2022年市場展望:ヘルスケア

イノベーションと投資機会

2022-12-31
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下記コメントは2021年11月末(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。

2021年も終盤に差し掛かり、世界は新型コロナウイルス感染症拡大からの回復に向かっています。ヘルスケアセクターは新型コロナウイルス禍で、好調に推移しました。ただし、消費者向けや情報技術などを中心とするセクターが経済活動の再開からより大きな恩恵を受けているため、市場全体で見ると出遅れ感がみられます。新型コロナウイルスが引き起こした混乱は今後数カ月続くと考えられますが、ヘルスケアセクターの強固なファンダメンタルズと力強いイノベーション(革新)が、今後1年間の同セクターの成長を後押しすると見込まれます。

バイオ医薬品業界、特にがん(腫瘍)、免疫学、特定の希少疾患などの分野における画期的なイノベーションは、豊富な投資機会を創出しています。また、主要なメドテック関連企業は重要な医薬品開発を促進させ、支出の増加や新薬候補の急増から恩恵を受けています。さらに、検査関連企業は新型コロナウイルスの検査需要の対応に貢献し、定期医療検査の利便性を高め、早期のがん検診を可能にしています。

重要なのは、医療の提供方法が進化し続けているということです。例えば、米国では数十年かけて、出来高払い(実際に提供した医療の内容に基づく支払い)方式の医療保険制度から医療の質に基づく支払い方式への移行が続いています。この移行は新たなビジネスモデルの促進と、従来よりも低コストの医療モデルの力強い成長力の可能性を支えています。

このように、ヘルスケア分野の様々なサブセクターに追い風が吹いていることに加え、バリュエーション面での下支えが相まって、ヘルスケアセクターの見通しはこれまで以上に明るいものとなっています。

バイオ医薬品

2022年に向けて、バイオ医薬品業界における価値創造の機会はさらに拡大するでしょう。2021年11月に米議会下院で可決されたバイデン政権の看板政策である子育て・教育支援や気候変動に1兆7,500億米ドルを投じる歳出・歳入法案の中に、土壇場で薬価の引き下げに関する法改正が盛り込まれました。このことは高齢者の自己負担の削減や医薬品全般の高騰に対処するための重要な一歩となりました。改革の脅威は、業界向け補助金の増加や価格決定力の低下という形で、過去10年間の大半を通じバイオ医薬品業界のリスクとなってきました。そうした要因から、バイオ医薬品関連の大型株のバリュエーションは総じて、過去最低水準にあります。課題解決に進展がみられたことで、今後は企業の新薬候補(パイプライン)や研究開発全体の生産性が再び注目されるようになるでしょう。

バイオ医薬品関連の中小型株にとっては、2021年は試練の年となりました。注目されていたいくつかの臨床試験の失敗、予期せぬ規制上の決定、高水準のバリュエーション、不安定な相場環境などが引き金となり、2月から株価が大幅に下落し始めました。しかし、2022年を展望すると、業界全体の新薬候補の状況には引き続き期待が持てるでしょう。

基礎科学の進歩、新たな新薬開発ツールの登場、まったく新しい治療法の確立により、現在では重篤な疾患に対する効果の高い医薬品の開発が可能になっています。例えば、抗体薬物複合体(ADC)は、従来の抗がん剤に比べ効き目が高いと期待されており、乳がんなどを対象とする画期的な新薬が発売されています。また、かつてSF(サイエンスフィクション)の中の概念だったゲノム編集の技術は最近、トランスサイレチン型アミロイドーシス と呼ばれる難病を対象とする治療法として、患者の体内で病気の原因となる遺伝子を壊すことに世界で初めて成功したことが報告されています。さらに、新型コロナウイルス禍でインフルエンザやRSウイルス感染症などの一般的な呼吸器系感染症を含むワクチン開発への関心が再び高まっています。

メドテック

メドテック(医療とテクノロジーの融合)分野においても投資機会が見込まれます。新型コロナウイルス禍では、多くのライフサイエンス(生命科学)機器関連企業や臨床検査企業が活躍しました。診断検査機器の開発を手掛ける企業や、新型コロナウイルス感染者の急増に対応する病院向けの救命救急機器を販売する企業が注目を集めました。特にライフサイエンス機器関連企業は、バイオ医薬品の研究開発の増加と、先進治療法の開発を促進させるバイオプロセスの需要 増加を支えているため、ファンダメンタルズは堅調と言えます。

重要なのは、そうした企業の多くが新型コロナウイルス禍の初期よりも力強さを増して混乱を切り抜けるとみられることです。それらの企業の製品・サービスを利用する顧客層の拡大が、今後数年間の経常収益の増加につながると見込まれます。また、世界各国の政府が緊急事態に備えた医療体制を見直すきっかけにもなりました。これは多くの臨床検査企業の新たな需要創出や、ライフサイエンス研究に対する政府の資金援助の増加にもつながっていくと考えられます。

