン:エネルギーの移行に適応するインフラ企業は資本コストの低下(負債コストや株式リスクプレミアムの低下など)の恩恵を受けるでしょう。これにより、累積リターンが資本コストを超える可能性、つまりは、創出価値増大の可能性が高まることになります。

ただし、場合によっては、消費者が負担するコストを押し上げるなど、環境へのプラスの影響が社会の利益に反することもあるため、ESG要因の相互作用にも留意する必要があるでしょう。

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ティム・キャサレット

グローバル産業アナリスト