2022年市場展望:オルタナティブ投資

未上場株ユニバースが劇的に拡大している理由

2022-12-31
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下記コメントは2021年11月末(米国時間)時点のものであり、将来予告なく変更される場合があります。


2020年に、未上場株式市場は新型コロナウイルス禍初期の落ち込みからいち早く回復し、その勢いを徐々に増していきました。なかでも、レイトステージ企業(新規株式公開(IPO)などの流動化イベントまでの期間が1~3年程度と予想される企業)は投資家の慎重ながらも楽観的なセンチメントに後押しされました。その勢いは2021年も続き、投資案件とIPOの数は過去最高に達しました。本稿では、新しい年を迎えるにあたり、この未上場株式市場の成長加速について見解を述べさせていただきます。

広い視点から成長を見る

2021年4-6月期に一度の投資募集で1億米ドル超の資金調達(いわゆる、「メガ投資ラウンド」)に成功した企業の数は377社に急増し、前四半期からの伸び率は8%に高まりました。続く7-9月期には、409社がメガ投資ラウンドで合計913億米ドルの資金を調達しました1。さらに、127社の「ユニコーン」(企業評価額が10億米ドル超の未上場企業)が誕生しました。 

より長期で比較すると、2015年7-9月期から4.5倍に増えていることが分かります。事実、メガ投資ラウンドは2021年7-9月期だけで2015年通年のそれの約1.5倍に達しています。つまり、投資案件ユニバースが劇的に増加しているということです。

1 出所:CBインサイツ、「State of Venture 3Q21 Report」。

図表1
大型投資案件の増加により未上場株式市場が拡大

1億米ドル超の資金を調達したメガ投資ラウンドの数

jp-2022-alts-why-the-private-equity-universe-is-expanding-at-big-bang-levels-figure-1

資金調達額が1億米ドル超の投資案件を大型と定義。データは第三者から取得したものです。その信頼性は高いものの、正確性や完全性を保証するものではありません。出所: CBインサイツのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。2021年9月30日時点。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

投資案件急増の要因

その要因の一つは様々なセクターでテクノロジー・ディスラプション(創造的破壊)が起きていることです。2015年当時のレイトステージ企業の大多数はSaaS(サービスとしてのソフトウェア)やモバイル関連でした。ところが今や、テクノロジーによるイノベーション(革新)は、医療、金融、小売、その他多くの分野に及び、かつてないほど多くのレイトステージ企業を生み出しています。

未上場市場の変化を推進する別の要因として、成長の初期段階にある企業が高いバリュエーションで多額の資金を調達する最近の傾向も挙げられます。現在の収益(年換算経常収益)の100倍での資金調達も珍しい例ではなく、年間経常収益(ARR)が1,000万米ドルの企業による10億米ドルの資金調達も不可能ではありません。

そして、最後の要因は上場までの期間が長期化していることです。長期的な成長目標を重視し、最終的には競争力を高めるために、以前よりも長く未上場市場に留まる例が増えています。結果として、2008年以降、米国の上場企業の数が約5,000社から約4,200社に減少したのに対し、未上場企業ユニバースは2倍近くの8,600社に増加しました2 。

重要なのは、上場企業数が増えない理由が、株式公開を希望する企業の減少ではないことです。実際、2021年上半期のIPOと調達資金は過去20年余りで最高でした(図表2)。念のため申し上げると、IPO急増はSPAC(特別買収目的会社)ブームの結果ではありません。クローズド・エンド型ファンドとSPACは上記のデータから除外されています。では、過去1年半に450超ものIPOが行われたにもかかわらず、上場企業数が増えないのはなぜか。私たちは、それは活発な合併・買収(M&A)活動と上場企業の株式非公開化の影響によるもので、未上場企業のIPOに対する意欲の衰えではないと見ています。

従って、レイトステージ企業は引き続き増加し、未上場市場において、その存在感が増すと考えます。同時に、未上場市場の成長加速に過度に反応せず、十分な調査・分析を行い、真に付加価値を生み出せる企業を見極め、手堅い投資を心がけるべきであることも認識しています。

2 出所:ピッチブック、 2020年12月時点。

図表2
米国のIPO件数(年間)

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出所:2002年以降の米国市場での時価総額5,000億米ドル以上のIPO(クローズド・エンド型ファンドとSPACを除く)。出所:ルネッサンス・キャピタルのデータに基づきウエリントン・マネージメント作成。期間:2002年1月1日~2021年6月30日。※上記は過去の実績であり、将来の運用成果・市場環境等を示唆・保証するものではありません。

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マット・ウィットハイラー

プライベートエクイティ・プリンシパル兼セクター・スペシャリスト