医療機器企業は2021年、メドテックの他の分野に比べ出遅れ感がありましたが、2022年以降は大幅な成長が見込まれます。新型コロナウイルス禍では緊急対応を要しない選択的手術、検査、処置などが延期となるケースが目立ちました。病院からのキャンセルが相次ぎ、患者も治療に二の足を踏んでいました。しかし、そうした需要の減少は患者全体の有病率の低下とは関連しないため、特に大動脈弁置換術、白内障手術、大腸内視鏡検査など、新型コロナウイルス禍以降に治療が延期された分野では、今後数年にわたる需要が予想されます。

メドテック関連企業のイノベーションは新型コロナウイルスの短期的な影響で見過ごされがちですが、かつてないほど勢いを増しています。2020年代は2010年代と比べ極めて多くの魅力的な医療機器分野の成長が加速すると予想されます。今後数年間では多くの企業が対象地域の拡大、新技術の導入、新たな患者集団を治療するための既存技術の利用などにより、獲得可能な市場規模を広げていくと見込まれます。

ヘルスケアサービス

ヘルスケアサービス分野のサブセクターも、新型コロナウイルス禍の初期よりも力強さを増して混乱を切り抜けるとみられます。初期段階では急性期治療、病院、透析など、患者数の動向に連動したビジネスモデルにとって厳しい時期でした。一方、民間の医療保険会社と医療機関をつなぐマネージドケア企業は新型コロナウイルス禍当初、医療機関の利用者が全般的に減少したことでコストが低下し利益増加につながり堅調でした。

ヘルスケアサービス企業は、米国の大きな社会問題の一つである医療費高騰の解決に向けて役割を果たすと考えられます。新型コロナウイルス禍では人間の行動の構造的変化を加速させました。ヘルスケアサービスの利用者は、より低コストでヘルスケアサービスを受ける傾向にあり、今後病院への依存度が低下する見通しです。こうした行動変化を通じ、在宅医療、外来診療、ITソリューション、遠隔診療を手掛ける企業が恩恵を享受できると見込まれます。

この変化は、米国におけるヘルスケアサービスの提供が出来高払い方式から医療の質に基づく支払い方式へと移行している大きな流れの一環と言えます。近年、かかりつけ医と他の医療従事者が協力し、個人の治療・健康管理全般にわたるサービスを提供するビジネスモデルが登場しています。この試みはヘルスケアの成果向上とコスト削減につながる可能性があります。重要なのは、リスクが支払者から提供者に移り、かかりつけ医にはより慎重かつコスト効率の高いケアを提供すべく、患者治療の対価として一定の金額が支払われることです。

2022年のヘルスケア分野におけるESGの考慮

ヘルスケアセクターの今後を展望すると、米国では薬価と医療保険の加入・利用しやすさが2つの潜在的リスクとなっています。これらのリスクを単に政治リスクと見なすこともできますが、評価を徹底するためには幅広いESGの視点が必要です。

薬価

私たちはかねてから米国ではある程度の薬価制度改革が実施されると予想してきましたが、大規模な見直しの可能性は低いと考えます。足元では、改正案はバイオ医薬品業界全体として対処可能なものであり、イノベーション分野にとって追い風という私たちの見解を裏付けるものとなっています。また、(まだ可決されていませんが)提案には市販薬の前年比価格引き上げ率の制限、特定の医薬品に関する政府の適度な直接交渉、高齢者の自己負担額の上限設定などが含まれています。

ESGの観点から見ると、バイオ医薬品業界が直面している最大の問題は薬価です。私たちは、投資先企業とのエンゲージメントにおいて、各社の価格戦略を理解することを重視しています。私たちの企業リサーチでは、医療ニーズが十分に満たされていない分野において革新的な治療薬を開発し収益を伸ばしている企業を特定する一方、主な収益源を価格引き上げに依存している企業を回避するように努めています。薬価制度改革がどのように実行されるのか詳細はまだわかりませんが、市場は最終的に不確実性よりも透明性を好感する傾向にあるため、何らかの解決策が得られれば、バイオ医薬品セクターのバリュエーションを圧迫している不安材料も払拭されると見ています。

医療改革

米国の医療保険制度が大きく改革される可能性は低いでしょう。国民皆保険制度(メディケア・フォー・オール)が実現することは考えにくく、私たちはむしろ医療費負担適正化法(ACA)で初めて導入された既存のインフラの改善を基本シナリオと考えています。医療サービス企業とのエンゲージメントにおいては、コスト上昇に対処し健康増進に向けて企業が果たすべき社会的責任の重要性に焦点を当てています。それには企業がヘルスケアサービスを受けた人数や種類を測定する具体的な指標や、ケアに関する意見を記録するための間接的な指標を示すことが重要になります。

医療費のコスト削減という社会的なメリットに加え、企業がESGの取り組みを重視することはヘルスケアサービスに対する消費者の意識改善に役立ち、ひいてはセクター全体の再評価につながると考えられます。

まとめ

2022年に向けて、ヘルスケアセクターには投資機会が広く存在するとみられます。科学や製品のイノベーション、持続的な景気回復、米国におけるヘルスケアの提供システムの構造変化は、セクターの成長を後押しすると見込まれます。これらの追い風は米国の医療制度改革の内容がより鮮明になるに伴い、長期的な投資収益につながっていくと考えられます。

 

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チャールズ・シードマン

インベストメント・ディレクター